"消印は失踪の3日後" 第2話
拓が「お母さんは戻ってくる?」と聞くと、信吾は決まって答えた。
「きていれば、いつか帰ってくる」
その言葉を信じ、拓は毎、母の誕にいをいた。けれど宛先が分からないため、は机の引きしにたまっていった。
やがてはになった。
母の失踪から25がたった2021、拓は33歳になり、名古内の方で正融資や本確認記録を調べる仕事に就いていた。
母の事件を識して選んだ職業ではないつもりだった。それでも、類のさな矛盾を見逃せない性格は、あのから育ったものかもしれなかった。
5のある、勤務の拓に岐阜県警から話がかかってきた。
「旧峰郵便局の解体現で、お母様のものとわれる郵便袋が見つかりました」
拓は窓のを見た。名古のはるくれていたが、の奥では25の音がよみがえっていた。
峰郵便局は2008に庁舎へ移転し、旧局舎はく倉庫として使われていた。建物の老朽化と県の拡幅事がなり、2021に解体が決まった。
分拣の内壁をした作業員が、柱と膏ボードのに押し込まれた緑の郵便袋を発見した。袋は紐で固く縛られ、さな京錠まで掛けられていた。
布の表面には、黒い油性ペンで職員番号がかれていた。
《2417 沢》
広告
失踪当、真紀が使用していた番号だった。
拓が県警へ着くと、活全課の野寺慎という刑事が対応した。50歳の落ち着いた男で、机のには袋から取りされた品が透な証拠袋に分けられていた。
6通の封、4枚の留受領証、黒い表の帳、古い鍵、そして沢真紀宛ての1通のだった。
「この6通は、いずれも樺園という齢者施設の入居者宛てです。ただ、確認できた範囲では、受取はが発送されるにくなっています」
野寺は受領証を並べた。4枚には異なる受取名が記載されていたが、印鑑は同じものが使われていた。
配達先もすべて同じだった。樺園から1キロほどれたにある、誰もんでいない古いだった。
黒い帳には約40分の氏名、、したとみられる付、額が記されていた。した付のあとにも、毎同じ額がきされている物がいた。
や福祉付の額と致する能性があった。
「この鍵は、樺園のものですか」
「現の運営法に確認したところ、旧館の裏に使われていた鍵と形が似ています。ただ、建て替えのものなので、現物との照はできません」
最に野寺が差ししたのは、茶く変した封筒だった。
宛名は《岐阜県峰町央3丁目 沢真紀様》。
広告
差の欄は空で、裏面の封には真紀の指紋が残っていた。
消印は19961121。
真紀が失踪した3だった。
「跡は母のものですか」
「当の勤務記録と比較したところ、ほぼ違いありません。消印も偽造ではなく、隣町の本巣郵便局で実際に押されたものです」
真紀は1121の点できており、隣町まで移していた。警察が川を捜索している、本がをき、郵便ポストへ投函していたことになる。
封筒のにはい便箋が1枚入っていた。肉では何もかれていなかったが、鑑定担当者が線を当てると、央にい文字が浮かんだ。
《拓が受け取った賀状を、全部調べて》
拓はわず野寺を見た。
「私が受け取った賀状?」
「当たりはありませんか」
「普通の賀状なら、毎届きました。でも、母がこんな指示を残したなんてりませんでした」
実へ戻ると、父は台所で夕を作っていた。髪が増え、背もし丸くなっていたが、包丁をかすつきは昔と変わらなかった。
拓が郵便袋の写真を見せると、信吾は包丁を止めた。
「どこにあった」
「旧郵便局の壁の。母さんが失踪して3にいたも入っていた」
信吾はしばらく写真を見つめ、包丁を流し台へ置いた。
「父さんは、母さんがきていたことをっていたの?」
拓が尋ねても、信吾はすぐには答えなかった。
居へ移ると、仏壇のないののに座り、両を膝に置いた。
「そのが見つかったなら、今度は俺が疑われるだけでは済まない」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
5人目だけが若かった
1999年夏、岐阜県の山あいにある青川村で、豪雨による土砂崩れが起きた。 崩れた山肌から現れたのは、黒い縄でつながれた5体の遺骨。村人たちは、それを6年前に行われた古い合葬の名残だと説明する。 しかし鑑定の結果、5体のうち1体だけが明らかに若すぎることが判明した。 老人5人が眠っているはずの棺に、なぜ24歳前後の若い女性が紛れ込んでいたのか。そして、本来そこにいるはずだった5人目の老人はどこへ消えたのか。 口元に押し込まれていた黄色い布、祠の裏道に残された車の痕跡、6年前の夜に聞こえた女の声。 迷信と沈黙に守られてきた山村の秘密が、雨によって少しずつ地上へ押し出されていく――。ミステリー|真実|真相1.9万字5 543 -
完結第12話
ただいまの裏にあった10年
1985年8月15日、新潟県長岡市で、23歳の佐藤健一はいつものように工場を出たまま姿を消した。 自転車も、持ち物も、行き先も分からない。両親の誠とかず子は必死に息子を捜し続けたが、手掛かりは何ひとつ見つからなかった。 それから2年後、痩せ細った1人の男が佐藤家の玄関に立つ。 「ただいま」 失われた息子が帰ってきた――そう信じた両親は、彼を再び家族として迎え入れる。記憶を失っていても、生きて戻ってくれたならそれでいい。そう思いながら、佐藤家は少しずつ穏やかな日々を取り戻していった。 しかし10年後、差出人不明の小包が届く。 中に入っていたのは、小さな遺骨と、父が本物の健一に贈ったはずの腕時計。そして一枚の紙には、こう書かれていた。 「本物の息子さんをお返しします」 8年間、家族として暮らしてきた男は誰だったのか。 そして本物の健一は、あの日どこで何を奪われたのか。 失踪、偽りの帰還、そして名前を越えて残った家族の形を描く物語。ミステリー|行方不明1.7万字5 361 -
完結第10話
27年後、娘は父の葬儀に帰ってきた
1995年、学校帰りの10歳の少女・美穂は、灰色の服を着た女に連れられ、そのまま姿を消した。 母・佐和子は27年間、娘の帰りを待ち続けた。だが夫の正人は、地域では「娘を捜し続ける父」として知られる一方で、どこか不自然な沈黙を守っていた。 そして27年後、正人の葬儀の日。 遺族席の佐和子の前に、見知らぬ大人の女性が現れる。彼女が差し出したのは、美穂が幼い頃になくしたはずの花形の髪留めだった。 「お母さん、迎えに来たよ」 再会のはずの言葉は、なぜか冷たかった。 娘はなぜ母を恨んでいたのか。失踪当日、母を学校から遠ざけた電話は何だったのか。そして、27年間隠され続けた手紙と書類が、家族の嘘を静かに暴き始める――。ミステリー|真相|行方不明1.5万字5 122 -
完結第10話
消えた母と2800万円
1998年12月25日、長野県の信用金庫で働く宮本佳代は、給料日の夜に突然姿を消した。 支店では2800万円が消えたと騒ぎになり、佳代は現金を持ち逃げした女性行員として扱われる。家に残された娘の奈緒は、母が用意していたクリームシチューとケーキを前に、帰らない母を待ち続けた。 3日後、千曲川の河原で見つかった母の靴と赤い囲巾。さらに東京行きの片道切符、夫の証言、不自然な借金整理――すべてが「母は家族を捨てて逃げた」と示しているように見えた。 それから23年後。 閉鎖された商店街の地下から、古い貸金庫が発見される。中に入っていたのは、佳代の印鑑、12冊の通帳、そして奈緒が生まれる前に作られたはずの“存在しない口座”だった。 母は本当に2800万円を盗んだのか。 あの夜、灰色の箱に入っていたものは何だったのか。 娘の奈緒が23年越しにたどり着いたのは、信用金庫、父、そして町全体が隠してきた、あまりにも残酷な真実だった――。ミステリー|真相1.5万字5 220 -
完結第11話
7人の妊娠と密封された患者服
2011年、富山県の山あいにある黒部女子刑務所で、信じがたい事件が発覚した。 男性との接触が厳しく制限された隔離区画で、7人の女性受刑者がほぼ同時期に妊娠していたのだ。 監視カメラはなぜか壁だけを映し、薬の管理記録には説明のつかない空白が残されていた。だが、疑惑の中心にいた医務課長・九条匠は完璧な記録と証言に守られ、事件は証拠不十分のまま闇へ葬られていく。 声を奪われた7人の女性たち。真相を追いながら左遷された刑事。社会的成功を手にし、15年間“勝者”として生き続けた男。 そして2026年、死を目前にした元警備課長が残した一つの鉄箱によって、封じられていた過去が再び動き出す。 永久に開かれないはずだった患者服の中に、15年間眠り続けていた小さな証拠とは――。ミステリー|真実1.6万字5 410 -
完結第11話
消えた神童、10年後の手紙
2001年秋、北陸の小さな町で、サッカーの才能を持つ10歳の少年・立花陸が、父・剛とともに突然姿を消した。 数日後、海辺の岸壁で見つかった白いバン。車内には父の作業服と、陸のスパイクが片方だけ残されていた。やがて町では、「父が息子を連れて海へ入ったのではないか」という噂が広がり、母のゆみ子は長い孤独と偏見の中で10年を過ごすことになる。 しかし、失踪から10年後。 ゆみ子のもとへ、ドイツから一通の手紙が届く。 そこに書かれていたのは、信じられない一文だった。 「私の名前は陸です。ドイツで暮らしています」 海に消えたはずの息子は、なぜ異国で生きていたのか。車に残された片方のスパイクは、本当に陸のものだったのか。そして、父・剛が最後に守ろうとしたものとは何だったのか。 10年前に見落とされた小さな違和感が、封じられていた事件の真相を少しずつ暴き出していく――。ミステリー|真相1.7万字5 193 -
完結第12話
消えた妻と13本のテープ
1997年10月、島根の山あいの町で、32歳の主婦・松本千鶴が同窓会へ向かったまま姿を消した。 夫は「昔の男と逃げたのではないか」と語り、届け出は3日遅れた。会場に千鶴が来ていたかどうかも証言は食い違い、唯一の手がかりだった防犯映像はすでに上書きされていた。 母に捨てられた娘として成長した栞。だが、千鶴を忘れられなかった人物がもう1人いた。かつての担任教師・川井は、毎年10月4日になると、存在しない住所からラジオ局へ同じ曲をリクエストし続けていた。 そして13年後、孤独死した川井の遺品から、1997年から2009年までの年号が書かれた13本のカセットテープが見つかる。 そこに残されていたのは、千鶴が消えた夜を知る男の、あまりにも遅すぎる告白だった。 同窓会の夜、千鶴は本当にどこへ向かったのか。なぜ元担任は13年間も沈黙したのか。 「母は私を捨てたのではない」――娘がその真実に辿り着くまでの、13年越しの記録。ミステリー|真相1.8万字5 2599 -
完結第10話
消えた嫁と浅すぎる墓
1993年正月、青森の山あいの村で、武田家の嫁・すみ子が墓参りの後に姿を消した。 夫は「家出した」と届け出たが、財布も行き先もはっきりせず、すみ子の消息はそのまま途絶えた。嫁姑の不仲、夫の無関心、そして雪深い村に残された小さな違和感――しかし当時、誰もそれを深く追おうとはしなかった。 それから7年後。 道路拡張工事で古い共同墓地を移すことになり、すでに亡くなっていた姑・松子の墓が掘り返される。ところが、棺のさらに下から見つかったのは、そこにあるはずのないもう一人の骨だった。 花柄の着物、頭に残された不自然な傷、そして7年前に「墓を深く掘らないで」と叫んだ娘の記憶。 正月の雪山で、武田家の女たちに何が起きたのか。 家族という名の密室に封じられていた真実が、7年越しに土の中から姿を現す――。ミステリー|真相1.5万字5 379