"消された合格通知" 第4話
学が過を取り消して入学資格を戻すことはできない。ただ、審査結果と当の経緯を面で回答することはできるという。
直はその返事を待ちながら、駅裏のさなベーカリー《舟》で働き始めた。主の榊は歳で、求票には午から午、残業は程度とあった。
「族のでなら、うちのやり方が窮屈にじるかもしれない」
面接で榊はそう言った。
「を記録するで働いたことがないので、むしろ鮮です」
榊は笑わなかった。「それは笑う話じゃない」と言い、雇用契約を項目ずつ説した。
初、直は何度も失敗した。実では覚で許された発酵を数値で報告し、アレルゲン表示をで照する。自分の腕に自信があったのに、管理の記録にはらないことがかった。
榊は褒めすぎなかった。「成形は速い。でもに教える、理由をばす癖がある」と指摘した。直は初めて、父のでにつけたもののに、技術だけでなく悪い習慣もあるとった。
その指摘は、翌週の失敗でよく分かった。直はの宋に「いつものさまで捏ねて」と指示したが、宋には直の「いつも」が分からない。は過剰に捏ねられ、焼きがったパンの内側にきな空洞ができた。
実なら父はを鳴り、直も自分の指示を疑わなかっただろう。
広告
榊は廃棄数を記録したあと、直へ「教えたことと、伝わったことは別だ」と言った。
直は翌から、温度、、触りを写真と文章で残した。宋にも分かりにくい箇所へ印をつけてもらった。最初は、自分の技を細かく言葉にすれば価値を奪われるようながあった。しかし共した方が、直が休みのにも同じ品質を保てた。
「しか作れない商品は、そのの誇りにはなっても、のさにはならない」と榊は言った。
直は、父が自分を放せなかった理由をし理解した。昭は技術を教えず、息子をへ縛ることで守ったつもりだったのだろう。理解できても、正しかったことにはならない。その区別をつけられるようになっただけでも、へたはあった。
方、《麦の灯》では問題が起きていた。拓はホテルでパティシエをしていたが、パンの量製造経験は浅い。直の引き継ぎ表どおりに作っても、湿度のいはが緩み、塩麹あんパンの底が割れた。
昭から話が来た。
「週だけ朝を伝え。当は払う」
「業務委託の内容と額をメールで送って」
「親子で契約がるのか」
「親子だからる」
昭は話を切った。翌朝、は予約分の個をキャンセルし、SNSにはが変わったという投稿が並んだ。
直はべなかった。
広告
自分が壊したいのはではない。自分がいなければ何もできないといらせることでもない。そこへ戻る理由が、罪悪しかない状態を終わらせたかった。
か、昭は商会の集まりで「男がレシピを持ち逃げした」と話した。その噂は《舟》にも届いた。
榊は直を呼び、「事実を全部聞かせて」と言った。直は格通、許諾、、労働相談の経緯を見せた。
「うちで塩麹あんパンを売るつもりはある?」
「ありません。同じ物をせば、父の話を補するだけです」
「なら仕事は続けていい。ただし、持ち込んだノートはの材料棚に置かない。公私を分けよう」
その判断は直を救った。榊は父を悪と決めつけず、直を無条件で正しいとも言わなかった。だから信じられた。
直は労働局の助言を受け、未払い残業代について内容証を送った。請求は記録で裏づけられる範囲に絞った。昭は「養ってきた費と賃を差し引けば、こちらが請求したいくらいだ」と返した。
代理を通した話しいは回続いた。全面勝利にはならなかった。古い期は記録がなく、直も族従業者として税務処理されていた期がある。最終には直分の部を解決として分割払いし、退職妨害に当たるを撤回した。
回目の話しいで、昭は直が卒業も実で事をし、費を払っていなかった覧を持ってきた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 703 -
完結第15話
義妹が奪った父のベンツ――事故の電話で義母が絶句
義母や義妹の身勝手な要求に耐えてきた由美。ある日、亡き父の形見であるベンツの鍵を義母に取り上げられ、義妹の美穂に渡されてしまう。車の位置情報を調べると、向かった先はレストランではなく港の倉庫街。無断で売却しようとしていることを知った由美は、弁護士とともに証拠を集め始める。ところが夫まで関与していたうえ、生命保険の受取人を変更しようとした疑いも浮上。そんな中、ベンツが事故を起こしたという電話が入る。義母が電話口で放った信じられない一言をきっかけに、家族が隠していた本当の思惑が明らかになっていく。兄弟姉妹|嫁姑|修羅場2.1万字5 18 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 640 -
完結第20話
葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡
物流センターの事故で夫・直人を突然失った41歳の美和。しかし義母の数枝は、妻である美和に夫の顔を見ることすら許さず、葬儀を強引に取り仕切る。さらに葬儀の三日後、香典三百万円以上を独占し、13歳の娘・咲と美和を雨の夜に家から追い出してしまう。 絶望の中、親友に助けを求めた美和のスマートフォンに、午前四時、信じられないメッセージが届く。 「生きてる。母には言うな」 送信者は、火葬されたはずの夫だった。 閉ざされた棺の中にいたのは誰なのか。義母が隠そうとしたものとは――。夫の事故をめぐる疑惑と家族の裏切りを描く、衝撃の逆転サスペンス。因果応報|嫁姑|夫婦|親子関係|金銭問題2.3万字5 453 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 182 -
完結第13話
返せなかった六百二十円
昭和二年、金融恐慌に揺れる東京・神田。銀行員の徳田美佐は、取り付け騒ぎのさなか、印刷所を営む父が請求した預金六百二十円だけを、自分の判断で留めてしまう。 給金を払えなくなった父の工場では職人が去り、父娘の間にも深い溝が生まれる。さらに銀行は「いつでも全額払える」と記した宣伝紙を配り、美佐が認めていない報告書には「確認済」の印が押されていた。 自分の過ちと、銀行が隠そうとする事実。美佐は職を失う覚悟で真相に向き合うことになる。時代|歴史|昭和|親子関係2.8万字5 183 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 1478 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 324 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 1256