"消された合格通知" 第5話
万円を分計算し、「こちらの負担は百万円だ」と主張した。
担当者は、扶養や同居の問題と賃の支払いは分けて考える必があると説した。昭は納得せず、「族を数字で切るなら、全部数字にする」と声をげた。
直はそこで、父の俵に乗りそうになった。自分がの売へどれだけ貢献したか、父が腰を痛めたに何休まず働いたか、母の通院へ何回付き添ったか。すべて並べて勝ちたくなった。
代理は休憩に言った。「親孝の値段を決めるではありません。今回扱うのは、働いたと退職の条件です」
直は請求から、証できない分を自分でした。額は減ったが、父に負けたとはわなかった。りをきく見せるために確かな主張を混ぜれば、結局は父と同じように都のよい物語を作ることになる。
回目、昭は最まで謝らなかった。ただ、分割払いのへ署名するに、「これで親子も終わりだな」と呟いた。
直は「賃の話を終わらせるだけだ」と答えた。親子を続ける条件として権利を諦めるつもりはなかったし、を受け取ったから父を憎み続ける義務もなかった。
レシピの表示についてはできなかった。昭は「の材料と設備で完成した」と主張し、直もで改良した事実は認めた。
広告
ただし《拓がんだ》という広告は事実と異なるため、商会の媒体からは削除された。
拓は直を責めた。
「兄さんのせいで、取引先から説を求められた。父さんは血圧ががって倒れかけた」
「俺が署名を真似たのか。俺が取材で嘘を話したのか」
「族の問題をへ持ちしたのは兄さんだ」
「で話しても、族のためにしろと言われた」
拓は話の向こうで息を荒くした。「じゃあが潰れれば満か」と言った。
直は拍置いて答えた。
「潰れてほしくない。でも、俺が戻らないと潰れるなら、戻って延命することが正しいともわない」
その、《麦の灯》は定休を週からに増やした。テレビで紹介された効果がれると客は落ちたが、は潰れなかった。拓は商品を種類減らし、部の製パン講習へ通い始めた。
母からは毎週、いメッセージが来た。《元気ですか》《寒くなりました》《お父さんの膝が悪くなりました》。謝罪の言葉はなかった。
末には、実から凍便が届いた。塩麹あんパンと、母が毎作る黒豆が入っていた。送り状の依頼主は父の名だった。
直は黒豆だけを保容器へ移し、パンは職へ持っていった。べないことで族を拒絶した証にするのも、懐かしいに負けて帰るのも違うとった。
宋は何もらずにべ、「餡はおいしいけれど、皮がし乾いていますね」
広告
と言った。理は「直さんならどう直す?」と尋ねた。
直は答えかけてやめた。「今は、向こうで考えることだよ」と言った。をさないことは、見捨てることとは違う。弟が自分で失敗し、自分で直す余を奪わないことでもあった。
直は既読だけつけた。返事をしないことを罰にしたいわけではない。今まで母の寂しさを埋めるために返事をしてきた自分を、いったん止める必があった。
《舟》で半働いた頃、榊はに度、商品を任せてくれた。直が最初に作ったのは、柚子胡椒と噌を使った惣菜パンだった。
自信はあった。しかし初の販売数は個個。試した常連客は「面いけれど、朝にはい」と言った。
実なら、父が客の好みを分かっていないとり、直は黙って配を変えただろう。今は販売と購入層を記録し、榊や販売担当の理と話した。夕方用にさくし、噌を減らすと、回目から売り切れるようになった。
「塩麹あんパンより売れないな」
直が言うと、榊は「比べる相が分の記憶なら、半の商品が負けるのは普通」と答えた。
商品の売表を初めて自分で作ると、材料費だけでなく包装、廃棄、販売員のまで数字に表れた。実では父が「売れている」と言えば、それが利益のだった。
直は自分のパンを守るためにも、だけではりないとった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
現地払いの還暦旅行
旅行会社に勤める弘志は、義父の還暦祝いに伊豆の高級ホテルを手配する。ところが旅行当日、義父母と義姉、さらには妻の優希までが、駅で「お前はもう帰れ」と弘志を追い返した。 屈辱をこらえて帰宅した弘志のもとに、妻から不可解なメッセージが届く。一方、義家族はホテルで高級料理や酒、エステを次々と注文していた。 しかし彼らは、旅行のしおりに記された重要な支払い条件を見落としていた。チェックアウトの日、彼らを待ち受ける驚愕の請求と、妻が隠していた秘密とは――。人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場2.8万字5 703 -
完結第15話
義妹が奪った父のベンツ――事故の電話で義母が絶句
義母や義妹の身勝手な要求に耐えてきた由美。ある日、亡き父の形見であるベンツの鍵を義母に取り上げられ、義妹の美穂に渡されてしまう。車の位置情報を調べると、向かった先はレストランではなく港の倉庫街。無断で売却しようとしていることを知った由美は、弁護士とともに証拠を集め始める。ところが夫まで関与していたうえ、生命保険の受取人を変更しようとした疑いも浮上。そんな中、ベンツが事故を起こしたという電話が入る。義母が電話口で放った信じられない一言をきっかけに、家族が隠していた本当の思惑が明らかになっていく。兄弟姉妹|嫁姑|修羅場2.1万字5 16 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 638 -
完結第20話
葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡
物流センターの事故で夫・直人を突然失った41歳の美和。しかし義母の数枝は、妻である美和に夫の顔を見ることすら許さず、葬儀を強引に取り仕切る。さらに葬儀の三日後、香典三百万円以上を独占し、13歳の娘・咲と美和を雨の夜に家から追い出してしまう。 絶望の中、親友に助けを求めた美和のスマートフォンに、午前四時、信じられないメッセージが届く。 「生きてる。母には言うな」 送信者は、火葬されたはずの夫だった。 閉ざされた棺の中にいたのは誰なのか。義母が隠そうとしたものとは――。夫の事故をめぐる疑惑と家族の裏切りを描く、衝撃の逆転サスペンス。因果応報|嫁姑|夫婦|親子関係|金銭問題2.3万字5 452 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 182 -
完結第13話
返せなかった六百二十円
昭和二年、金融恐慌に揺れる東京・神田。銀行員の徳田美佐は、取り付け騒ぎのさなか、印刷所を営む父が請求した預金六百二十円だけを、自分の判断で留めてしまう。 給金を払えなくなった父の工場では職人が去り、父娘の間にも深い溝が生まれる。さらに銀行は「いつでも全額払える」と記した宣伝紙を配り、美佐が認めていない報告書には「確認済」の印が押されていた。 自分の過ちと、銀行が隠そうとする事実。美佐は職を失う覚悟で真相に向き合うことになる。時代|歴史|昭和|親子関係2.8万字5 183 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 1476 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 324 -
完結第20話
山奥の身代わり花嫁
29歳の水野美緒は、幼い頃から姉ばかりを優遇する両親のもとで、家事と仕事に追われる日々を送っていた。 ある日、姉が見合いの直前に逃げ出し、美緒はその身代わりとして山奥の男に嫁ぐよう命じられる。逆らえば家にも戻れない。古い鞄一つで送り出された美緒だったが、たどり着いた先は想像もしなかった大きな屋敷だった。 しかも門が開いた瞬間、使用人たちが深々と頭を下げ、「お帰りなさいませ、奥様」と迎えた。 まだ結婚の返事すらしていない美緒を、なぜ彼らは待っていたのか。そこには、家族が隠していた縁談の秘密があった。人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生|親子関係2.8万字5 1255