"開けなかった手紙" 第5話
正を過ぎた頃、波島には珍しくが積もった。
初はくくなる程度だったが、夜になるとがまり、翌朝には着きまでが残った。
も荒れた。
渡しは欠航した。
翌も。
その次のも。
3、波島と本を結ぶ便は途絶えた。
4目の朝。
ようやく波が落ち着いた。
良平がをす準備をしていると、正吉がいつもの黒い郵便鞄を抱えてやって来た。
「こんなにまで来るんですか」
「3分ある」
「島のだって今は来ないとってますよ」
「郵便はそういうもんじゃない」
正吉はへ乗り込んだ。
波島へ着くと、にはまだが残っていた。
坂を自転でるのは危ないため、正吉は最初から押して歩いた。
源次郎のに着く頃には額に汗が浮かんでいた。
「崎さん」
「おう」
「今は忙しいぞ」
正吉は鞄から3通の封筒をした。
阪。
尼崎。
堺。
源次郎は縁側に3通を並べた。
しばらく眺め、珍しく声をげて笑った。
「急に忙しくなったな」
正吉も笑った。
だがそのの夕方、いがけないことが起きた。
源次郎が、自分から港までりてきたのである。
「源さん?」
良平が目を丸くした。
老が港まで来ることなど、何もなかった。
源次郎はの向こうを見ながら言った。
「役に言ってくれ」
「何を?」
「俺もる」
正吉はしばらく声がなかった。
「島を?」
「ああ」
「阪へくのか」
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「堺だ」
「娘さんのところ?」
「ああ」
「急にどうした」
源次郎はし考えた。
「がなくなるからな」
「なくなるわけじゃない。減るだけだ」
「分かっとる」
老は港を振り返った。
「俺1のために、も郵便も残れとは言えん」
「そんなこと誰も言ってない」
「俺が分かっとる」
それから、さく笑った。
「島に残る理由より、る理由の方がくなった。それだけだ」
源次郎が島をると決めたという話は、翌には残っていた全員へ伝わった。
「源さんまでるんか」
港くの老婆が驚いた。
「あのだけは最まで残るとってた」
正吉も同じことをっていた。
島で番頑固な男が決めたことで、ほかの老たちの気持ちもしいた。
までに本へ移る者。
息子のへく者。
娘夫婦のくに部を借りる者。
役の職員が何度説しても決まらなかった話が、源次郎の言をきっかけに急にみ始めた。
源次郎は毎しずつを片づけた。
きな具はほとんど持っていかない。
古い箪笥も、農具も、い鉢もそのまま残すことにした。
正吉が配達に来るたび、玄関の荷物が増えていた。
「それだけか?」
ある、正吉が聞いた。
畳のには柳李が2つ並んでいるだけだった。
「娘のに何でもある」
「何もんで、それで全部か」
「持っていってどうする」
源次郎は淡々としていた。
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しかし捨てられない物もあった。
妻の位牌。
古い族写真。
子どもたちが学だった頃の通表。
そして仏壇の横に積んだ。
正吉はそれを見て笑った。
「それは持っていくんだな」
「当たりだ」
「まだ読んでないの、何通ある」
「数えたことない」
「100通はあるだろ」
「もっとあるかもしれん」
源次郎は呂敷を広げ、束を1つずつ置いていった。
男。
次男。
娘。
差ごとに紐でまとめられている。
正吉も伝った。
呂敷の隅を持ちげると、ずっしりと腕にみがかかった。
「って、こんなかったか」
源次郎が笑った。
「何分あるとっとる」
を片づけながら、昔の物が次々にてきた。
娘が学で使っていた赤い箱。
男が学卒業のにもらった記品。
妻が若い頃に使っていた裁縫箱。
どれも持っていこうとすれば持っていけた。
だが源次郎はに取ってしばらく眺めると、元の所へ戻した。
「いいのか」
「まで消えるわけじゃない」
「誰もまんぞ」
「それでもはある」
正吉は返事をしなかった。
島をれるは、何を持っていくかではなく、何を置いていくかを決めなければならない。
源次郎にとって、それはっていた以にい作業だった。
3がづく頃、のはしずつ空っぽになっていった。
柱には、子どもたちの背丈を刻んだ傷だけが残った。
番には男の名。
そのしに次男。
さらにに娘。
付まで鉛でかれていた。
「消さないのか」
正吉が聞くと、源次郎は呆れたように言った。
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