"開けなかった手紙" 第6話
「誰が消すか」
3最の曜。
娘が堺から迎えに来た。
50歳を過ぎた娘は、父親の荷物のなさを見て眉をひそめた。
「本当にこれだけ?」
「分だ」
「布団は?」
「そっちにあるんだろ」
「あるけど……」
娘は部を見回した。
そして呂敷包みを持ちげようとして、驚いた。
「何、これ」
「」
「?」
「おらが送ってきたやつだ」
娘の表が変わった。
「全部取ってあったの?」
「ああ」
「読んだ?」
源次郎は答えなかった。
娘は父親の顔をじっと見た。
「まさか」
正吉は横で咳払いをした。
「その話は、に乗ってからにした方がいい」
源次郎は素く呂敷を閉じた。
昭503。
波島で毎運航されてきた渡しの、最のが来た。
港には、いつもよりくのがいた。
すでに島をれ、本で暮らしていたたちも何か戻ってきていた。最の定期便を見送るためだった。
「こんなにがいるの、久しぶりですね」
良平が桟から島を見て言った。
正吉も頷いた。
かつて祭りや運会になれば、この何倍ものが集まった。
それでも今では、これだけの数がいるだけで港が賑やかに見えた。
源次郎は朝くからのを見回した。
縁側。
妻が使っていた台所。
空になった仏壇の所。
柱に残る子どもたちの背丈。
何も毎見てきたものばかりなのに、その朝はどれも違って見えた。
荷物は玄関に並んでいた。
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柳李。
妻の位牌。
数枚の写真。
そしてきな呂敷包み。
源次郎は最に戸を閉めた。
鍵をかけたあと、しばらく玄関のにっていた。
娘は急かさなかった。
坂をりる途、閉した学のでを止めた。
3の子どもたちが、このを何度くぐっただろう。
男の入学式。
次男が運会で転び、膝を擦りむいた。
娘が卒業証を抱えて帰ってきた。
どの記憶にも、妻がいた。
「お父さん」
娘に呼ばれ、源次郎は歩き始めた。
港では昔のりいたちが待っていた。
「源さん、元気でな」
「堺ったら都会だな」
「阪じゃない。堺だ」
いつもの調子で言い返すと、笑いが起きた。
源次郎は1ずつをげた。
良平が呂敷を持ちげ、顔をしかめた。
「これ、本当になんですか」
「そうだ」
「でも入ってるみたいですよ」
「のを扱いするな」
源次郎が言うと、また周囲が笑った。
やがて発のがづいた。
源次郎がへ乗ろうとしただった。
「崎さん」
正吉が呼び止めた。
「ん?」
「最の郵便だ」
正吉は黒い鞄から1通の封筒を取りした。
堺から。
娘の字だった。
源次郎は隣につ娘を見た。
「お、にいるのに何でした」
娘は笑った。
「最くらい、さんに届けてもらおうとって」
源次郎は封筒を受け取った。
いつものように呂敷へ入れようとした。
しかし、が止まった。
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の発をらせる鐘が鳴る。
正吉が笑った。
「それも読むのか」
源次郎はしばらく封筒を見ていた。
やがて端へ指を差し込んだ。
正吉は驚いた。
老がをそのでいたのは、初めてだった。
便箋は1枚だけだった。
源次郎は目を細め、ゆっくり読んだ。
そして途で笑った。
「何ていてあるんです?」
良平がわず尋ねた。
源次郎は便箋を正吉へ渡した。
そこには娘の字で、くかれていた。
《お父さんへ。》
《部はもう用しました。》
《仏壇も置けます。》
《今度からはをきません。》
《同じで話せるから。》
正吉は便箋から顔をげた。
源次郎は島を見ていた。
閉した学。
閉じた雑貨。
自分の。
段々畑。
妻と何も歩いた坂。
全部が港から見えた。
良平がエンジンをかけた。
がゆっくり岸をれる。
正吉は港に残り、子を取った。
「崎さん!」
源次郎が振り返る。
「、ちゃんと全部読めよ!」
源次郎はきな呂敷を叩いた。
「これから忙しいんだ!」
のから笑い声が聞こえた。
波島をた源次郎は、そのの夕方には堺にある娘のへ着いた。
駅からしれた宅だった。
島のほど広くはない。
隣のとのも狭く、窓をければ向こうの洗濯物が見える。
源次郎には何もかもがくじられた。
の音。
子どもの声。
自転のベル。
夕方になっても、からの気配が消えない。
娘が用した部には、さな箪笥と布団が置かれていた。
窓際には仏壇を置く所まで空けてある。
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