"開けなかった手紙" 第7話
「ここでいい?」
娘が聞いた。
「分だ」
「本当に?」
「島のをそのまま持って来られるわけじゃない」
源次郎は位牌を置いた。
その夜、呂敷ののも部の隅へ運んだ。
翌朝。
源次郎は誰かに肩を揺すられて目を覚ました。
「おじいちゃん」
目をけると、学の孫がっていた。
「何だ」
「起きて」
「まだい」
「学」
「俺は学にかん」
「送って」
源次郎は布団のから娘を呼んだ。
「おい!」
台所から返事が来た。
「今だけお願い!」
「聞いとらんぞ!」
「昨言った!」
「聞いてない!」
「じゃあ今言った!」
源次郎は布団のでしばらく黙った。
30分。
孫と並んで学へのを歩いていた。
信号で止まり、横断歩を渡る。
島にはなかった交通量に源次郎は何度もを確認した。
途で孫が友達に会った。
「僕のおじいちゃん。島から来たんだ」
「島?」
「でくところ」
源次郎はし照れた。
午になると、今度は迎えにかされた。
翌も。
その次のも。
3目の夜。
源次郎が部へ戻ると、孫が呂敷をいていた。
「何してる!」
「見てた」
「勝にけるな」
孫のには、数に娘が送った封筒があった。
すでに封が切られている。
「おじいちゃん、これ読んでなかったんでしょ?」
「これから読むんだ」
「いっぱいあるよ」
「11通でいい」
孫は首を傾げた。
「全部読めばいいじゃん」
「楽しみがなくなる」
「は僕を学へ送るんでしょ?」
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源次郎が黙った。
「帰りも迎えに来てって、お母さん言ってたよ」
「聞いとらん」
「今言った」
翌。
孫はまた別の封筒をけた。
その次のには娘まで緒になった。
「あ、これ私が3にいたやつ」
「返事はしたぞ」
「内容読まずに返してたの?」
「だいたい分かる」
「分かるわけないでしょう」
娘が笑った。
孫も笑う。
源次郎も最には笑った。
何も切に残してきたは、わずか数で次々とかれていった。
それでも議と、惜しいとはわなかった。
朝になれば孫が起こしに来る。
学へ送る。
帰りは迎えにく。
買い物を頼まれる。
夕方には誰かが話しかける。
卓には3分の茶碗が並ぶ。
を残しておかなくても、の用事があった。
その、波島から定者はいなくなった。
島そのものがなくなったわけではない。
も残っている。
畑もある。
も港も消えていない。
ただ、毎朝戸をけるがいなくなった。
洗濯物を干すがいない。
坂で隣に声をかけるがいない。
夕方になっても、々に灯りがつかない。
毎運航されていたは曜を決めた便へ変わり、正吉も朝ごとに島の坂をることはなくなった。
最初の頃、体だけが習慣を覚えていた。
朝9になると、無識に波島宛ての郵便を探してしまう。
だが仕分け棚に、島の民の名はもうほとんどなかった。
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「寂しくなりましたね」
良平が本の港で正吉に言った。
「の仕事はあるだろ」
「ありますけど、とは違いますよ」
良平も々、墓参りへく元島民を乗せて波島へ渡った。
には、かつてんでいたのを刈るために戻るがいる。
盆になると墓へを供えに来るもいる。
だが夕方になれば、また皆で本へ戻る。
島に夜を迎える民はいない。
数が過ぎた。
閉した学の庭にはさらにが伸び、港の雑貨の板は褪せた。
段々畑の部は荒れ、垣の隙から雑が伸び始めた。
それでも島を訪れたには、そこにかつて暮らしがあったことが分かる。
柱の傷。
錆びた物干し台。
玄関脇の郵便受け。
使われなくなった井戸。
正吉は折、源次郎のをいした。
仏壇の横に積まれた封筒。
「に1通残しておけば、起きる理由がある」
あの言葉を聞くまで、正吉はとは届いたに読むものだとっていた。
郵便配達員として何も働いてきたのだから、当然だった。
だが源次郎にとって、封筒はを読むから役目を持っていた。
そこに置いてあるだけで、の予定になる。
まだらない言葉がに入っている。
それだけで、次のまで取っておける楽しみになる。
正吉はそんなもあるのだと、初めてった。
やがて正吉自にも、退職のがづいた。
何かして、正吉は郵便配達員を退職した。
最の勤務を終えた、く使ってきた黒い鞄を棚へ戻した。
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