"開けなかった手紙" 第11話
源次郎はもう、翌まで楽しみを保する必がなかった。
予定は勝に向こうからやってくる。
族が頼み事をする。
孫が話しかける。
犬が散歩を待っている。
島にいた頃なら、自分の好きなに起き、好きなに畑へることができた。
今の方が自由なのかもしれない。
けれど正吉には、源次郎がその自由をし楽しんでいるようにえた。
昼。
墓の刈りを終えたたちが、港くへ集まり始めた。
皆で弁当を広げた。
誰かが持ってきたみかんを回し、昔話が始まった。
「あそこの坂で自転ごと転んだ」
「学の先が台のにに乗れなくて、3休みになった」
「雑貨の親父は釣り銭をよく違えた」
「そんなことない。おが払わなかっただけだ」
笑い声が港に響いた。
正吉はしれた所から、その景を眺めた。
瞬だけ、昔の波島が戻ってきたように見えた。
学は閉じている。
雑貨もない。
診療所もない。
夕方になれば、全員がで帰る。
それでも、そのだけはの声があった。
昼過ぎ。
帰りののになった。
皆が桟へ向かった。
さっきの男の子が、母親に尋ねていた。
「また来る?」
「来もお墓参りに来るよ」
「ここにめないの?」
母親はし困った顔をした。
「めないことはないけど……学もおもないからね」
男の子は島を振り返った。
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「昔はあったんでしょう?」
「あったよ」
「じゃあ、また作ればいいじゃん」
母親は何も答えなかった。
正吉も答えられなかった。
暮らしというものは、を建てれば戻るわけではない。
学を1つ作れば戻るものでもない。
そこに毎朝起きるがいて、事を作り、働き、喧嘩をし、病気になり、子どもを育て、誰かの帰りを待つ。
そうしたさな々が何も積みなって、初めて「暮らし」になる。
波島から失われたのは、の数だけではなかった。
その積みねだった。
良平がエンジンをかけた。
が岸かられる。
正吉は甲板から島を見ていた。
かつて源次郎がっていた所と、ほとんど同じ所だった。
あのの老も、こうして最まで島を見ていた。
泣かなかった。
声で別れを惜しむこともしなかった。
ただ何分もの暮らしを、目に焼きつけていた。
波島がしずつざかる。
学の根がさくなる。
港も見えなくなる。
やがて島は、のの緑の塊になった。
正吉はふとった。
がいなくなれば、郵便も届かなくなる。
宛名をく相がいなければ、も来ない。
郵便配達員として働いていた頃、正吉は自分の仕事を、を運ぶ仕事だとっていた。
けれど本当は、し違ったのかもしれない。
「元気でいる」
「帰ってこい」
「今度孫がまれる」
「体に気をつけろ」
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「また会おう」
そういう言葉を、からへ運んでいた。
島からが消えた、郵便がなくなったのではない。
言葉を届ける相が、別の所へ移っただけだった。
源次郎へのは、もう波島には来ない。
堺のへ届く。
あるいは、同じ卓で直接にされる。
「ご飯できたよ」
「犬の散歩お願い」
「今、学でな」
封筒さえ必ない言葉になった。
正吉はざかる島を見ながら、さく笑った。
源次郎が最のをそののうちにいた理由を、今になってもう度理解した気がした。
まで取っておく必がなかった。
になれば、誰かが話しかけてくれる。
にも、その次のにも。
昔の波島には、そんな毎が当たりにあった。
それを失った老は、未封ののに「」を残した。
そして島をれたに、もう度それをに入れた。
ので、良平が振り返った。
「さん」
「なんだ」
「また来来ます?」
正吉はし考えた。
「さあな」
「源さんみたいなこと言いますね」
正吉は笑った。
「じゃあ、こう言っとくか」
「何です?」
正吉はくなった波島を見た。
「の楽しみにしておく」
良平が吹きした。
はそのまま本へ向かった。
波島に、もう毎朝920分の郵便配達員は来ない。
けれどの向こうには、あの島で暮らしたたちのがあり、族がいて、を待つがいる。
そして々、誰かが島へ戻ってくる。
墓のを刈るため。
古いを見るため。
子どもや孫に、自分が育った所を見せるため。
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