"母が守った「4人目」" 第4話
「まさか……」
昭夫は甕いっぱいの袋を見た。
そしてようやく、自分が3まったく違うものを見ていたのではないかとい始めた。
「母ちゃん」
富美がゆっくり顔をげる。
昭夫は、聞くのが怖かった。
「兄ちゃんの分……俺たち、度もべてなかったのか?」
富美は、すぐに頷いた。
「粒も、というわけじゃないよ」
昭夫が顔をげる。
「どういうこと?」
「古くなったら入れ替えてたから」
配された糧を何もそのまま置けば、虫がついたり傷んだりする。だからしい配が来るたびに、富美は正のために取っておいた袋のを確認し、古いものを族の事へ回していた。その代わり、同じ量だけしい米や雑穀を甕へ入れた。
つまり3、この甕にはいつも「正分」が残るようになっていた。
「何で……」
昭夫はそれしか言えなかった。
「俺たち、腹減ってたじゃないか」
「うん」
「母ちゃんだってべてないあっただろ」
「あったね」
「なのに何で!」
富美は膝ので両を組んだ。
そのは細く、指先には針仕事でできたさな傷がいくつもあった。
「正が帰ってきたら、お腹が空いてるとったから」
昭夫は母を見た。
冗談を言っている顔ではなかった。
「帰ってきたそのに何もべさせるものがなかったら、嫌だったんだよ」
「だからって3も……」
「3だからだよ」
富美の声がし揺れた。
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「どこかにいたなら、3ずっとちゃんとべられていたとは限らないでしょう」
昭夫は言葉を失った。
富美は番の袋を撫でた。
「正が最にをた朝のこと、覚えてる?」
昭夫はすぐにいした。
空襲のあっただった。
まだ朝は普通だった。
俊夫は3歳で、腹が減ったと泣いていた。
茶碗に残っていたご飯はほんのしだった。
母が困っていると、正が自分の茶碗を俊夫のへ置いた。
「俺、今は腹減ってないから」
そう言って笑った。
昭夫は当11歳だった。
兄が嘘をついたことくらい分かっていた。
けれど、自分も腹が減っていたので何も言わなかった。
そのの夜、空襲警報が鳴った。
それが族で囲んだ最の卓になった。
「あの子が帰ってきたにね」
富美はゆっくり言った。
「また『あなたの分はない』って、言いたくなかったの」
昭夫の喉が詰まった。
自分は母を、余計に米を取るだとっていた。
学で棒と言われ、それが悔しくて母を責めた。
しかし母は、余計にべていたのではない。
むしろべられずにいた。
「それなら言えばよかったじゃないか」
昭夫は顔を伏せた。
「俺に言ってくれれば……」
「言ってどうするの」
「俺だってした」
「もう分してるよ」
富美はし笑った。
「14歳の子に、もっとしろなんて言えないでしょう」
「俺は子どもじゃない」
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「母ちゃんから見れば子どもだよ」
昭夫は唇を噛んだ。
それから、ずっと聞けなかったことをにした。
「母ちゃん」
「何?」
「本当に、兄ちゃんが帰ってくるとってる?」
富美はすぐには答えなかった。
物置の隙から入るで、蝋燭のがさく揺れた。
い沈黙のあと、富美が言った。
「分からない」
昭夫は顔をげた。
母のからその言葉を聞いたのは初めてだった。
「分からないよ」
富美はもう度言った。
「きてるかもしれない。もういないかもしれない。どこかで名を変えて暮らしてるかもしれない。怪をして何も覚えてないのかもしれない。母ちゃんには分からない」
声が震えた。
それでも涙は流さなかった。
「でもね、母親が先に『もういない』って決めたら、正はどこへ帰ればいいの」
昭夫は返す言葉を失った。
その晩、布団へ入っても眠れなかった。
隣では俊夫が規則正しい寝息をてている。
昭夫は井を見つめながら、3の兄の顔をいした。
そして初めて、兄を待っていたのは母だけではなかったのだと気づいた。
自分もまた、誰かに「もう帰らない」と言われるたび、腹がっていた。
ただ、母のように待ち続けるのが怖くなっただけだった。
翌朝、昭夫はいつもよりく目を覚ました。
富美の布団はすでに畳まれていた。
台所にもいない。
「母ちゃんは?」
幸子へ聞くと、眠そうな顔で首を振った。
「らない。起きたにはいなかった」
昭夫の胸がざわついた。
昨夜、自分が配所へったことを責めなかった母が、何を考えているのか分からなかった。
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