"知らない家族が守った家" 第3話
忠雄は返事をしなかった。
翌朝、まだ空がみ始めるに忠雄は目を覚ました。
階から微かな物音がしたので、音をてないよう階段をりる。すると昨の・正が、また仏壇のへ正座していた。
さなで線を本て、煙ががるのを見てから目を閉じる。
忠雄は廊にったまま、そのろ姿を見ていた。
やがて声をかけた。
「君」
正が振り返る。
「その仏壇が誰のものかっているのか」
は素直に頷いた。
「こののおじいさんと、おばあさん」
忠雄は眉を寄せた。
「誰に教わった」
「父ちゃん」
「君のお父さんが?」
「うん」
正は仏壇へ線を戻した。
「父ちゃんが、ここにませてもらってるは、毎朝ちゃんとしろって言った」
忠雄はわず聞き返した。
「どうして」
正は議そうな顔をした。
「ここ、うちのじゃないから」
それだけだった。
難しい理屈をっているわけではないのだろう。
ただ父親から言われたことを、父親がくなったあとも続けている。
忠雄は何も言えなかった。
そのの昼から、杉浦の荷物が届き始めた。
古い布団、野で増えた器、澄子の裁縫具、浩の教科。階だけでは収まりきらず、廊にも荷物が積まれた。
それでもは、まだていけなかった。
美津は毎のように部を探した。
夕方になると疲れた顔で帰り、「今も駄目でした」
広告
とをげる。
あるでは「子どもでは騒がしい」と断られ、別の貸では「女では賃が配だ」と言われた。保証を求められて諦めたもあった。
週が過ぎた。
忠雄の苛ちはくなっていた。
台所へけばの鍋がある。庭には正と妹・恵子の洗濯物が並び、夜になると階から子どもの笑い声が聞こえる。
自分のなのに、自分が借りしているような気持ちが消えなかった。
「いつまでいるつもりなんです」
ある夕方、忠雄はとうとう美津へ言った。
「すみません」
「毎そればかりじゃないですか」
美津の横で正が母親の袖を握った。
「謝ればめるわけじゃないんです」
その、背から浩がを挟んだ。
「父さん」
「何だ」
「そんな言い方しなくてもいいだろ」
忠雄は息子を睨んだ。
「おは黙っていろ」
「でもくところがないんだろ」
「だからって、うちが引き受けるのか」
浩も目を逸らさなかった。
「俺たちだって野で伯父さんのに置いてもらったじゃないか」
忠雄の表が固まった。
「同じじゃない」
「何が違うんだよ」
すぐに答えがてこなかった。
兄は親族で、は赤のだ。
杉浦は兄の許を得て暮らしていたし、こののように曖昧な形でみ続けていたわけでもない。
違いはいくらでもある。
それでも「くところがなかった」
広告
という点だけを見れば、浩の言葉を完全には否定できなかった。
忠雄は何も言わず部をた。
その晩、父と息子は言もをきかなかった。
数、京にたいがった。
その朝から千恵が咳をしていたが、夕方には頬を赤くし、布団ので苦しそうに息をするようになった。澄子が額へを当てると、驚くほどかった。
「あなた、お医者さんを」
言われても、忠雄にはすぐ答えられなかった。
7もれていた町である。以通っていた医院が今もあるのかさえ分からず、話を持っている所がどこなのかもらない。
その、美津がちがった。
「先を呼んできます」
「いや、こちらで」
「このでは探すだけでがかかります」
美津はそう言うと、古い傘を差してへびした。
30分ほどして、所の医者を連れて戻ってきた。
幸い、千恵はい病気ではなかった。
医者は薬を置き、「今夜はかくして休ませなさい」と言った。美津はそのまま薬局へり、澄子が湯を沸かしているに氷までに入れて戻ってきた。
夜、千恵のがしがった頃、澄子が声で言った。
「変なものですね」
忠雄は茶碗を置いた。
「何がだ」
「私たちのなのに、私たちの方がこの辺りのことを何もらない」
美津は医者をっていた。
どこの米ならしいか、豆腐が何に来るか、学までどのを通れば危なくないかもっている。
7このにいなかった杉浦より、このに正式な権利を持たないの方が、今の町で活する方法をっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
昭和39年、給食費泥棒にされた少女
昭和39年、村の小学校で給食費9,600円がなくなったと騒ぎになり、11歳の岸田和子は担任から泥棒だと決めつけられた。無実を訴えても信じてもらえず、和子は転校を余儀なくされる。それから35年。廃校となった母校で古い出納簿を見つけた和子は、問題の給食費が事件の二日前に全額入金されていたことを知る。なぜ教師は、なくなっていないお金を盗んだと少女を責めたのか。食数の合わない給食記録、突然退職した調理員、沈黙する元同級生。忘れられた帳簿を手がかりに、和子は35年間隠されてきた学校の秘密を追い始める。時代|歴史|昭和|真相3.1万字5 309 -
完結第12話
昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録
昭和44年、長野県の小さな駅で働く杉原修一は、最終列車を見送った夜、8万6,400円の現金とともに姿を消した。父を泥棒と呼ばれながら育った娘の美緒は、28年後、取り壊しが決まった駅舎で古い駅務日誌を発見する。そこには、父が終電の55分後、赤いランプを持って七号橋へ向かったという不可解な記録が残されていた。運休したはずの貨物列車、書き換えられた帳簿、沈黙を守る関係者たち。父はあの夜、何を知り、なぜ帰ってこなかったのか。昭和の小駅に封じられた28年間の謎を追う、家族と真実の物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|真実2.9万字5 259 -
完結第13話
六時の椅子
昭和35年、東京下町。72歳の小野寺ハルは、取り壊しが決まった古い写真館の前に、毎朝六時から木椅子を置き、持ち主不明の家族写真を返そうとしていた。 ある朝、一人の女性が写真の中の娘・澄子を見て顔色を変える。十五年前の東京大空襲で、行方不明になった六歳の娘と一緒にいたというのだ。 澄子もまた、あの日から帰っていない。亡き夫が残した古い記録には、二人の名前が並んでいた。 戦争に引き裂かれた家族の足跡を追い、十五年間閉ざされていた真実へと近づく、母たちの物語。時代|歴史|昭和2.8万字5 140 -
完結第13話
返せなかった六百二十円
昭和二年、金融恐慌に揺れる東京・神田。銀行員の徳田美佐は、取り付け騒ぎのさなか、印刷所を営む父が請求した預金六百二十円だけを、自分の判断で留めてしまう。 給金を払えなくなった父の工場では職人が去り、父娘の間にも深い溝が生まれる。さらに銀行は「いつでも全額払える」と記した宣伝紙を配り、美佐が認めていない報告書には「確認済」の印が押されていた。 自分の過ちと、銀行が隠そうとする事実。美佐は職を失う覚悟で真相に向き合うことになる。時代|歴史|昭和|親子関係2.8万字5 212