"出生届を止めた助産婦" 第4話
また来ますから」
へると、昨のが嘘のように空はれていた。濡れた杉の葉がり、くでは斧で薪を割る音が響いている。
いつもと変わらないだった。
ハルだけが、元から世界を失ったような気持ちで歩いていた。
自宅へ戻っても座ることができなかった。
台所へき、をみ、また部へ戻る。昨夜使った産婆鞄をけては閉じ、何か記録が残っていないか探した。
何もなかった。
静の赤子。
女。
午0。
千代の赤子。
女。
け方。
自分の帳にあるのは、その程度だった。
「どうして……」
声にした途端、膝が震えた。
あの、名札をつけていれば。
布の柄を変えていれば。
静の赤子を無理に連れていかなければ。
いくつもの「もし」がを埋め尽くした。
けれど今さら、昨夜には戻れない。
問題は、これからだった。
何も言わずにいればどうなる。
静は千代が産んだ子を自分の娘として育てる。
千代は静の娘を自分の子として育てる。
誰もらなければ、の子はそのままきくなるかもしれない。
では、それでいいのか。
ハルは自分のを見つめた。
届はまだされていない。
では、父親が子の名を決め、助産婦の証を受けて役へ持っていくことがい。清吉も作蔵も、数のうちにはすつもりでいるはずだった。
に名がかれた瞬、違いは「記録」
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になる。
ハルは夜がけるまで、度も布団へ入らなかった。
翌朝。
静のへくに、もう度千代の赤子を見た。
肩の痣はまだある。
の指も変わらない。
午には静のへった。
こちらの赤子には痣がない。
の指もまっすぐだった。
疑いではなくなった。
なくとも、ハルの記憶が正しければ。
入れ替わっている。
そのの夕方。
清吉が役へすを机ので広げていた。
「名、決めたんですよ」
し照れたように言う。
「幸子にしようとってます。幸せな子になるようにって」
静が布団ので笑った。
「お義母さんが最初は初がいいって言ったんですけど、清吉さんが譲らなくて」
「初だっていい名だよ」
フミは満そうに言いながらも、孫の頬を嬉しそうに眺めていた。
その穏やかな景をに、ハルの喉は塞がった。
今から自分がにする言で、こののびを壊す。
それでも。
黙って署名することだけはできなかった。
「清吉さん」
「はい」
「その届……まださないでもらえませんか」
清吉の笑顔が止まった。
「どうしてです?」
「、でいいんです」
フミが眉を寄せる。
「先、何を言ってるんです。子どもは元気なんでしょう?」
「元気です」
「じゃあ何で」
清吉もからをした。
「この子に何かあるなら、隠さず言ってください」
「そうではないんです」
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「なら、何ですか」
答えられないハルを見て、静の表がしずつ張っていった。
腕のの赤子を抱きしめる。
「先」
静の声だけが、妙に静かだった。
「……この子は、本当にうちの子なんですか」
ハルは顔をげることができなかった。
部の柱計が、カチ、カチと音をてていた。
誰もかなかった。
静は赤子を胸へ抱いたまま、ハルの答えを待っている。清吉もフミも、最初は質問のさえ理解できなかったようだった。
ハルは畳からりた。
そしてへ両をつき、くをげた。
「申し訳ありません」
清吉の喉が鳴った。
「先……」
「わたしが、赤ちゃんを取り違えたかもしれないんです」
最初に声をげたのはフミだった。
「何を言ってるんだい!」
その声に赤子が泣きした。
静は反射に揺すり、いつものように「丈夫、丈夫」と囁いた。ところが、自分のからその言葉がた瞬、静の顔が崩れた。
「取り違えたって……誰とです」
清吉はもう分かっているようだった。
ハルは昨夜の来事を、つずつ説した。
静の産直、千代が難産になったこと。
赤子を籠へ入れてのまで連れていったこと。
の赤子を、同じ所へ寝かせたこと。
そして静の子には、肩の痣との指の特徴があったこと。
「今、その特徴が千代さんのにいる赤ちゃんにあります」
清吉はちがった。
「じゃあ、これは千代さんの子だって言うんですか」
「……その能性がいです」
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