"出生届を止めた助産婦" 第5話
「能性?」
清吉の声がくなった。
「今まで先は、この子がうちの子だって言ってたじゃないですか」
ハルは何も返せなかった。
「晩経ったら違うかもしれない。じゃあ、になったらまた変わるんですか」
「清吉」
静が夫を呼んだ。
清吉は振り返った。
静は泣いていなかった。
ただ赤子を抱いている腕だけが、かすかに震えていた。
「千代さんのところへってください」
「今?」
「先と緒に」
静は度赤子を見ろした。
「向こうにも話さないと」
ハルの胸がさらにくなった。
へ着いた頃にはが落ちていた。
事を聞いた作蔵は、最初はが分からないようにハルの顔を見つめていた。それから話が理解できるにつれ、頬の筋肉が引きつっていった。
「そんなことがあるか!」
作蔵がちがる。
囲炉裏のがきく揺れた。
「お、昨この子を千代の子だって言っただろ!」
「作蔵さん、本当に申し訳ありません」
「申し訳ないで済むか!」
千代はので赤子を抱いていた。
まだ起きがることさえ辛いはずなのに、その腕だけはく子を抱き寄せている。
「先」
声は細かった。
「それじゃ、この子は……私が産んだ子じゃないの」
「千代さん……」
ハルは答えられなかった。
「この子を、誰かに渡すんですか」
作蔵が振り返った。
「千代、今は決められん」
「だって」
千代の目から涙がこぼれた。
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「昨から、この子に乳をあげてるのよ」
それを聞いた瞬、ハルは自分の過ちのきさを初めて本当ので理解した。
子どもを取り違えた。
その言葉だけなら、物を違えて渡したようにも聞こえる。
けれど赤子は物ではない。
こので泣いた。
母親が抱いた。
乳を吸った。
夜に何度も目を覚まし、そのたびに胸へ寄せられた。
違いに気づいたからといって、昨へ戻すように簡単に交換できるものではなかった。
その夜のうちに噂はへ広がった。
清吉の母フミが所の女へ相談し、その女が井戸端で別の女へ話した。翌朝には、「松永ハルが軒の赤ん坊を違えた」という話を、ほとんど全戸がっていた。
「同じに産まれたからだって」
「どっちも女の子らしい」
「産婆がを取りすぎたんじゃないか」
「かわいそうなのは母親だよ」
ハルがを歩くと、話していた女たちが急に黙った。
には面と向かって言う者もいた。
「先、どうするつもりなんです」
ハルには答えようがなかった。
役の戸籍係にも事を伝えた。
40代の係員は困った顔で鏡をし、何度も布で拭いた。
「届けがまだなのは幸いですがね……」
「何か確かめる方法はないでしょうか」
「このでは難しいですね」
血液型などかららかに矛盾が分かるもあるが、それだけで親子を確定することはできない。
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ましてまれたばかりのをすぐに町へ連れすことなど、産の母親たちの状態を考えれば現実ではなかった。
結局、頼れるのはハルの記憶だった。
肩の痣。
の指。
そして、あの夜の断片。
。
両族がハルのへ集まった。
静はまだ歩くのが辛いため、清吉に支えられてやってきた。千代も作蔵が荷へ布団を敷き、そこへ寝かせるようにして連れてきた。
の母親は、それぞれ赤子を抱いていた。
ハルはをに座った。
「もう度、最初から話します」
誰も返事をしなかった。
つ違えれば、つののが変わる。
それでもハルは、逃げずにをいた。
ハルはまず、静の産から説した。
「静さんのお子さんを産湯に入れた、肩にい青い痣がありました。きさは米粒くらい。それと、の指がし内側へ曲がっていました」
静が自分の腕のの赤子を見る。
その子には痣がない。
続いて、ハルは千代の抱いている赤子へ線を移した。
「今、そのつの特徴はこちらのお子さんにあります」
作蔵が赤子の産着をずらした。
確かに肩にはい痣がある。
清吉も黙って見た。
「だから」
ハルは言葉を選びながら続けた。
「わたしの記憶が正しければ、こちらが静さんのお子さんです。そして静さんが今抱いている子が、千代さんのお子さんだといます」
清吉が顔をげた。
「います?」
ハルは唇を結んだ。
「……はい」
「おそらく、ですか」
「はい」
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