"出生届を止めた助産婦" 第9話
結局、8歳のにを緒に座らせた。
静、千代、清吉、作蔵。
そしてハルも呼ばれた。
幸子は何か叱られるのかとい、正座していた。
子は途でが痺れ、何度も座り直している。
最初に話したのは静だった。
「あなたたちがまれた夜ね、だったの」
は黙って聞いた。
同じにまれたこと。
ハルが晩に軒をき来したこと。
ほんのしの、が入れ替わってしまったこと。
に分かったこと。
話が終わると、幸子は目を丸くした。
「じゃあ私、千代おばちゃんのおにいたの?」
「そう」
千代が答える。
「だけ」
子が静を見る。
「私も?」
「うん」
静は笑った。
「ちゃんには私が最初にお乳をあげたの」
子はしばらく考えたあと、嬉しそうに言った。
「じゃあ、お母さんがいるみたい」
たちは言葉を失った。
子どもにとっては、親たちが何も苦しんできた問題が、いのほか単純な形で受け止められた。
「本当のお母さんはずつよ」
千代がを押した。
「でもね」
静が続ける。
「あなたたちが赤ちゃんだった、もうのお母さんも泣いたら抱いてくれた。それだけは本当」
幸子はハルへ目を向けた。
「先が違えたの?」
ハルの胸が詰まった。
「そうです」
「られた?」
「たくさんられました」
「お父さんに?」
清吉が横で咳払いをした。
「俺もった」
幸子はし考えた。
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「じゃあ、もういいんじゃない?」
ハルは答えられなかった。
「幸子」
静がたしなめた。
けれど幸子は議そうな顔をしている。
「だって今、ちゃんと分かってるんでしょう?」
子どもの言葉だった。
責任のも、のを誤らせる怖さも、まだ理解していない。
それでもハルは、その初めて声をげて泣いた。
幸子と子が慌てて両側から袖を引く。
「先、泣かないで」
「ごめんなさい」
ハルは何度も言った。
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
の娘はその、秘密を特別なものとはわなくなった。
々友達に聞かれると、「私たち、まれてだけを交換したんだよ」と笑って話した。
が聞けば驚く話でも。
にとっては、まれたから族に聞かされてきた、自分たちの物語になっていった。
歳は、の季節が巡るのと同じように静かに流れた。
幸子はをると麓の町の商へ勤め、25歳で同僚の男と結婚した。子はに残り、役へ勤めていた青と庭を持った。
清吉も作蔵も髪が増えた。
静と千代は、相変わらず祭りのには顔をわせた。
娘たちが嫁いだも、で漬物を交換し、になれば噌の来を比べた。
ハルは70歳を過ぎてから助産婦を引退した。
最に取りげたのは、の若い農の男だった。
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赤子を母親へ渡したあと、ハルは産婆鞄を閉じた。
には糸が何種類も入っていた。
赤。
青。
黄。
緑。
以の赤子がいる所では絶対に同じを使わない。
あの夜以来、度も欠かさなかった習慣だった。
「先、本当に辞めるの?」
静が聞いた。
「もうが震えるようになりましたから」
「寂しくなるね」
「今は町まででけます。若いは病院で産む代ですよ」
も備され、にはバスも通るようになった。
昭30には半かかった麓の町へ、今では1もかからない。
代は変わっていた。
そんなあるの。
幸子が初めての子を産むため、実へ戻ってきた。
産所は町の病院だった。
静は付き添い、孫の産声を廊で聞いた。
元気な男の子だった。
翌、子と千代も見いへ来た。
幸子はい病で赤子を抱きながら笑った。
「今の赤ちゃんって、腕に名をつけてもらうんだね」
赤子の首には母親の名をいた識別票が巻かれていた。
千代と静は瞬、顔を見わせた。
子が笑う。
「私たちの代にもあればよかったのに」
誰も気まずくならなかった。
幸子も笑った。
しかししばらくすると、赤子を見つめながら静かな声で言った。
「産んでみて初めて分かったことがある」
「何?」
静が尋ねた。
「まれた瞬から、こんなに事なんだね」
幸子は息子の頬へ触れた。
「まだ昨会ったばかりなのに、誰かに渡せって言われたら絶対無理だとう」
静は何も言えなくなった。
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