"最終列車で消えた18歳" 第1話
昭63327、岐阜県部のあいにある川郡杉町では、朝から細かながっていた。解けを集めた川はいつもより速く流れ、底をる鷺線の線にはいがかかっていた。
鷺線は、杉駅と県庁所を結ぶ全42キロの方鉄だった。かつてはから切りされた材や製糸の糸を運び、朝夕には通勤客やで内が埋まった。
しかし林業は衰退し、町で最もきかった片倉製糸もに閉鎖された。自用を持つ庭が増えたこともあり、利用者は最盛期の5分の1まで減していた。
国鉄の分割民営化から1。第セクターとして線を残す案も検討されたが、沿線自治体は赤字を負担できず、鷺線はそのを最に廃止されることになった。
終点の杉駅には、午から勢のが集まった。学たちは作りの旗を振り、婦会は待ので甘酒を配っていた。駅舎には《74ありがとう 鷺線》とかれた横断幕が掲げられ、聞記者や鉄写真を撮る若者の姿もあった。
駅の片桮信は、朝から休むもなく働いていた。改札で券に鋏を入れ、運本部からの話を受け、ホームへ入り込む撮客を黄い線の内側へがらせた。
信にとって、鷺線は単なる職ではなかった。
広告
18歳で国鉄に入り、駅員、掌、助役を経て、5に故郷の杉駅となった。妻の文ともこの駅で会い、娘の美紀も駅舎裏の官舎で育てた。
その娘が、鷺線最のに故郷をれることになっていた。
18歳の美紀は、名古にある青葉期学の幼児教育科に格していた。4から学寮へ入り、保育士と幼稚園教諭の資格を取るつもりだった。
そのの最終列で県内の叔母のへき、翌朝、名古へ向かう予定だと周囲には説していた。棕の旅鞄には、着替えや教科、母の写真が入っているはずだった。
「美紀ちゃん、本当にっちゃうのね」
甘酒を配っていた所の女性が声をかけると、美紀は赤いマフラーを直しながら笑った。
「休みには戻ってきます。父をにしたままにはできませんから」
妻の文は、美紀が10歳のときに病気でくなった。それ以来、信は男つで娘を育ててきた。料理は得ではなかったが、毎朝弁当を作り、のには学まで傘を持って迎えにった。
美紀も父を切にしていた。名古へくに、にある保の所や畑の世話の仕方を学ノートへき、信が毎晩む胃薬のまで記していた。
ところが格発表、父娘のにはい溝ができていた。
「名古へく必はない」
広告
2の終わり、信は突然そう言った。
町の信用庫が卒の事務職を募集しており、駅の推薦があれば採用される能性がい。女性は元で定した仕事に就き、いずれ結婚するのが番だと主張した。
それまで信は、娘の学を応援していた。学へ何度もを運んで奨学の相談をし、受験のには始発列で名古まで送ってくれた。
美紀には、父が急に変わった理由が分からなかった。
最終列が到着する1、美紀は駅を訪ねた。
「本当に、見送りにも来てくれないの?」
信は運表から顔をげなかった。
「駅としてホームにいる。仕事だ」
「お父さんとして聞いてるの」
「同じことだ」
美紀は扉のでしばらく待ったが、信は類を見続けた。父の机には、青葉期学の入学案内が封もけられずに置かれていた。
「私は、学へくから」
「好きにすればいい」
「戻ってきてもいいの?」
その問いに、信は答えなかった。
午842分、鷺線の最終列が杉駅を発した。2両編成の気は満員で、ホームでは民たちが旗を振り、運転士がい警笛を鳴らした。
信は改札脇にち、赤いマフラーを巻いた娘が旅鞄を持って2両目へ乗り込むのを見ていた。波に押されて顔はよく見えなかったが、赤いだけは内へ消えるまで目で追った。
列が暗いの向こうへ見えなくなっても、信は子を取らなかった。
しかし午10すぎ、乗換駅から連絡が入った。
美紀が列からりてこないという。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
宅配箱を盗む隣家の子…餌を入れた翌朝、母親が激怒
ペットショップを営む榊哲也の家で、宅配ボックスから荷物が次々と消える。近所の目撃情報が指したのは、隣家の小学五年生・航太。しかし母親の千晶は「子どもを疑うな」と哲也を非難し、町内に悪い噂まで広め始める。哲也は自分宛ての荷物に店で扱う乾燥コオロギの餌を入れ、防犯カメラで行方を確かめることに。すると映像には、少年の行動以上に不可解な親子のやり取りが残されていた。さらに消えた荷物を追ううち、地域の見守り活動に関わる不自然な書類まで浮かび上がる。小さな宅配トラブルの裏に、何が隠されているのか。怒り|真相|修羅場2.8万字5 613 -
完結第20話
大正、子守奉公の少女
大正時代、貧しい農家に生まれた十一歳の少女は、「三度の飯」を条件に子守奉公へ出された。赤ん坊を背負う毎日から工場近くの家、東京の屋敷へ。三年分の奉公賃は家族に渡され、働く場所も自分では決められなかった。やがて海を越えて旅順へ渡った彼女は、子どもたちの世話をしながら、文字を覚え、針仕事を学び、少しずつ自分の世界を広げていく。誰かのために働くことしか知らなかった少女は、いつか自分の人生を選べるようになるのだろうか。時代|歴史|真相2.8万字5 34 -
完結第17話
忘れたコートが教えてくれたこと
結婚式まであと3週間。高橋ゆいは婚約者・博人の実家に忘れたコートを取りに戻り、衝撃的な会話を耳にする。食卓に広げられていたのは、祖母から相続した自分のマンションを、博人の実家が営む会社の追加担保にする計画書だった。しかも本人への説明は「婚姻後1週間」の予定。14人の従業員を守るためだと訴える婚約者の母と、すべてを知りながら黙っていた博人。人生逆転|裡切られた|夫婦|真相|修羅場2.0万字5 410 -
完結第20話
死んだ母を名乗る女
母を亡くして二年。三十歳の浅沼美咲は、空き家となった実家を片付けている最中、郵便配達員から思いがけない言葉を告げられる。「先月もお母様にお会いしましたよ」。亡くなったはずの母を名乗り、郵便物を受け取っている女がいるというのだ。家の中に残された生活の痕跡、天井裏から聞こえる不審な物音、そして母宛てに繰り返し届く現金書留。兄とともに調べ始めた美咲は、疎遠だった叔母の影と、母の遺産をめぐる不穏な思惑に気づく。死者の名を使ってまで隠そうとした秘密とは。真相|親子関係2.3万字5 1195 -
完結第20話
シャッターを切らなかった日
昭和46年、水俣。写真館で働く17歳の村瀬航一は、町の現実を新聞に伝えようと、仕立て屋の橋本夏枝にカメラを向ける。しかし、彼女から「撮らないで」と拒まれた後、以前撮った手の写真が本人の了承なく新聞に掲載されてしまう。その一枚は夏枝の仕事と暮らしに思わぬ影響を及ぼした。工場で働く父、被害を訴える住民、善意で支援する人々。それぞれの事情に触れるなかで、航一は問い始める。人の苦しみを伝えることと、その人の人生を勝手に語ることは、同じなのだろうか。激動の昭和を背景に、写真と人間の尊厳を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.7万字5 57 -
完結第12話
消えた路地の矢印
昭和39年、東京オリンピックを目前に控え、東京の街は急速に姿を変えていた。23歳の標識職人・黒田俊も、新しい道路の案内板を作る仕事に追われていた。ところが工事によって古い路地が封鎖され、診療所へ通う老人や商店の人々が行き場を失い始める。立ち退きを迫られる活版所の親子、変わり続ける迂回路、そして正しいはずの標識に迷わされる人々。時代|歴史|昭和|真相|修羅場2.8万字5 46 -
完結第12話
昭和39年、給食費泥棒にされた少女
昭和39年、村の小学校で給食費9,600円がなくなったと騒ぎになり、11歳の岸田和子は担任から泥棒だと決めつけられた。無実を訴えても信じてもらえず、和子は転校を余儀なくされる。それから35年。廃校となった母校で古い出納簿を見つけた和子は、問題の給食費が事件の二日前に全額入金されていたことを知る。なぜ教師は、なくなっていないお金を盗んだと少女を責めたのか。食数の合わない給食記録、突然退職した調理員、沈黙する元同級生。忘れられた帳簿を手がかりに、和子は35年間隠されてきた学校の秘密を追い始める。時代|歴史|昭和|真相3.1万字5 384 -
完結第12話
昭和44年、終電後に消えた駅員――28年目に見つかった記録
昭和44年、長野県の小さな駅で働く杉原修一は、最終列車を見送った夜、8万6,400円の現金とともに姿を消した。父を泥棒と呼ばれながら育った娘の美緒は、28年後、取り壊しが決まった駅舎で古い駅務日誌を発見する。そこには、父が終電の55分後、赤いランプを持って七号橋へ向かったという不可解な記録が残されていた。運休したはずの貨物列車、書き換えられた帳簿、沈黙を守る関係者たち。父はあの夜、何を知り、なぜ帰ってこなかったのか。昭和の小駅に封じられた28年間の謎を追う、家族と真実の物語。時代|歴史|昭和|ミステリー|真実2.9万字5 295 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 248