"百円だけの香典" 第2話
その、受付を伝っていた若い従業員の誠が駆け込んできた。
「健さん、ちょっと来てください。田さんがどうしても千円受け取ってくれって……」
田という名を聞いた途端、トヨがさく息をんだ。栄作も黙り、先ほどまで騒がしかった玄関の空気がし変わった。
町れで畑を耕している田徳は、3に妻をくしていた。
そして、その葬式の。
源吉は、誰よりもい千円を包んでいたのである。
田徳は、受付ので古びた子を両に持ってっていた。まだ40代半ばだというのに頬は痩せ、農作業でに焼けた顔にはい皺が刻まれている。彼のにはい典袋が置かれており、受付役の誠が困り果てた表で健を待っていた。
「田さん、お忙しいところありがとうございます」
健がをげると、徳も子を胸元へ持ってきてくをげた。それから典袋を指で押すように差しし、「これを受け取ってくれ」と言った。
「百円だけ、ありがたくいただきます」
「いや、千円入ってる」
「でしたら百円お返しします」
徳はすぐに首を振った。いつも穏やかな男なのに、そのだけは声がかった。
「返さんでくれ。これは源吉さんにもらった分なんだ」
健は言葉を失った。
3、徳の妻が病気でくなった、田にはまともな貯がなかった。
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妻の治療費でを使い切り、葬式の費用さえ親戚から借りなければならなかったことを、町ののくがっていた。
その葬式で、源吉は千円を包んだ。
当としても、決して軽い額ではない。トヨは帰宅した夫に「どうしてそんなに包んだの」と聞いたが、源吉は「徳のところは今が番苦しいんだ」と答えただけだった。
徳は、その千円を忘れていなかった。
「妻がんだあと、何度も考えた。源吉さんに何かあったら、そのは必ず千円返そうってな」
「田さん……」
「かけて取っといたんだ」
その言で、受付の周囲にいた々が静かになった。
徳にはの子どもがいる。の娘はこのから学へ入り、の男の子はまだ学4だった。農業だけで子どもを育てる活に余裕がないことくらい、健にも分かっていた。
それでも徳は、源吉の葬式がいつ来てもいいように千円を取っておいた。
栄作がしれたところから健を見ていた。その目には、「これが付きいというものだ」と言いたげなが浮かんでいる。
健は典袋をき、百円だけを受け取った。
残った百円を袋へ戻し、徳へ差しした。
「田さん、これは持って帰ってください」
「だから困るって言ってるだろう」
「父なら受け取らないといます」
「そんなこと分からんだろう」
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「分かります」
健は今度こそ、はっきり言った。
「父は、田さんから千円を返してもらうために、あの千円したんじゃありません」
徳のが止まった。
健は、周囲にがいることを忘れるように言葉を続けた。
「これを全部受け取ったら、今度は田さんのでまた何かあった、うちは千円包むでしょう。そうしたら田さんは、またうちへ千円返さなきゃいけないとう。その繰り返しを父は嫌がっていたんです」
「それの何が悪い」
栄作がを挟んだ。
「困ったに助けてもらったら、次はこっちが助ける。それが付きいだろう」
健は叔父へ向き直った。
「助けることが悪いとは言ってません。ただ、助けてもらった額を覚えて、同じだけ返さなきゃいけないとうことまでなんでしょうか」
栄作の眉がいた。
健自も、答えを持っているわけではなかった。幼い頃から町の暮らしを見てきた以、冠婚葬祭の付きいが簡単に切れるものではないことは理解している。祝い事で受け取ったら返す、葬式で包んでもらったら相のにも包む、それがこの町の信用を支えてきた面もあった。
だが同に、苦しい庭が典や祝儀のためにを借りる姿も見てきた。
「徳さんのは今、娘さんの入学でがるでしょう」
健が言うと、徳の表がし変わった。
「それとこれとは別だ」
「父なら別だと言わないといます」
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