"百円だけの香典" 第5話
それまで緒に古い習慣を守ってきた妻へ、突然「全部違っていた」と言えるはずもなかったのだろう。
その、玄関からさな物音がした。
健がていくと、田徳がっていた。
には昼返された百円が入った典袋ではなく、さな呂敷包みを持っている。
「まだ起きてたか」
「どうしたんです?」
徳はし恥ずかしそうに玄関へ腰をろした。
「今返された百円な。あれ、娘の靴を買うことにしたよ」
健は何も言わなかった。
「本当はな、学にがるからしい靴を買ってやるつもりだった。でも源吉さんの葬式がいかもしれんとって、古いのでさせようとしてた」
徳は自嘲するように笑った。
「考えたら、おかしな話だな。きてる娘の靴をさせて、んだにを返そうとしてたんだから」
台所の入にっていたトヨにも、その声は聞こえていた。
徳はいを見げた。
「源吉さんがったら、馬鹿野郎ってるだろうな」
健はし笑った。
「たぶん、かなりります」
徳が帰った、トヨはい玄関のを見ていた。
そして翌朝。
誰よりく起きると。
自分から受付の子へ座った。
葬儀の朝、健が玄関へると、トヨはすでに受付の机にい布を掛け、典帳とを並べていた。昨まで百円のに反対していた母が何をするつもりなのか分からず、健は声をかけるのをためらった。
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「母さん、受付は誠たちに頼んであるよ」
「今は私が最初だけやる」
トヨはそれ以説しなかった。
午9を過ぎ、最初の弔問客がやってきた。所で雑貨を営む老夫婦で、主は百円の入った典袋を差しした。
トヨは袋を受け取り、を確かめた。
百円だけを取り、残り百円を元の袋へ戻す。
老夫婦は驚いた。
「トヨさん、うちはの法事で百円いただいたんですよ」
「覚えています」
「だったら、これじゃ困るでしょう」
トヨはしだけ笑った。
「お気持ちは百円全部いただきました。でも、おは百円だけで分です」
「本当にいいんですか」
「今から、うちはそうすることにしました」
健はしれたところで、その様子を見ていた。
トヨは昨までとは違う顔をしていた。
がっているのではない。
晩かけて、自分なりに答えをした顔だった。
「主がね、ずっと言ってたんですよ。付きいはなくしたくない。でも、無理だけやめられないかって」
トヨは典袋を返した。
「本は最まで、うまくできませんでしたけどね」
次の弔問客も、その次も、百円以を差しした。トヨはずつをげ、同じように余分な分を返した。
当然、全員が気持ちよく受け入れたわけではない。
「そこまでされたら、こっちが恥ずかしい」
そう言って嫌になる者もいた。
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「源吉さんには世話になったのに、百円しかせないなんてけない」
そう訴える老もいた。
トヨはそのたびに、気持ちだけは全部受け取っていると説した。
栄作は横から見ながら何度もため息をついた。
「姉さんまで健に丸め込まれたのか」
「そうじゃないよ」
トヨはを止めずに答えた。
「私はお父さんに丸め込まれたんだよ。んでからね」
栄作は何も言えなくなった。
昼くになると、昨って帰ったの会社社が再び現れた。今度は典袋を持っていなかった。
健は何か抗議をされるのかとい構えた。
ところが男は受付ので財布をき、百円玉を枚だけ取りした。
「昨は悪かった」
健が驚いていると、男はし照れたように言った。
「帰ってから先代の帳面を見たんだ。さんから何度も典をいただいていた。だから余計に返さなきゃとったんだが……女に言われたよ。何もをったり来たりさせて、誰が得するんだって」
男は百円を机へ置いた。
「その代わり、の仕事はこれからも頼む。それで勘弁してくれ」
健はくをげた。
「ありがとうございます」
その、健はようやくし理解した。
父が残したかった付きいとは、こちらだったのかもしれない。
典の額を同じにすることではない。
仕事を頼む。
困ったに声をかける。
顔を見れば挨拶する。
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