"「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届" 第1話
3だけの帰省
「お盆は3だけ、実に帰ります」
813の朝、私は蔵庫の扉を閉めながらそう告げた。リビングでは、夫の浩司がソファに寝そべって野球を見ている。19歳の娘、里奈は卓でスマートフォンを触ったまま、こちらを見ようともしなかった。
「3と言わず、ずっと帰ってこなくていいぞ。俺たちのことは気にするな」
浩司が笑うと、里奈も画面から顔をげた。
「ママがいないほうがが平かも。いちいち細かいこと言われないし」
2の笑い声がなった。私はエプロンの紐をほどき、子の背に掛けた。蔵庫には肉じゃが、蛮漬け、きんぴらなど、3分として作った8個の保容器が並んでいる。昨夜、台所にっていたは3を超えていたが、そのことをにする気にはならなかった。
今朝も私は530分に起き、浩司と里奈の朝を別々に用した。浩司には焼き魚と噌汁、遅く起きる里奈にはサンドイッチ。洗濯を回しながら2分の予定を確認し、浩司が着るいシャツにアイロンまでかけてある。20、それが族を支えることだとってきた。
けれど、浩司が営業部へ昇した昨から、頼み方はしずつ命令に変わった。「ありがとう」が消え、「まだか」「忘れるな」が増えた。里奈も父親の調を真似るようになり、私が注すると「ママは細かすぎる」
広告
と笑った。今の2にとって、事も洗濯も、蔵庫へ自然に補充される気やと同じだった。
玄関へ向かうに、私は度だけ振り返った。
「4にあなたがいた婚届、あのままでいいのね」
浩司はテレビから目をさず、面倒そうに片を振った。
「まだそんなこと言ってるのか。好きにしろよ。俺はもう署名もしたし、証まで用してやっただろ。したきゃせばいい」
「分かりました」
返事をしたのは私だけだった。浩司は実況に気を取られ、里奈は再びスマートフォンへ線を落としていた。
午810分、私はさなキャリーケースと布の提げを持ってをた。駅へ向かうならへ曲がる交差点で、私はへんだ。真の差しがアスファルトをく照らし、キャリーケースの輪が継ぎ目を越えるたび、乾いた音をてた。
15分に着いたのは駅ではなく、役所だった。
戸籍窓のには、すでに数が番号札を持って座っていた。ので汗がえ、提げのの封筒だけが妙にくじられる。4かから計簿に挟んでいた婚届には、浩司自の署名があり、証欄には彼の部2の名が並んでいた。
待っている、何度か封筒へを伸ばしかけた。ここで帰れば、今夜も同じ台所につことになる。の朝も530分に起き、3にはあの言葉さえ冗談だったことにされるだろう。
広告
そう考えると、封筒からをすほうが簡単だった。
番号を呼ばれ、私は類と本確認類を差しした。
「未成のお子さんはいらっしゃいますか」
「娘が1いますが、19歳です」
職員は必事項を順に確かめ、端末へ入力していった。その、私は膝ので両を組んでいた。怖くないわけではない。けれど、類を取り戻したいとは度もわなかった。
やがて職員が顔をげた。
「内容に備はありません。本付で受理いたします」
私はのため、受理証の取り方と、婚の戸籍について説を聞いた。財産のことは別に話しう必があると言われ、渡された案内を提げへしまう。今1で何もかも片づくとはっていない。それでも、最初の歩だけは誰にも代わってもらえなかった。
壁の計は午840分を指していた。
をてから、まだ30分しか経っていない。それなのに、20閉め切っていた部の窓が、ようやくいたような気がした。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
兄を笑った銀行一家へ、300億円の解約通知
挙式15分前、新郎控室で待っていたのは、白いタキシード姿の兄1人だった。「結婚も、式も、全部ドッキリだったって」。婚約者の父は銀行会長。その家族が送りつけた80秒の動画には、兄を嘲る笑い声が残っていた。23年前から親代わりになり、私を育ててくれた兄が、今度は自分の幸せを選ぼうとしただけなのに。兄の隣に座った私は動画を保存し、財務責任者へ電話をかける。「じゃあ、預金300億、全額解約で」。銀行一家が見下していた妹は、美容企業グループの創業者兼会長だった。だが、私がその銀行に会社の資金を預け続けていた理由を、彼らは知らない。答えは、兄が保管していた古い茶封筒の中にあった。夫婦|親子関係2.1万字5 89 -
完結第19話
251840円の正月料理を持ち去った義母
結婚以来9年間、佐伯直樹の妻・由衣は、義母・久江に命じられるまま親戚一同の正月料理を準備してきた。今年の支払額は25万1840円。ところが大晦日、冷蔵庫から料理がすべて消える。防犯カメラに残っていたのは、合鍵で侵入し、保冷箱を弟夫婦宅へ運び出す久江の姿だった。それでも久江は由衣に買い直しを命じる。直樹が領収書と録音を保存すると、今回の持ち去りだけでなく、正月に費やした累計167万8000円、さらに両親へ送り続けた毎月6万円の意外な行方まで浮かび上がり始める。兄弟姉妹|嫁姑|親子関係|金銭問題2.6万字5 531 -
完結第14話
母に買った家を狙う婚約者
「結婚前に母親へマンションを買うなんて、嫁としての自覚がないわ」 未来の姑は、私が自分で貯めたお金の使い道まで責め始めた。 婚約者も「結婚後は僕たちの家庭を第一にして」と母親の味方をした。 私は怒らず、静かに尋ねた。 「分かった。じゃあ結婚後は、お互い自分の親には1円も援助しないってことでいいよね」 すると、2人の顔色が一瞬で変わった。 「それとこれとは話が別でしょう。長男の嫁なら夫の親を支えるのは当然よ」 私の母への援助は身勝手で、夫の両親への援助は当然らしい。 さらに姑は、母のマンションを「必要なら売ればいい」とまで言い出した。 なぜ私の預金額や退職金を、何度も確認していたのか。 なぜ婚約者は、突然結婚を急ぎ始めたのか。 私はバッグの中の茶封筒へ触れた。 そこには《最終通知》の文字と、約3000万円という金額。 そして婚約者の名前が記された、もう1枚の書類が入っていた。嫁姑|夫婦|相続|金銭問題2.0万字5 298 -
完結第10話
27年目、妻は食卓を捨てた
「……もう、必要ないのね」 27年間作り続けた夕食を、家族5人はスマホを見たまま無言で食べた。 「いただきます」も「おいしい」も、誰の口からも出なかった。 翌朝、私が食卓に残したのは一枚のメモだけ。 《今日から、自分のことは自分でお願いします》 夫は鼻で笑い、私が困って戻るよう家族カードまで停止した。 「パート代だけで、一人で暮らせるわけがない」 ところが3日たっても、私は助けを求めなかった。 家族が食事や洗濯、義母の薬の管理に困り始めた頃、娘が台所の奥で古いノートを見つける。 表紙には《家族のこと》。 そこには27年間、誰にも気づかれなかった私の記録が残されていた。 さらにノートから落ちた封筒には、夫が想像もしなかった書類が入っていた。 《常勤職員登用に関する雇用条件通知書》――返答期限は、今日だった。嫁姑|夫婦|親不孝1.6万字5 925 -
完結第10話
独身だから介護しろ
「来月で店を辞めろ。父さんの介護は、独身のお前がやれ」 父の退院祝いで、兄は私の名前だけが並んだ介護予定表を置いた。 朝食、服薬、入浴、夜間の見守り――月曜から日曜まで、休みはない。 姉も「あなたには守る家庭がないでしょう」と言った。 だが要介護2の父は、歩行器を使えば動けるうえ、介護サービスを利用する意思も示していた。 それでも兄姉は費用を惜しみ、私へ仕事を辞めさせようとした。 私は予定表を破り、「本人の前でもう一度決めよう」と告げた。 父は震える右手で、机を2度たたいた。 その意味が分かったのは3か月後だった。 ケアマネジャーから見せられたのは、私を主介護者とする《家族同意書》。 署名日は、私が北海道へ出張していた日だった。 そして費用管理者の欄には、父の通帳を預かる姉の名前が書かれていた――。兄弟姉妹|親不孝|親子関係|介護1.5万字5 276 -
完結第15話
「子供3人は全員連れてけ」と言った夫へ
「子供3人は全員お前が連れてけ」。離婚を切り出した恵美に、夫はそう言い放ち、同居の義母も「やっと静かになる」と笑った。仕事部屋を奪われ、子供たちの進路や楽しみまで制限されてきた家で、長男は静かに告げる。「その言葉、忘れないでね」。子供たちは全員、母と暮らすことを選んだ。ところが転居から1週間後、夫と義母から一晩で80件の着信が届く。洗濯、食事、通院、そして家の支払い。戻れと迫る夫は、恵美の新居の家賃が月28万円だと知り、借金を疑い始める。「内職」と見下していた妻の仕事は、本当は何を支えていたのか。恵美は家計簿と口座の明細を並べ、夫が見ようとしなかった数字を確かめていく。夫婦|親子関係2.2万字5 647 -
完結第10話
墓前の少女は「娘は生きてる」と言った
「おばあちゃん、その人、生きてるよ」 7年前、豪雨の夜に消息を絶った娘・咲。 遺留品だけが河原で見つかり、私は娘の名を墓石に刻んだ。 命日前日、墓前に白い野の花を置いていたのは誰なのか。 そこへ現れた7歳の少女は、墓石を指して言った。 「その人、うちにいるよ。今、ご飯作ってる」 少女に連れられて海辺の古い家へ向かうと、台所から懐かしい声が聞こえた。 「……お母さん」 目の前に立っていたのは、死んだはずの娘だった。 けれど咲は、再会を喜ぶどころか震えながら言った。 「お願いだから、私を見つけないで」 さらに少女の左目の下には、咲と同じ小さなほくろがあった。 家の壁には、私と娘しか持っていないはずの古い写真。 そして7年間、婿が毎年私の家へ通っていた本当の理由が、少しずつ見え始めた。真相|親子関係1.5万字5 314 -
完結第11話
退職したら、双子を任された
「お義母さん、来月から双子を毎日お願いします」 38年間勤めた図書館の退職祝いで、嫁は私の前に銀色の合鍵を置いた。 認可保育園はすでに辞退すると連絡したという。 平日の朝8時から夕方6時半まで、3歳の双子を週5日預かれ――それが家族の決定だった。 夫も「退職したら暇だろう。孫の世話なら張り合いになる」と笑った。 誰一人、私の予定を尋ねようとはしない。 「断るなんて、孫がかわいくないの?」 長男に責められた私は、黙って鞄を開けた。 そして鍵の隣へ、家族には知らせていなかった1年間の雇用契約書を置いた。 勤務先は、北海道の小さな町の図書館。 開始日は来月1日。 「私は来月、北海道へ行きます」 凍りついた家族の前で、嫁が契約書をつかんだ――。嫁姑|裡の顔|親子関係1.6万字5 1090