"「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届" 第3話
8個の保容器
私がに乗った頃、浩司と里奈はまだ、私が3に戻ると信じていた。
最初のメッセージが届いたのは正午過ぎだった。
《いシャツ、どこにある?》
続いて里奈からも来た。
《来週のゼミ宿、あと2万円必。振り込んでおいて》
どちらにも返事をしなかった。窓を流れる宅を眺めていると、30分には浩司から《蔵庫の肉じゃが、今べていいのか》と届いた。保容器には付をいた付箋を貼ってある。読もうとしないには、何をいても同じだった。
実の最寄り駅には母の子が迎えに来ていた。私のキャリーケースときな提げを見るなり、母は眉を寄せた。
「3分にしてはくない?」
「あとで話す」
実は駅からで10分ほどの所にある。玄関の引き戸も、庭の百も、子どもの頃とほとんど変わっていなかった。をくぐった途端、張りつめていた肩から力が抜けた。
母が用してくれた部には、昔使っていたの机が残っていた。窓をけると畳となたの匂いが混ざり、庭から鈴の音が聞こえる。キャリーケースを置いた瞬、私は自分が3分ではなく、戻らないための荷物を選んできたことを初めて実した。
夕の席で、私は役所へったことを話した。父の夫は箸を置き、母は湯みにを伸ばしたままきを止めた。
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「今朝、婚届をしてきた」
母は驚いた顔をしたが、理由を問い詰めなかった。
父は「をげられたことはあるか」「預や分証は持ってきたか」と必なことだけを確かめた。暴力はない。通帳と印鑑、保険証、それに仕事で使う資格証は持ってきた。私が答えるたび、父はく頷いた。
殴られたことはない。ただ、が38.5度あったにも夕を作り、毎週曜には浩司の母へ話をかけ、親戚の祝い事と法事を20分覚えてきた。それらを浩司はすべて「にいるの仕事」という言で片づけた。声にすると、胸に沈めていたものが、ようやく形を持った。
「それで、3にはどうするの」
「まだ決めてない。でも、あのには戻らない」
母は私の顔をじっと見てから、静かに頷いた。
「じゃあ、3と言わず、ずっとここにいなさい」
浩司と同じ言葉なのに、は正反対だった。喉の奥がくなり、私は噌汁の椀へ線を落とした。
翌朝6、浩司から話が来た。無すると、すぐにもう度鳴った。3回目でると、挨拶もなく命令された。
「17には親戚が来る。のまでに戻れ。母さんの相もあるんだぞ」
「戻りません」
「里奈の学費だって、132万円も俺が払ってるんだ。のことくらいやるのが当然だろ」
「学費を払うことと、私を無の政婦にすることは別です」
自分のからた言葉が、静かな台所にはっきり響いた。
母がガス台のでを止めた。父は聞を読んでいるふりをしながら、ページを度もめくっていなかった。
話の向こうが静かになった。私が言い返すとはっていなかったのだろう。
蔵庫の常備菜は8個。きっちり3分しか作っていない。17の親戚を迎える料理も、姑への連絡も、もう私の仕事ではなかった。
通話を終えると、父が聞を畳んだ。
「真由美、浩司君の会社はどこだった?」
「栄物産だけど」
父の指が、聞の端で止まった。
「そこの社は、修じゃないか」
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