"兄を笑った銀行一家へ、300億円の解約通知" 第3話
郎の都という嘘
克彦は携帯をに押し当て、こちらに背を向けた。
「300億、全部なのか。定期だけじゃなく、決済も?」
声を落としたつもりなのだろう。けれど部には、兄がコップを机へ戻す音まで聞こえていた。修が息子の腕を引くと、克彦はく「正式な通だ」と答えた。
私の携帯にも宇野から連絡が入った。実施の指示を受けた財務担当が、用していた通を送信したという。本部の受領確認が添えられていた。
「確認できましたか」
修は机の名刺を拾い、今度は両で持った。
「柏さん、し話しおう。お互い、になっているようだ」
「兄を着替えさせたいので、ていただけますか」
「取引の話をしているんだ」
「そのご連絡は財務担当が受けます」
正子が兄の肩にを伸ばした。さっきまで席をつよう促していたが、今は引き留めようとしている。兄はを引き、机に残っていたい封筒を取った。
「お兄ちゃん、こう」
私が扉をけると、婚礼担当の尾さんが廊にいた。何かあれば声をかけられるよう、くで待っていてくれたらしい。
「お着替えのお伝いをお願いできますか」
「もちろんでございます。柏様、お荷物はこちらへお持ちしております」
兄は初めて園部の3を見ずにちがった。装係が部へ入り、私たちは廊へた。
広告
修はまだ名刺を持っていたが、私が尾さんの隣へ移ると、それ以はづいてこなかった。
待っているに、の成沢邦夫という専務から話があった。私はその名を聞いて、壁に預けかけた背を起こした。
『本部から報告を受けました。お取引の件につきまして、改めて説の会をいただけませんでしょうか』
「程は宇野と調してください。今は兄のそばにいたいので」
『承いたしました。本はご結婚式だったと伺っておりますが』
私は閉まった扉を見た。
「われませんでした」
詳しい説を求めず、成沢は話を終えた。しばらくしててきた兄は、紺のジャケットを着ていた。胸のがなくなると、いつも会う兄の姿に戻ったようで、私はようやくく息を吸えた。
尾さんが、し休める所をご用しますと言った。ロビーの奥の席へ移る途、兄は宴会のでを止めた。
扉の向こうにはいクロスの掛かったテーブルが並び、係が席札を集めていた。兄はその元を見てから、私に背を向けて歩きした。
温かいお茶が運ばれてきても、兄はしばらく触れなかった。尾さんは向かいの子に腰をろさず、まず兄に説した。
「今朝、ご契約者の園部修様から、挙式と披宴を取りやめるとのご連絡をいただきました。
広告
ご招待客への連絡は、ご族で済ませてあると伺っております」
「俺には、画しか来ていません」
兄が言うと、尾さんは頷いて帳をいた。
「お召し替えが終わった、柏様にも止の旨をお伝えしました。その際、お聞きになっていると伺い、こちらの説が分だったか確認できておりませんでした」
「あなたのせいじゃありません。妹を待つと言ったのは俺です」
尾さんは礼を言わず、もう度だけをげた。それから、兄へ確かめるように尋ねた。
「取りやめの理由につきまして、郎様のご都によるものと伺っております。こちらは、そのように記録しておりますが」
兄のが湯呑みので止まった。
「俺の都?」
「はい。差し支えなければ、事実関係を確認させてください」
私は兄の携帯を指したが、勝には取らなかった。兄は自分で画面をき、受信した画を尾さんに見せた。声が周囲へ漏れないよう音量をげ、最まで再した。
「俺は結婚するつもりで、9に来ました。止を頼んだことはありません」
尾さんは真剣な顔で頷き、本から説を受けた内容として記録し、責任者にも伝えると言った。
兄は携帯をしまい、ようやくお茶をんだ。
「来るはずだったたちにも、俺のせいだって言ったのかな」
尾さんはらないことを答えなかった。
私も、そので丈夫とは言えなかった。兄は何もらずに礼へ袖を通しているに、婚礼を壊した側にされていた。
「そこは、確かめよう」
私が言うと、兄は頷いた。今度は笑わなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
251840円の正月料理を持ち去った義母
結婚以来9年間、佐伯直樹の妻・由衣は、義母・久江に命じられるまま親戚一同の正月料理を準備してきた。今年の支払額は25万1840円。ところが大晦日、冷蔵庫から料理がすべて消える。防犯カメラに残っていたのは、合鍵で侵入し、保冷箱を弟夫婦宅へ運び出す久江の姿だった。それでも久江は由衣に買い直しを命じる。直樹が領収書と録音を保存すると、今回の持ち去りだけでなく、正月に費やした累計167万8000円、さらに両親へ送り続けた毎月6万円の意外な行方まで浮かび上がり始める。兄弟姉妹|嫁姑|親子関係|金銭問題2.6万字5 525 -
完結第14話
母に買った家を狙う婚約者
「結婚前に母親へマンションを買うなんて、嫁としての自覚がないわ」 未来の姑は、私が自分で貯めたお金の使い道まで責め始めた。 婚約者も「結婚後は僕たちの家庭を第一にして」と母親の味方をした。 私は怒らず、静かに尋ねた。 「分かった。じゃあ結婚後は、お互い自分の親には1円も援助しないってことでいいよね」 すると、2人の顔色が一瞬で変わった。 「それとこれとは話が別でしょう。長男の嫁なら夫の親を支えるのは当然よ」 私の母への援助は身勝手で、夫の両親への援助は当然らしい。 さらに姑は、母のマンションを「必要なら売ればいい」とまで言い出した。 なぜ私の預金額や退職金を、何度も確認していたのか。 なぜ婚約者は、突然結婚を急ぎ始めたのか。 私はバッグの中の茶封筒へ触れた。 そこには《最終通知》の文字と、約3000万円という金額。 そして婚約者の名前が記された、もう1枚の書類が入っていた。嫁姑|夫婦|相続|金銭問題2.0万字5 298 -
完結第10話
27年目、妻は食卓を捨てた
「……もう、必要ないのね」 27年間作り続けた夕食を、家族5人はスマホを見たまま無言で食べた。 「いただきます」も「おいしい」も、誰の口からも出なかった。 翌朝、私が食卓に残したのは一枚のメモだけ。 《今日から、自分のことは自分でお願いします》 夫は鼻で笑い、私が困って戻るよう家族カードまで停止した。 「パート代だけで、一人で暮らせるわけがない」 ところが3日たっても、私は助けを求めなかった。 家族が食事や洗濯、義母の薬の管理に困り始めた頃、娘が台所の奥で古いノートを見つける。 表紙には《家族のこと》。 そこには27年間、誰にも気づかれなかった私の記録が残されていた。 さらにノートから落ちた封筒には、夫が想像もしなかった書類が入っていた。 《常勤職員登用に関する雇用条件通知書》――返答期限は、今日だった。嫁姑|夫婦|親不孝1.6万字5 924 -
完結第10話
独身だから介護しろ
「来月で店を辞めろ。父さんの介護は、独身のお前がやれ」 父の退院祝いで、兄は私の名前だけが並んだ介護予定表を置いた。 朝食、服薬、入浴、夜間の見守り――月曜から日曜まで、休みはない。 姉も「あなたには守る家庭がないでしょう」と言った。 だが要介護2の父は、歩行器を使えば動けるうえ、介護サービスを利用する意思も示していた。 それでも兄姉は費用を惜しみ、私へ仕事を辞めさせようとした。 私は予定表を破り、「本人の前でもう一度決めよう」と告げた。 父は震える右手で、机を2度たたいた。 その意味が分かったのは3か月後だった。 ケアマネジャーから見せられたのは、私を主介護者とする《家族同意書》。 署名日は、私が北海道へ出張していた日だった。 そして費用管理者の欄には、父の通帳を預かる姉の名前が書かれていた――。兄弟姉妹|親不孝|親子関係|介護1.5万字5 276 -
完結第15話
「子供3人は全員連れてけ」と言った夫へ
「子供3人は全員お前が連れてけ」。離婚を切り出した恵美に、夫はそう言い放ち、同居の義母も「やっと静かになる」と笑った。仕事部屋を奪われ、子供たちの進路や楽しみまで制限されてきた家で、長男は静かに告げる。「その言葉、忘れないでね」。子供たちは全員、母と暮らすことを選んだ。ところが転居から1週間後、夫と義母から一晩で80件の着信が届く。洗濯、食事、通院、そして家の支払い。戻れと迫る夫は、恵美の新居の家賃が月28万円だと知り、借金を疑い始める。「内職」と見下していた妻の仕事は、本当は何を支えていたのか。恵美は家計簿と口座の明細を並べ、夫が見ようとしなかった数字を確かめていく。夫婦|親子関係2.2万字5 645 -
完結第15話
「帰ってこなくていい」と笑った家族――20年目の離婚届
43歳の真由美は、夫・浩司と19歳の娘・里奈のため、20年間休むことなく家事と親戚付き合いを担ってきた。ところがお盆に3日だけ実家へ帰ると伝えると、2人から「ずっと帰ってこなくていい」「ママがいないほうが平和」と笑われる。真由美は反論せず、8つの保存容器を残して家を出た。その手には、4か月前から20冊目の家計簿に挟んでいた離婚届があった。翌日、夫から届いた70件の着信。さらに家計簿から明らかになる672万円と、夫が失った8億円の肩書。家族が当然だと思っていた20年が、静かに数字へ変わり始める。夫婦|親子関係2.0万字5 435 -
完結第10話
墓前の少女は「娘は生きてる」と言った
「おばあちゃん、その人、生きてるよ」 7年前、豪雨の夜に消息を絶った娘・咲。 遺留品だけが河原で見つかり、私は娘の名を墓石に刻んだ。 命日前日、墓前に白い野の花を置いていたのは誰なのか。 そこへ現れた7歳の少女は、墓石を指して言った。 「その人、うちにいるよ。今、ご飯作ってる」 少女に連れられて海辺の古い家へ向かうと、台所から懐かしい声が聞こえた。 「……お母さん」 目の前に立っていたのは、死んだはずの娘だった。 けれど咲は、再会を喜ぶどころか震えながら言った。 「お願いだから、私を見つけないで」 さらに少女の左目の下には、咲と同じ小さなほくろがあった。 家の壁には、私と娘しか持っていないはずの古い写真。 そして7年間、婿が毎年私の家へ通っていた本当の理由が、少しずつ見え始めた。真相|親子関係1.5万字5 314 -
完結第11話
退職したら、双子を任された
「お義母さん、来月から双子を毎日お願いします」 38年間勤めた図書館の退職祝いで、嫁は私の前に銀色の合鍵を置いた。 認可保育園はすでに辞退すると連絡したという。 平日の朝8時から夕方6時半まで、3歳の双子を週5日預かれ――それが家族の決定だった。 夫も「退職したら暇だろう。孫の世話なら張り合いになる」と笑った。 誰一人、私の予定を尋ねようとはしない。 「断るなんて、孫がかわいくないの?」 長男に責められた私は、黙って鞄を開けた。 そして鍵の隣へ、家族には知らせていなかった1年間の雇用契約書を置いた。 勤務先は、北海道の小さな町の図書館。 開始日は来月1日。 「私は来月、北海道へ行きます」 凍りついた家族の前で、嫁が契約書をつかんだ――。嫁姑|裡の顔|親子関係1.6万字5 1090