"空っぽの弁当箱" 第5話
蓋をける。
空だった。
瞬、が分からなかった。
健の弁当箱もける。
空。
陸も。
芽も。
全部、きれいに洗われたまま何も入っていない。
「何これ?」
美は声をげた。
「お母さん、今のお弁当は?」
返事はなかった。
炊飯器もたい。
噌汁の匂いもない。
包丁の音も聞こえない。
健がネクタイを持ってりてきた。
「母さん、まだ寝てんの?」
「いないの。見てよ」
健は自分の弁当箱をけた。
「なんだよ、これ」
「全部空なの」
健は廊へた。
「母さん!」
返事がない。
部へく。
布団は畳まれ、鏡も帳もなかった。
クローゼットから着が何着か消えている。
「本当にていったのか?」
台所から美の声がした。
「健さん、これ」
蔵庫のメモだった。
健は度読み、もう度読んだ。
「事係をります……」
美は元を歪めた。
「どうせ夕方には帰ってきますよ」
「でも荷物ないぞ」
「58歳で急に1で暮らせるわけないでしょ。しってるだけです」
健も計を見た。
もう会社へなければならない。
「とにかく今どうすんだよ」
そこへ陸と芽がりてきた。
「弁当ないの?」
陸が聞いた。
芽も自分の箱をけた。
「おばあちゃんは?」
健は財布から札を取りした。
「今はコンビニで買え。ないからくしろ」
「デザートもいい?」
「好きにしろ」
その朝、誰もはる子へ話をかけなかった。
をたことより、弁当がないこと。
広告
朝がないこと。
会社や学に遅れそうなこと。
困った順番は、まだそれだった。
1目の夜。
健は、ファミリーレストランで夕を済ませた。
美はメニューを閉じながら言った。
「まあ今だけでしょう」
健もをんだ。
「放っとけば帰ってくるよ」
陸も芽も、になったことをし楽しんでいた。
へ戻る途、スーパーのを通ったが、誰も入らなかった。
翌朝もはる子はいなかった。
朝はコンビニ。
昼もコンビニ。
2目の夜になると、洗濯籠がいっぱいになった。
陸の野球部のユニフォーム。
芽の体操。
健のワイシャツ。
美のブラウス。
「今、全部回せばいいでしょ」
美が洗濯ので言った。
だが翌必な物と、急がない物が混ざっていた。
はる子なら、の予定から逆算して順番を決めていた。
「陸のユニフォームは先にした方がいいんじゃない?」
健が言った。
「私のブラウスも着るんだけど」
「じゃあ2回回す?」
「もう11よ」
2は顔を見わせた。
それまで洗濯は、洗濯のボタンを押せば終わるものだとっていた。
何を先に洗うか。
ならどこに干すか。
翌朝までに乾くか。
アイロンが必か。
その判断まで誰かがしていたとは考えたことがない。
さらに芽が、学からの封筒を持ってきた。
「これまで」
「何?」
「教材費」
美が付を見て表を変えた。
広告
「なの?」
「からランドセルに入ってた」
健が財布をき、必な額を数えた。
封筒にを入れながら、ふとが止まる。
「母さんなら、もっとに気づいてたよな」
美は返事をしなかった。
3目。
卓にはレシートが溜まっていた。
コンビニ。
惣菜。
。
ドラッグストア。
急に必になった用品。
美が計アプリへ入力していくと、3で費だけでも1万3000円を超えていた。
「こんなに使ってる?」
健が画面を覗く。
「朝も昼も夜も、そので買ってるからよ。このままだと相当かかる」
美はさらに、事代サービスの料を調べ始めた。
朝の弁当作り。
買い物。
夕作り。
洗濯。
掃除。
項目をすたび、額ががっていく。
「朝5から頼むと朝料もかかる」
「いくらになる?」
美は答えづらそうに画面を見た。
「全部頼んだら、20万円くらいになるかも」
健の顔が止まった。
「20万?」
「数にもよるけど。材費は別よ」
部が静かになった。
はる子は毎5万円を渡していた。
そので、毎朝5から4分の弁当を作っていた。
買い物をし、夕を作り、洗濯し、掃除し、子どもたちの予定を覚えていた。
健はテーブルの端に置いた空の保バッグを見た。
3まで、母は毎朝そこへ弁当箱を入れ、何も言わずに渡してくれた。
自分は、そのが気に入らないさえあった。
「俺……」
声がた。
「母さんを養ってるつもりだった」
美は何も言わなかった。
「5万円しか入れてないって、俺も普通にってた」
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 49 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 53 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 96 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 100