"院長が頭を下げた看護師の妻" 第11話
2分の弁当
目覚ましが鳴るに起き、俺は台所へ入った。窓のはるくなり始めていた。昨夜決めた献を携帯で確かめ、蔵庫から卵と野菜をした。
卵焼きを返すところで端が崩れた。箸でえようとすると、かえって形が悪くなる。俺はを止め、まな板へ移してから切り分けた。
「いい匂いがします」
振り向くと、奈々が入にっていた。髪をまとめながら、並んだ弁当箱へ目を向けた。
「形は、見逃してくれ」
「見してもいいですか」
俺が端のさな切れを渡すと、奈々はに入れ、し考えてから笑った。
「し甘いですね。私は好きです」
いつもべていたにづけたつもりだったが、同じにはならなかった。俺もべてみて、次は砂糖をし控えようとった。奈々は残りにをさず、湯を沸かし始めた。
おかずをましているに、朝を取った。卓の端には、妻が昨夜そろえた資料があった。いちばんのに、浜医療センターの名が見える。
「今から、また向こうだな」
「はい。戻ったら、まず申し送りを受けます。応援ののことも、師にお話しする予定です」
「研修の話も?」
奈々は頷いた。学病院と所属先ので調がつき、次の同研修でも、観察と報伝達を担当することになったという。普段の勤務を続けながら、準備するも確保してもらえた。
広告
「次は、報告を言い直す方の練習を増やします。の回で、参加した方から質問をいただいたので」
奈々は資料の端をめくり、き加えた箇所を示した。回のカードをそのまま使うつもりはないらしい。受け答えが止まる面を変えたいと、鉛で印がついていた。
俺は箸を置いて聞いた。妻は説しながら、自分でもまだ考えているところをにした。
「これで分かりやすいか、もうし試したいんです」
「俺でよければ、相になる」
「じゃあ、今度、実際に返事をしてください。資料にいてあるとおりじゃなくて」
奈々はそう言ってを戻した。俺は空いている夜を確かめ、妻とを決めた。帰宅に急な用事が入ったら、黙って待たせずに連絡することも忘れないよう、予定に入れた。
、俺は弁当箱へおかずを詰めた。きい箱に入れ過ぎた野菜をさい方へ移すと、奈々がそばから覗いた。
「そちらは、あなたの分がなくなりませんか」
「丈夫。ご飯はこっちにく入ってる」
奈々は箱のを見比べ、頷いた。俺はふたを閉め、普段使っている袋へ入れた。妻の分を差しすと、奈々は両で受け取った。
「ありがとうございます。お昼にべるのが楽しみです」
「べたら、を聞かせて」
俺が流しの皿を片づける、奈々は玄関で靴を履いた。鞄のから、さっきの資料を入れたいファイルが見えていた。
「ってきます」
「俺もる。し待って」
を拭き、鞄と弁当を持って玄関へく。奈々は扉をけ、俺が靴を履き終わるのを待っていた。へると、朝の空気が頬に当たった。
駅までのを並んで歩きながら、奈々は久しぶりに会う同僚の話をした。応援へ来る、輩と考えていた改善案があるのだという。戻ったら続きを相談したいと話す声に、し弾みがあった。
交差点で、渡る方向が分かれた。奈々が鞄を肩に掛け直し、こちらを見た。
「それじゃ、ってきます」
「ってらっしゃい。俺も、ってきます」
信号が変わり、奈々が歩きした。弁当の入った鞄が、妻の取りにわせてさく揺れた。俺は自分のにも同じみがあるのを確かめ、病院へ向かった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
同じ部署の社員が月30万〜50万円もらう中、私の月給だけは18万円だった
44歳の水野は、同じ開発部の正社員が月30万〜50万円を受け取る中、4年間ずっと月給18万円の契約社員として働いてきた。肩書は「技術補助員」だが、最大顧客のシステム保守や障害対応、大型更新まで実務の中心を任されている。それでも契約満了の日、人事から差し出された更新書類には、また同じ18万円の数字が並んでいた。「代わりはいくらでもいる。ほかに行く当てがないなら署名したほうがいい」。水野はペンを取らず、待遇差の説明を求める書面だけを提出する。そして午後4時、会社が用意した18万円の契約書ではなく、鞄に隠していた“もう1通の書類”を机の上へ置く――。職場逆転2.6万字5 5042 -
完結第12話
靴磨きの少年と会長の時計
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転|人生逆転1.7万字5 643 -
完結第14話
「お前は下がれ」白衣を脱いで5年、俺が社長令嬢を救った
東大医学部を首席で卒業した遠藤誠は、38歳の元心臓血管外科医。5年前の手術をきっかけに病院を辞め、今は過去を伏せて工場で働いている。ある日、視察に訪れた28歳の社長令嬢・沢美咲が倒れた。医師は過労と判断し、工場長は誠に下がれと命じる。しかし、発熱と低血圧、鈍くなる反応を見た誠は、制止を振り切って救急要請を続ける。その場にいた医師は、誠を追い詰めた元上司だった。搬送先で隠していた経歴が明かされる一方、美咲は5年前の患者の名前を口にする。さらに、廃棄されたはずの機器に返却記録が見つかり、誠は再び過去と向き合うことに。あの日、本当に判断を誤ったのは誰だったのか。奪われた名誉を取り戻す、元外科医の逆転劇。職場逆転2.0万字5 2 -
完結第10話
月8万円の町工場社長
俺は34歳の町工場社長。 肩書だけなら立派だが、役員報酬は月8万円。工場を守るために作った800万円の借金まで抱えていた。 そんな俺に、大手機械メーカー・白石精機の社長令嬢との見合い話が舞い込んだ。断られるつもりで貯金もないと正直に話したのに、琴子さんは微笑んだ。 「三浦さん。あなた、合格です」 ところが数日後、白石精機の幹部が工場へ現れた。琴子さんとの関係を断てば、年間数千万円の仕事を回すという。 工場には、治療を続ける妻を持つ職人も、子どもの学費を抱える社員もいる。断れば皆の生活に影響する条件だった。 さらに白石精機から、他社がすべて断った緊急部品の依頼が届く。材料は15本、必要数は12個。しかし6本を加工した時点で、合格品は一つもなかった。 残り9本では、どう計算しても足りない。 追い詰められた俺が開いたのは、亡き父の黒いノートだった。その中には22年前、まったく同じ部品を削った記録が残されていた――。職場逆転|人生逆転1.6万字5 772 -
完結第19話
1800円の御膳が1万8000円になった日――覆面社長が見つけたホテルの嘘
全国18店舗を経営するホテル会社の社長・高瀬直人は、相次ぐ不審な苦情を確かめるため、一般客を装って地方店を訪れた。注文した1800円の炊き込みご飯御膳に提示された会計は、10倍の1万8000円。さらに72歳の女性も、3000円の料理代として3万円を脅し取られてしまう。直人が録音と2枚の領収書を確保すると、削除された503件の苦情、36件の架空請求、そして支配人が差し出した500万円の封筒が浮かび上がる。服装で客を選び、ホテルを金を奪う罠へ変えたのは誰なのか。職場逆転2.5万字5 3390 -
完結第13話
「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”
東京・深川で「柚香庵」を30年間守ってきた72歳の高瀬澄子。ある日、5人組の客から「そばに異物が入っている」と怒鳴られるが、正体は自家製の柚子薬味に残った種だった。ところが、男たちの目的は食事ではない。1億2000万円相当の土地を1800万円で奪うため、1分41秒の映像を32秒に切り、店主が異物混入を笑ってごまかしたように拡散したのだ。店の評価はわずか2時間で4.7から2.1へ。さらに保健所へ金属片の写真が届き、午前2時17分、閉店後の裏口に人影が現れる。30年分の信用を奪われかけた澄子は、孫とともに記録を残し始めた。職場逆転|金銭問題1.8万字5 620 -
完結第6話
会長、腕時計に盗聴器があります!
有楽町の高架下で靴を磨く18歳の佐藤蓮には、他人には聞こえない微かな機械音を聞き分ける力があった。ある日、常連客である東都ホールディングス会長・田中健三の腕時計から、機械式時計には存在しない電子音を聞き取る。留め具から現れたのは、米粒ほどの盗聴器だった。会長に請われて本社へ入った蓮は、次々と情報漏洩を防ぐが、やがて産業スパイに仕立て上げられる。300万円の入金、深夜の入館記録、捏造写真。会社だけでなく帰る場所まで奪われた少年は、古い靴箱に残した証拠を抱え、会長を追い落とそうとする陰謀に立ち向かう。職場逆転9.0千字5 218 -
完結第5話
「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私
中卒ながら独学で資格を取り、旅行会社に中途入社した22歳の天野澪。現場経験を生かして難航していた企画を救っても、学歴を嘲る竹内部長に成果を奪われ続けていた。やがて澪は、予約困難な老舗旅館・天祥館の視察枠を獲得する。ところが出発前夜、竹内は部下を脅し、澪の航空券だけを密かに取り消した。羽田空港に1人残された澪へ届いたのは、「中卒は留守番してろ」というLINE。事情を知らず天祥館へ着いた同僚たちを待っていたのは、チェックインを認めない女将だった。なぜ女将は、不在の新人を待つのか。そして澪が保存した操作履歴と録音は、竹内の嘘をどこまで暴くのか。職場逆転8.1千字5 1944