"嫁の「逃げて」で暴かれた妻の計画" 第1話
「あなた、おがなくても丈夫だから。これ、今ここで噛んでんでちょうだい」
妻の美佐が差しした掌のに、さない錠剤が粒乗っていた。
そのの朝、私たちは野へ向かっていた。数から美佐が「諏訪の古は葉がきれいだから、散ってしまうに緒に歩きたい」と何度もにしていたため、久しぶりの夫婦旅を楽しみにしていたのだ。
美佐と再婚して3になる。先妻をくしたあと、で暮らしていた私にの紹介でづいてきた彼女は、いつも穏やかで気が利き、朝になれば噌汁を作り、寒いには私のを両で包んで「たいですね」と笑うようなだった。
還暦を過ぎてから、もう度こんな温かな暮らしができるとはっていなかった。
だから、そのい錠剤を見たも、最初はく考えなかった。
「何の薬だ?」
「酔い止めですよ。最、に乗ると疲れるって言っていたでしょう。なしで噛めるタイプですから、今んでおいた方が楽ですよ」
私はハンドルを握ったまま首をかしげた。確かに以より距運転のあと疲れるようにはなったが、私は昔から酔いをしたことがない。
「サービスエリアでを買ってからでいいよ」
「本当にはいりませんよ」
美佐は柔らかく笑い、もう度掌をこちらへづけた。
広告
その表は、夫を気遣う妻そのものだった。
それでも、なぜかそのはむ気になれなかった。
「急ぐものでもないだろ。でな」
そう答えると、美佐はそれ以勧めず、さな袋へ薬を戻した。
その仕があまりにも自然だったため、胸をかすめたさな違も、しばらくすると消えていった。
速をほどると、方にサービスエリアの標識が見えた。週末ということもあり、駐には観バスや族連れのがぎっしり並び、建物へ向かう々の列が絶えなかった。
をめると、美佐はまたあの袋を取りした。
「あなた、トイレから戻ったら今度こそんでくださいね。コーヒーをむの方がいいといますから」
その瞬、ポケットの携帯話が鳴った。
画面に表示された名を見て、私はし驚いた。
《桜》
息子・也の妻、つまり私の嫁だった。
桜はのいいタイプではない。必な連絡はしてくれるが、用事もないのに話をしてくることなどほとんどなかった。
「もしもし」
通話ボタンを押した途端、切羽詰まった声がび込んできた。
「お義父さん、今どこにいらっしゃいますか?」
「サービスエリアだよ。どうした、何かあったのか?」
話の向こうから荒い息遣いが聞こえた。
そして次の言葉に、私は背からたいものを流し込まれたような覚に襲われた。
広告
「お義父さん、今すぐトイレにくふりをしてからりてください」
「……何だって?」
「美佐さんかられてください。絶対に、あのには戻らないでください」
私は反射に助席の妻を見た。
美佐は何事もない顔でバッグのを理していた。
「桜、何を言ってるんだ」
「説はでします。今だけは私を信じてください。それから、美佐さんが何かべ物や薬を渡してきても、絶対にに入れないでください」
臓がきくねた。
い錠剤。
つい数分、美佐が「今すぐんで」と勧めてきたものだった。
「あなた、どうしたの?」
助席から美佐が振り向いた。
「話、誰?」
私は必に平静を装った。
「ああ、也だ。したことじゃない。それよりトイレを急いでいてね」
「そう。くってらっしゃい」
その笑顔を見た、かえって恐ろしくなった。
私はをり、ろを振り返らずに歩いた。最初は普通の速度だったが、かられるにつれて自然とが速くなり、観バスが並ぶ角へ入ったところできな体のへを隠した。
そこからそっと駐を覗いた。
しばらくして、私たちののドアがいた。
美佐がりてきた。
最初は夫を配して探しているように見えた。しかし数秒、駐を見回す彼女の顔から笑みが消えた。
目だけが鋭くいていた。
トイレの。
売。
ベンチ。
バス乗り。
まるで、どこかへ消えた夫を配しているのではなく、逃げた何かを探しているようだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 15 -
完結第11話
新婚初夜の裏切り
結婚式を終えた夜、美香はホテルの浴室から、夫の健太が自分のバッグを探る姿を目撃する。持ち去られたのは、父から贈られた1億円の預金口座のキャッシュカードだった。翌朝、健太は「弟の用事がある」と言ってホテルを出ていく。以前から義母と義弟は、8800万円の新居を欲しがっていた。まさか、私のお金で家を買うつもりなの? 夫を問い詰めず、黙って様子を見る美香。やがて不動産会社から、思いもよらない電話がかかってくる。結婚初日に露わになる夫の本性と、美香が密かに用意していた対抗策とは。兄弟姉妹|夫婦|ATM扱い|金銭問題1.8万字5 21 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 608 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 56 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 42 -
完結第20話
夫の昇進を伝えた瞬間、父が命じた全財産の移転
夫・達也の専務昇進を喜んだ美桜。ところが父に報告すると、返ってきたのは祝福ではなく、「財産をすべて母さんの名義に移しなさい」という不可解な指示だった。昇進を境に夫は横柄になり、義母まで豪邸と通帳を自分たちのもののように扱い始める。さらに、高額な宝石の領収書や会社の不審な資金移動が見つかり、美桜は夫の裏の顔を知っていく。嫁姑|夫婦|金銭問題2.5万字5 58 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 479 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 516