"20人の宴会、妻は2つの鞄を用意していた" 第6話
最初の録音
美紀が再ボタンを押すと、応接に敏子の声が流れた。
〈優奈、まだ3枚残ってるでしょう。全部洗うまで夕飯はなし。美紀さんもをさないで。この子のためにならないから〉
続いて、器がぶつかる音と優奈の泣き声が入っていた。録音は宴会の6、午748分。母が「伝い」と呼んでいたものの内容が、最初の30秒でらかになった。
「止めなさい」
母がテーブル越しにスマートフォンへを伸ばしたが、美紀は端末を引き寄せた。管理がちがると、母は渋々子へ戻る。
純平は「子どもが言うことを聞かなかったの話だろう」とを挟んだ。すると美紀は録音の詳細画面をき、を含む7分のデータが残っていることを示した。都のいい30秒だけを切り取ったものではない。
「全部聞きますか」
美紀に問われ、純平は返事をしなかった。母も再を止めろとは言わなくなったが、膝ので握った指だけが落ち着きなくいていた。
2件目は午53分の録音だった。
〈朝は焼き魚と煮物と卵焼き。お噌汁は作り直して。洗濯は使わないでね。私の物は全部洗いって言ったでしょう〉
美紀の声は、ほとんど聞こえない。ただ「分かりました」と答えた直、蛇からが流れる音がく続いていた。
「こんな朝から、毎やらせていたのか」
広告
私の問いに、母は「録音されただけよ」と言い換えた。しかし、美紀は再を続けなかった。11件すべて聞かせなくても、すでに母自の言葉で分だった。
「次はおの確認をします」
美紀は録音を止めるに、母が客との話で〈嫁は朝から使えるから助かる〉と笑っている部分まで再した。私はイヤホン越しに聞き流していた母のるい声をいした。あの声の裏で、美紀はたいにを浸していたのだ。
美紀がのファイルから、宴会業者の納品とカード利用細をした。料理、酒、、配送料をわせて23万6400円。支払いには、母へ料品の買い物用として渡していた族カードが使われている。
母は唇を尖らせた。
「皆さんには頃お世話になっているの。あなたの顔をてるための集まりだったのよ」
「私の顔をてるために、妻と5歳の娘を働かせたのか」
細を追うと、支払いは宴会の1週に分けてわれていた。母はそのたびに〈品が値がりした〉〈健の好きな物も買っておく〉とメッセージを送り、私も確認せず承している。カードを渡した責任まで母だけに押しつけることはできなかった。
「このカードを管理しなかったのは私の責任だ。だから私が止める。ただし、使った理由まで曖昧にはしない」
私はそのでカード会社のアプリをき、母の族カードを利用止にした。
広告
画面に〈続きが完しました〉と表示されるまで確認する。
続いて、の自振込設定をいた。私は母が同居を始めるから、活費として毎15万円を送っていた。同居は居費も費も私たちが負担していたが、振込だけは「の習慣だから」と続けていた。
「この振込も止める。今、本当に必な費用があるなら、と支を確認して兄さんたちと分担する」
母の顔から、初めてりとは違うが消えた。
「実の母親を、おで脅すの?」
「脅していない。私が見ないふりをするために払っていたを、今でやめるんだ」
振込止の確認メールが届くと、母は初めて私ではなく純平を見た。助けを求める線だったが、純平は類を読むふりをして顔をげない。そのわずかな沈黙で、母が当然だとっていた支えが、誰のにだけ乗っていたのかが見えた。
さらに私は、産登記の控えを純平のへ置いた。美紀が900万円を資し、このの3分の1を所していることも改めて示す。
「美紀は母さんの世話をするためにまわせてもらっていたじゃない。このの所者だ」
純平は類を度見ただけで、私へ押し返した。
「それでも母親を放りす理由にはならない。おは稼いでいるんだから、今までどおり面倒を見ればいいだろう」
「兄さんは?」
「何が」
「母さんがうちで暮らした11か、兄さんはいくらした?」
応接の壁掛け計だけが、乾いた音を刻んだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
孫の一言で取り戻した通帳
「ばあばの通帳、ママのバッグにいつも入ってるよ」 年金支給日の朝、6歳の孫が何気なく口にした。 嫁の箸が止まり、黒いバッグから緑色の通帳ケースが覗いていた。 2年前、骨折した私に代わり、毎月4万円だけ下ろす約束で預けたものだった。 「今日は自分で記帳してくるわ」 そう告げると、嫁の顔から血の気が引いた。 近所の信用金庫で、1年8か月ぶりに通帳を開く。 4万円だった出金は、いつしか6万、8万、10万円へ増えていた。 そして今日も、私が朝食を取る前に8万円が引き出されていた。 私は何も問い詰めず、キャッシュカードを停止した。 その日の午後、嫁は青ざめて帰宅した。 さらに翌日、ゴミ箱から落ちたATM明細を広げた瞬間――私はその8万円が生活費ではなかったと悟った。人生逆転|祖父母と孫|嫁姑|第二の人生|金銭問題1.6万字5 323 -
完結第16話
24年育てた息子の結婚式に、私の席はなかった
夫が別の女性との間にもうけた息子を、24年間育ててきた53歳の森田恵子。スーパーで働き、医学部の学費を支えてきた彼女に、結婚式の前夜、息子は告げる。「親族席には実母が座るから、母さんは来ないで」。夫も息子をかばい、恵子の欠席を体調不良のせいにしていた。翌朝、「一般席なら用意できる」と呼び戻そうとする夫を、恵子はきっぱり断る。息子の荷物を返し、今後の援助を見直し始めた矢先、家計の口座から相談もなく50万円が送られていたと知る。振込先は、新婦の父親だった。夫がその金で納得させたという「説明」とは何か。黒留袖を畳んだ母は、家族に消された自分の時間を取り戻すため、記録をそろえ始める。親子関係2.2万字5 738 -
完結第11話
息子に捨てられた母の逆転
「お母さん、今日は少し外へ出ませんか」 息子夫婦に誘われ、70歳のはる子は雪の降る夜、車の後部座席へ乗った。 ところが車は町を離れ、山沿いの介護ホームの前で止まった。 「数日だけ、ここで休んでください」 そう言われた時、トランクから自分のスーツケースが出てきた。 荷物はいつの間にか詰められ、携帯電話は嫁に取り上げられた。 息子は「また来るから」と言い残し、母を301号室へ置いて帰った。 翌日、嫁は面会に来るなり尋ねた。 「通帳はどこですか? 実印は?」 さらに、見覚えのない白い錠剤を「いつもの薬」として渡してきた。 はる子は黙って薬を受け取り、認知症のふりを始めた。 そして翌日の病院で、嫁が電話口で話す声を聞く。 「診断が出たら、家も通帳も動かしやすくなるでしょう」 はる子はその会話を、コートの内側に隠した一本の録音機へ残していた。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|金銭問題1.7万字5 226 -
完結第11話
3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日
3か月寝たきりの娘・さやかを、婿の健二は「海外の専門医に相談している」と自宅で看病していた。感染対策を理由に、面会まで禁じられた母・恵子。最後に娘の顔を見てから10日。婿が出張に出た朝、閉ざされた寝室から異臭が漂う。恵子は119に通報し、娘を病院へ連れ出した。体重は34kg。最後に診察を受けた日さえ、母は答えられなかった。娘は「あそこには戻さないで」と訴える。治療を進める病院へ、今度は健二が妻を取り戻しに現れる。一方、娘が指先を伸ばしたベッドの隙間からは、2錠の薬が見つかる。献身的な夫は、何を隠していたのか。娘が口にできなかった言葉をたどり、母は3か月の「看病」の真実に迫っていく。親子関係|介護1.8万字5 0 -
完結第17話
毎月20万円送っていたのに、82歳の母は皿を洗っていた
毎月20万円を送っていれば、母は不自由なく暮らせる。大企業を築いた佐藤健二は、そう信じて15年を過ごしてきた。ところが、偶然入った食堂で再会した82歳の母は、膝をかばいながら皿を洗っていた。「最後にお金が届いたのは、14年も前だよ」。母の家計簿には、仕送りが減り、やがて途絶えた記録が残っていた。一方、健二の口座からは今も毎月20万円が引き落とされている。母を支えてきた弟の手元には、健二に届かなかった入院の連絡まであった。金も、家族の声も、誰かが途中で止めていたのか。記録をたどる健二の前に浮かび上がる、信じ続けた人間の影。母が守ってきた小さな家計簿が、会社を揺るがす追及の始まりになる。親子関係|金銭問題2.2万字5 2 -
完結第11話
金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた
「ほら、都。ここからジャンプしてみなさい」 小学3年生だった私の記憶は、母のその声を最後に途切れている。 次に目を覚ました時、私はもう自分の脚を動かせなかった。 母は「娘が自分でベランダへ登った」と説明し、私の退院前に姿を消した。 それから9年。 車椅子陸上で世界を目指し始めた私の前へ、母が突然戻ってきた。 「ずっと会いたかった。今度こそ支えたいの」 私はその言葉を信じず、母を追い返した。 だが忘れ物を取りに戻った時、駐車場で誰かと電話する母の声が聞こえた。 「大丈夫。あの子、ベランダのこと覚えてないみたいだから」 私は震える手でスマートフォンを取り出し、録音ボタンを押した。真実|裡の顔|親子関係1.6万字5 1 -
完結第11話
義母「家を売って弟の借金を返せ」夫に奪われかけた私の家
「家を売って、弟の1000万円の借金を返しなさい」 義母が要求したのは、私が結婚前に自分のお金で買ったマンションだった。 断ると夫は私の腕をつかみ、口の中が切れるほど強く頬を打った。 「最初から言うことを聞けば、こんなことにはならなかったんだ」 私は空手三段で、避けることも反撃することもできた。 それでも殴り返さず、天井の防犯カメラを見上げた。 そこには夫の暴力だけでなく、義母の言葉まで残っていた。 「正也、言うことを聞かせなさい」 さらに録画を遡ると、2人の小声が聞こえてきた。 「権利書と実印さえ出させれば、あとは進められる」 翌日、義母は合鍵を使って留守宅へ入り、私の金庫を探し始めた。 そして夫が用意した不動産査定依頼書には、義母が家を売れと言い出す4日前の日付が記されていた。嫁姑|夫婦|絶縁|金銭問題1.6万字5 193 -
完結第12話
失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由
「パパ、あの人……ママじゃない?」 半年前に消息を絶った妻が、山あいの道の駅で宝くじを売っていた。 車椅子に座り、別人のように痩せていた。 娘が「ママ!」と駆け寄ると、妻は青ざめて叫んだ。 「来ないで! 私はあなたたちを知らない!」 だが左手には、私が贈った結婚指輪。 そして手の甲には、見慣れた2つのほくろがあった。 「本当は、ずっと会いたかった」 妻は泣きながら娘を抱きしめた。 その直後、震える声で私に告げた。 「私が帰ったら、あなたと杏奈まで消される」 さらに宝くじ箱を差し出し、底を指さした。 そこには、妻が消息を絶った夜の“声”が残されていた――。 (続)因果応報|人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係1.9万字5 658 -
完結第10話
空っぽの弁当箱
「5万円の居候でしょ?」 そう笑われながら、58歳の私は毎朝5時に起き、息子一家4人分の弁当を3年間作り続けた。 息子の好物、嫁の職場向けの彩り、孫の部活用のおにぎりまで、全部私が考えていた。 食費や学校用品も、足りない時は自分の財布から払った。 それでも家族から返ってくるのは、「家事くらいちゃんとしてよ」という言葉だけ。 迎えた58歳の誕生日、誰も私の誕生日を覚えていなかった。 「今日で、この家の家事係を降ります」 そう告げても、息子は「またすねてる」と笑った。 その夜、私は誰にも何も言わず、自分の荷物だけをまとめた。 翌朝、台所に並んでいた4つの弁当箱は、すべて空っぽだった。 冷蔵庫には、短いメモが一枚だけ残されていた。 そして家族は初めて、私が毎月5万円以外に何をしていたのかを知ることになる。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|親子関係|金銭問題1.4万字5 377