"毎月20万円送っていたのに、82歳の母は皿を洗っていた" 第16話
通帳を閉じたあとで
翌朝、健は母に話した。仕事の程が変わったことを説し、病院の予約について尋ねた。
「今度は検査もあるから、そのにきたい。勝は仕事でしょう」
「うん。僕が予定を調できるか、今に確かめる。決まったら、自分で連絡するよ」
母はく分かったと言った。健は話を切り、で予定していた議題を担当役員と確認した。初の現報告は担当者がい、自分の席する協議を翌へ移せないか、先方と相談した。
承を得て発便を変更し、そののうちに母へ伝えた。通院を終えてから発すれば、次の協議ににう。勝の修理予約を取り消す必もなかった。
当、病院から母を送り届けると、母は玄関で健の鞄を見た。
「忘れ物はない? こっちは勝が帰ってくるから、丈夫だよ」
「ありがとう。ってくる」
へ戻る健を、母はすりにつかまって見送った。
になっても、活費は毎、母の座へ直接入った。健は訪ねるに都を聞き、通院のないには買い物や庭の片付けをした。母に「今は友達が来るから」と言われたは、別のを相談した。
ある夕方には、炊飯器の加減を違えた。勝が帰るに事を用しようと張り切ったのだが、蓋をけた母は、ご飯をしゃもじですくって笑った。
「柔らかいね。
広告
今度は、この目盛りまででいいよ」
健は目盛りを確かめた。次に来たも同じ炊飯器で炊き、今度は母に見をしてもらった。
母がでも話を使いたいと言い、勝と3でへったこともあった。母は文字のきな種を選び、健と勝の番号を自分で押して確かめた。健はい操作のメモをき、母の鏡の横へ置いた。
そのに、3450万円の返還条件も面でまとまった。側は資産の処分などで支払原資を用し、定めた期限に沿って返還をめた。弁護士は約束の面だけで済ませず、その都度、実際の入を確認した。
、最の入があった。戻った先は、もともと活費をしていた健自の座だった。返還額の計は3450万円。健は入細と報告の数字を照し、全額を確かめた。
くへ流れていた自分のが、ようやく元へ戻った。健は確認した面を閉じ、弁護士へ受領を伝えた。
会社の8億4000万円については、別に回収と調査が続いていた。個資を返したことで、の責任がすべて消えるわけではない。会社へ戻す話もなく、残る請求は担当者と代理がめていた。
その週末、健は母にも返還が済んだことを話した。母は計簿の鉛を置き、最まで聞いた。
「そう。ちゃんと戻ったんだね」
「うん。毎の活費は、これからも今までどおりだよ」
母はうなずいた。返還を待つも、送を止めたはなかった。母の元の通帳には、その記録が並んでいた。
母は計簿をしまうと、戸棚の奥からい鍋をしてほしいと言った。健が取りすと、これからはに置いてほしいという。彼は母がったまま取れる棚を空けた。
「そこなら、自分でせる」
母が確かめてから、健は鍋を置いた。
再会から半がたった1、会議を終えた健の携帯話が鳴った。画面にていたのは、勝の名ではなかった。
母の携帯話の番号だった。伝って登録したその番号から、母自がかけてきていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
孫の一言で取り戻した通帳
「ばあばの通帳、ママのバッグにいつも入ってるよ」 年金支給日の朝、6歳の孫が何気なく口にした。 嫁の箸が止まり、黒いバッグから緑色の通帳ケースが覗いていた。 2年前、骨折した私に代わり、毎月4万円だけ下ろす約束で預けたものだった。 「今日は自分で記帳してくるわ」 そう告げると、嫁の顔から血の気が引いた。 近所の信用金庫で、1年8か月ぶりに通帳を開く。 4万円だった出金は、いつしか6万、8万、10万円へ増えていた。 そして今日も、私が朝食を取る前に8万円が引き出されていた。 私は何も問い詰めず、キャッシュカードを停止した。 その日の午後、嫁は青ざめて帰宅した。 さらに翌日、ゴミ箱から落ちたATM明細を広げた瞬間――私はその8万円が生活費ではなかったと悟った。人生逆転|祖父母と孫|嫁姑|第二の人生|金銭問題1.6万字5 323 -
完結第15話
暗証番号0427――元夫が残した24回の送金
離婚の日、朝倉美月は夫の優馬から1枚のカードを渡された。「これで最後だ。暗証番号は0427」――冷たく突き放された美月は、そのカードを3年間使えずにいた。失業し、預金が7300円まで減ったある日、ついにATMへ入れるとエラーが表示され、銀行員から別室へ案内される。そこで知らされたのは、優馬が前年11月9日に亡くなっていたこと。そして口座には、離婚後も毎月27日に9万円ずつ、合計24回の送金が続いていた。残高808万円と古い喫茶店に込められた真意を知った時、美月は、愛情を理由に人生を決められた怒りと向き合いながら、自分自身の答えを選び始める。夫婦|金銭問題|熟年離婚2.0万字5 3139 -
完結第16話
24年育てた息子の結婚式に、私の席はなかった
夫が別の女性との間にもうけた息子を、24年間育ててきた53歳の森田恵子。スーパーで働き、医学部の学費を支えてきた彼女に、結婚式の前夜、息子は告げる。「親族席には実母が座るから、母さんは来ないで」。夫も息子をかばい、恵子の欠席を体調不良のせいにしていた。翌朝、「一般席なら用意できる」と呼び戻そうとする夫を、恵子はきっぱり断る。息子の荷物を返し、今後の援助を見直し始めた矢先、家計の口座から相談もなく50万円が送られていたと知る。振込先は、新婦の父親だった。夫がその金で納得させたという「説明」とは何か。黒留袖を畳んだ母は、家族に消された自分の時間を取り戻すため、記録をそろえ始める。親子関係2.2万字5 738 -
完結第11話
3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日
3か月寝たきりの娘・さやかを、婿の健二は「海外の専門医に相談している」と自宅で看病していた。感染対策を理由に、面会まで禁じられた母・恵子。最後に娘の顔を見てから10日。婿が出張に出た朝、閉ざされた寝室から異臭が漂う。恵子は119に通報し、娘を病院へ連れ出した。体重は34kg。最後に診察を受けた日さえ、母は答えられなかった。娘は「あそこには戻さないで」と訴える。治療を進める病院へ、今度は健二が妻を取り戻しに現れる。一方、娘が指先を伸ばしたベッドの隙間からは、2錠の薬が見つかる。献身的な夫は、何を隠していたのか。娘が口にできなかった言葉をたどり、母は3か月の「看病」の真実に迫っていく。親子関係|介護1.8万字5 0 -
完結第16話
20人の宴会、妻は2つの鞄を用意していた
福岡出張から2日早く帰宅した健二は、7600万円の自宅で母・敏子が20人を招いて宴会を開き、妻・美紀と5歳の娘・優奈だけが山積みの皿を洗っている光景を目撃する。優奈の手は赤く腫れ、美紀の足元には今夜家を出るための鞄が2つ。しかも美紀は11か月の間に3回助けを求めていたのに、健二はすべて退けていた。「証拠はない」と言い張る母に対し、美紀が差し出したのは録音11件と写真37枚。さらに宴会代23万6400円、毎月15万円の送金、家族カードの明細から、健二の知らなかった支配が浮かび上がる。だが、母の嘘を暴き20人を追い出しても、壊れた家族は元には戻らない。健二は自らの加担と向き合い、妻と娘の信頼を取り戻せるのか。嫁姑|親子関係2.3万字5 12 -
完結第11話
金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた
「ほら、都。ここからジャンプしてみなさい」 小学3年生だった私の記憶は、母のその声を最後に途切れている。 次に目を覚ました時、私はもう自分の脚を動かせなかった。 母は「娘が自分でベランダへ登った」と説明し、私の退院前に姿を消した。 それから9年。 車椅子陸上で世界を目指し始めた私の前へ、母が突然戻ってきた。 「ずっと会いたかった。今度こそ支えたいの」 私はその言葉を信じず、母を追い返した。 だが忘れ物を取りに戻った時、駐車場で誰かと電話する母の声が聞こえた。 「大丈夫。あの子、ベランダのこと覚えてないみたいだから」 私は震える手でスマートフォンを取り出し、録音ボタンを押した。真実|裡の顔|親子関係1.6万字5 1 -
完結第10話
父の料亭を継いだ翌日、板長が全員連れて独立
「料理も作れないあんたじゃ、この料亭も終わりだな」 父の葬儀を終え、私が老舗料亭を継いだ翌朝だった。 板長は12人の従業員を連れ、駅前で独立すると宣言した。 「客も仕入れ先も、全部俺についてくる」 私は引き止めず、「分かりました」とだけ答えた。 13人が去った板場には、包丁一本残っていなかった。 ところが予約帳を調べると、宴会7件に謎の《保留》が記されていた。 新店舗の契約日は、父が倒れる3週間前。 酒屋にはすでに「先代は長くない」と話していたという。 さらに父の金庫から、黒ずんだ一冊のノートが見つかった。 過去に辞めた従業員の名前、その横には何度も同じ文字が残されていた。 《黒田君》 そして父が亡くなる4日前のページには、《黒田誠治 断る。二度目》の一行があった。 その下に書かれた短い文章を読んだ瞬間、私は板長を追わなかった父の本当の意図を知った。人生逆転|金銭問題|修羅場1.5万字5 1 -
完結第11話
義母「家を売って弟の借金を返せ」夫に奪われかけた私の家
「家を売って、弟の1000万円の借金を返しなさい」 義母が要求したのは、私が結婚前に自分のお金で買ったマンションだった。 断ると夫は私の腕をつかみ、口の中が切れるほど強く頬を打った。 「最初から言うことを聞けば、こんなことにはならなかったんだ」 私は空手三段で、避けることも反撃することもできた。 それでも殴り返さず、天井の防犯カメラを見上げた。 そこには夫の暴力だけでなく、義母の言葉まで残っていた。 「正也、言うことを聞かせなさい」 さらに録画を遡ると、2人の小声が聞こえてきた。 「権利書と実印さえ出させれば、あとは進められる」 翌日、義母は合鍵を使って留守宅へ入り、私の金庫を探し始めた。 そして夫が用意した不動産査定依頼書には、義母が家を売れと言い出す4日前の日付が記されていた。嫁姑|夫婦|絶縁|金銭問題1.6万字5 193 -
完結第12話
失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由
「パパ、あの人……ママじゃない?」 半年前に消息を絶った妻が、山あいの道の駅で宝くじを売っていた。 車椅子に座り、別人のように痩せていた。 娘が「ママ!」と駆け寄ると、妻は青ざめて叫んだ。 「来ないで! 私はあなたたちを知らない!」 だが左手には、私が贈った結婚指輪。 そして手の甲には、見慣れた2つのほくろがあった。 「本当は、ずっと会いたかった」 妻は泣きながら娘を抱きしめた。 その直後、震える声で私に告げた。 「私が帰ったら、あなたと杏奈まで消される」 さらに宝くじ箱を差し出し、底を指さした。 そこには、妻が消息を絶った夜の“声”が残されていた――。 (続)因果応報|人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係1.9万字5 658 -
完結第11話
母が残した最後の住所
母を亡くした14歳の俺には、頼れる人が誰もいなかった。 父は幼い頃に亡くなり、母は朝から夜まで働き続けていた。 葬儀の後、親戚にも「うちでは面倒を見られない」と断られた。 一人になった部屋で母の遺品を整理していると、古い桐の箱から一枚のメモが出てきた。 《本当に一人になった時だけ、この場所へ行きなさい》 書かれていた住所は、隣の市の山手にある大きな屋敷だった。 俺は制服のまま、片道2時間近くかけてその場所へ向かった。 石造りの門柱には、母が一度も口にしたことのない名字が刻まれていた。 帰ろうとした、その時。 重い門がゆっくり開き、黒い服の老人が現れた。 老人は俺の顔を見るなり、深く頭を下げた。 「坊っちゃま、お待ちしておりました」 母が隠していたのは、いったい何だったのか。 (続)人生逆転|相続|第二の人生|金銭問題1.7万字5 550