"3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日" 第10話
私たちが選ぶ
「階段のないところがいい」
仮まいの卓で、さやかは最初にそう言った。私は産の広告を見るを止め、娘の顔を見た。
「寝る部も、台所も、同じ階にあるところ。お母さんの膝にも、その方が楽でしょう」
私たちはに、次のまいに欲しいものをいた。通院できること、買い物に困らないこと。私はのくで暮らしたいと話し、故郷の伊豆も候補に入れた。
健のために私たちがを空けるという話は、もう誰の予定にも入っていなかった。
その、判決が確定したという連絡が届いた。刑事事件とは別にめていた婚も成し、さやかは田の姓に戻った。松井弁護士と相談して取り決めた賠償の入も確認された。それは娘が被害を受けたことへの支払いであり、許したという面をしたわけではなかった。
保険については、娘が回復する途から、保険会社へ事を伝えて続きをめていた。2件の契約は解約され、健を受取とする保障はなくなった。
娘がきている以、彼の計算していた1億円の保険は支払われなかった。
健の会社でも、所定の続きによって役員から解任されたと聞いた。由美は公判で、彼との交際を終えたと話していた。会社の肩きも、娘のに始めるつもりだった暮らしも、健のもとには残らなかった。
広告
私は世田のの売却を決めた。捜査や裁判で必とされたものの扱いを確認し、たけしにも伝ってもらって、残った荷物を理した。
娘には、無理に緒に来なくてよいと伝えた。さやかはし考えてから、持ってきてほしいものをいたを渡してくれた。
仕事で使っていた本、父親と写った写真、学のころから使っていたさな机。どれも、健と結婚するから娘が持っていたものだった。
階段をがるとき、私はすりを握った。初めてこのを見に来たは、2階の当たりを娘と緒に確かめた。ここなら洗濯物がよく乾くねと話したことまでいした。
寝ので止まると、たけしが私を追い越さずに待った。
「先、どこからにしましょう」
「先に、本をお願いできる?」
頼むと、彼は空の箱を持って棚へ向かった。私は入にったまま、娘のいたをき直した。あの部から持ちすものを、今度は娘が選んでいた。
産会社には、で起きたことも伝えて相談した。売り急ぐつもりはないと話し、条件を確かめながらめた。娘とむために私が買っただった。放す理由も期も、私が納得して決めたかった。
買いが決まり、続きを終えたあと、代の入を確認した。座の名義は私の名だった。健が私を施設へ移してかすつもりだったおは、これからむ所や通院、娘の回復を支えるために使える。
広告
の引き渡しの、私は残った鍵を担当者へ渡した。健を追いして、同じ所にみ続けることもできた。それでも、私は娘と選んだ次のへ向かいたかった。
伊豆では、まず平を借りることにした。引っ越しを急がず、通院先の引き継ぎについて主治医と相談し、暮らしに必な所も確かめた。
内見にったには、さな庭がついていた。玄関までのを娘と休みながら歩き、靴を脱いでがった。廊はく、居から台所までが見渡せた。
「ここなら、お母さんを呼べば聞こえるね」
娘が言った。私は返事をしてから、寝の所を緒に見た。さやかは戸をけ閉めし、窓まで歩いた。
「机は、ここに置けるかな」
にかれていた古い机の幅をいし、私は鞄から測るためのメジャーをした。娘が方の端を持ち、私がに沿って伸ばした。
ちゃんと収まると分かると、さやかは窓の取っにを添えた。
「ここにみたい。朝、ここで仕事ができたらいいな」
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
24年育てた息子の結婚式に、私の席はなかった
夫が別の女性との間にもうけた息子を、24年間育ててきた53歳の森田恵子。スーパーで働き、医学部の学費を支えてきた彼女に、結婚式の前夜、息子は告げる。「親族席には実母が座るから、母さんは来ないで」。夫も息子をかばい、恵子の欠席を体調不良のせいにしていた。翌朝、「一般席なら用意できる」と呼び戻そうとする夫を、恵子はきっぱり断る。息子の荷物を返し、今後の援助を見直し始めた矢先、家計の口座から相談もなく50万円が送られていたと知る。振込先は、新婦の父親だった。夫がその金で納得させたという「説明」とは何か。黒留袖を畳んだ母は、家族に消された自分の時間を取り戻すため、記録をそろえ始める。親子関係2.2万字5 738 -
完結第11話
息子に捨てられた母の逆転
「お母さん、今日は少し外へ出ませんか」 息子夫婦に誘われ、70歳のはる子は雪の降る夜、車の後部座席へ乗った。 ところが車は町を離れ、山沿いの介護ホームの前で止まった。 「数日だけ、ここで休んでください」 そう言われた時、トランクから自分のスーツケースが出てきた。 荷物はいつの間にか詰められ、携帯電話は嫁に取り上げられた。 息子は「また来るから」と言い残し、母を301号室へ置いて帰った。 翌日、嫁は面会に来るなり尋ねた。 「通帳はどこですか? 実印は?」 さらに、見覚えのない白い錠剤を「いつもの薬」として渡してきた。 はる子は黙って薬を受け取り、認知症のふりを始めた。 そして翌日の病院で、嫁が電話口で話す声を聞く。 「診断が出たら、家も通帳も動かしやすくなるでしょう」 はる子はその会話を、コートの内側に隠した一本の録音機へ残していた。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|介護|金銭問題1.7万字5 226 -
完結第15話
兄を笑った銀行一家へ、300億円の解約通知
挙式15分前、新郎控室で待っていたのは、白いタキシード姿の兄1人だった。「結婚も、式も、全部ドッキリだったって」。婚約者の父は銀行会長。その家族が送りつけた80秒の動画には、兄を嘲る笑い声が残っていた。23年前から親代わりになり、私を育ててくれた兄が、今度は自分の幸せを選ぼうとしただけなのに。兄の隣に座った私は動画を保存し、財務責任者へ電話をかける。「じゃあ、預金300億、全額解約で」。銀行一家が見下していた妹は、美容企業グループの創業者兼会長だった。だが、私がその銀行に会社の資金を預け続けていた理由を、彼らは知らない。答えは、兄が保管していた古い茶封筒の中にあった。夫婦|親子関係2.1万字5 1092 -
完結第17話
毎月20万円送っていたのに、82歳の母は皿を洗っていた
毎月20万円を送っていれば、母は不自由なく暮らせる。大企業を築いた佐藤健二は、そう信じて15年を過ごしてきた。ところが、偶然入った食堂で再会した82歳の母は、膝をかばいながら皿を洗っていた。「最後にお金が届いたのは、14年も前だよ」。母の家計簿には、仕送りが減り、やがて途絶えた記録が残っていた。一方、健二の口座からは今も毎月20万円が引き落とされている。母を支えてきた弟の手元には、健二に届かなかった入院の連絡まであった。金も、家族の声も、誰かが途中で止めていたのか。記録をたどる健二の前に浮かび上がる、信じ続けた人間の影。母が守ってきた小さな家計簿が、会社を揺るがす追及の始まりになる。親子関係|金銭問題2.2万字5 2 -
完結第16話
20人の宴会、妻は2つの鞄を用意していた
福岡出張から2日早く帰宅した健二は、7600万円の自宅で母・敏子が20人を招いて宴会を開き、妻・美紀と5歳の娘・優奈だけが山積みの皿を洗っている光景を目撃する。優奈の手は赤く腫れ、美紀の足元には今夜家を出るための鞄が2つ。しかも美紀は11か月の間に3回助けを求めていたのに、健二はすべて退けていた。「証拠はない」と言い張る母に対し、美紀が差し出したのは録音11件と写真37枚。さらに宴会代23万6400円、毎月15万円の送金、家族カードの明細から、健二の知らなかった支配が浮かび上がる。だが、母の嘘を暴き20人を追い出しても、壊れた家族は元には戻らない。健二は自らの加担と向き合い、妻と娘の信頼を取り戻せるのか。嫁姑|親子関係2.3万字5 12 -
完結第11話
金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた
「ほら、都。ここからジャンプしてみなさい」 小学3年生だった私の記憶は、母のその声を最後に途切れている。 次に目を覚ました時、私はもう自分の脚を動かせなかった。 母は「娘が自分でベランダへ登った」と説明し、私の退院前に姿を消した。 それから9年。 車椅子陸上で世界を目指し始めた私の前へ、母が突然戻ってきた。 「ずっと会いたかった。今度こそ支えたいの」 私はその言葉を信じず、母を追い返した。 だが忘れ物を取りに戻った時、駐車場で誰かと電話する母の声が聞こえた。 「大丈夫。あの子、ベランダのこと覚えてないみたいだから」 私は震える手でスマートフォンを取り出し、録音ボタンを押した。真実|裡の顔|親子関係1.6万字5 1 -
完結第12話
失踪した妻を道の駅で見つけた――「来ないで」と怯えた理由
「パパ、あの人……ママじゃない?」 半年前に消息を絶った妻が、山あいの道の駅で宝くじを売っていた。 車椅子に座り、別人のように痩せていた。 娘が「ママ!」と駆け寄ると、妻は青ざめて叫んだ。 「来ないで! 私はあなたたちを知らない!」 だが左手には、私が贈った結婚指輪。 そして手の甲には、見慣れた2つのほくろがあった。 「本当は、ずっと会いたかった」 妻は泣きながら娘を抱きしめた。 その直後、震える声で私に告げた。 「私が帰ったら、あなたと杏奈まで消される」 さらに宝くじ箱を差し出し、底を指さした。 そこには、妻が消息を絶った夜の“声”が残されていた――。 (続)因果応報|人生逆転|夫婦|真実|第二の人生|親子関係1.9万字5 658 -
完結第10話
空っぽの弁当箱
「5万円の居候でしょ?」 そう笑われながら、58歳の私は毎朝5時に起き、息子一家4人分の弁当を3年間作り続けた。 息子の好物、嫁の職場向けの彩り、孫の部活用のおにぎりまで、全部私が考えていた。 食費や学校用品も、足りない時は自分の財布から払った。 それでも家族から返ってくるのは、「家事くらいちゃんとしてよ」という言葉だけ。 迎えた58歳の誕生日、誰も私の誕生日を覚えていなかった。 「今日で、この家の家事係を降ります」 そう告げても、息子は「またすねてる」と笑った。 その夜、私は誰にも何も言わず、自分の荷物だけをまとめた。 翌朝、台所に並んでいた4つの弁当箱は、すべて空っぽだった。 冷蔵庫には、短いメモが一枚だけ残されていた。 そして家族は初めて、私が毎月5万円以外に何をしていたのかを知ることになる。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|親子関係|金銭問題1.4万字5 377 -
完結第15話
「子供3人は全員連れてけ」と言った夫へ
「子供3人は全員お前が連れてけ」。離婚を切り出した恵美に、夫はそう言い放ち、同居の義母も「やっと静かになる」と笑った。仕事部屋を奪われ、子供たちの進路や楽しみまで制限されてきた家で、長男は静かに告げる。「その言葉、忘れないでね」。子供たちは全員、母と暮らすことを選んだ。ところが転居から1週間後、夫と義母から一晩で80件の着信が届く。洗濯、食事、通院、そして家の支払い。戻れと迫る夫は、恵美の新居の家賃が月28万円だと知り、借金を疑い始める。「内職」と見下していた妻の仕事は、本当は何を支えていたのか。恵美は家計簿と口座の明細を並べ、夫が見ようとしなかった数字を確かめていく。夫婦|親子関係2.2万字5 4049