"十四歳で板前奉公へ――少年が料理人になるまで" 第9話
「」
母のハルと、にをた自分の記憶から取った。
文は、
「女のの名みたい」
と言った。
「いいんだ」
正は笑った。
最初の。
客はしか来なかった。
目は。
目は。
正の顔から笑顔が消えた。
「所が悪かったかな」
「まだ」
文は平然としている。
「で潰れるはないでしょう」
「客が来なきゃ潰れる」
「来るように考えるのが主でしょう」
文の方が寅吉より厳しい。
正は献を見直した。
所で働くがべやすい値段。
夜は酒と料理。
昼は定。
料理の格式にこだわるのをやめた。
か。
しずつ客が増えた。
か目のある夕方。
簾がいた。
「いらっしゃいませ」
正が顔をげる。
寅吉だった。
。
何も言わずカウンターへ座った。
「親方」
「客だ」
正は緊張した。
皿。
皿。
皿。
寅吉は黙ってべる。
正は、初めて料理を任されたのようにが震えた。
最に汁をみ干す。
勘定を置き、ちがった。
「親方」
寅吉は簾ので振り返った。
「まあ」
しを置く。
「やっていけるだろう」
それだけ。
正は、
「ありがとうございます」
と言うに、寅吉がていった。
文が奥から顔をす。
「褒められた?」
正は笑った。
「たぶん」
その夜。
正はの簾を初めて自分のでしまった。
歳で放り込まれた料理の世界に、
ようやく自分の名でつ所ができた。
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を持てば自由になる。
正はそうっていた。
誰にも鳴られない。
自分で献を決められる。
自分のをせる。
確かにその通りだった。
しかし自由には、全部の責任がついてきた。
が続けば客が減る。
仕入れ値ががる。
鍋が壊れる。
従業員が休む。
自分がをしても、簡単にはを閉められない。
ある。
赤字になった。
正はへ帰っても眠れなかった。
「やっぱり親方の言う通りだった」
文が計簿を見ながら言う。
「何が」
「料理がいだけじゃは続かない」
「今それ言うか」
「今だから言うの」
正は苦笑した。
で数字を見直した。
昼の定の原価。
夜の客単価。
仕入れ。
賃。
件費。
歳の頃好きだった算術が、わぬ形で役にった。
正は々の数字を細かくくようになった。
どの料理が残る。
何曜に客がない。
季節で何が変わる。
料理だけでなく、全体を見る。
しずつ赤字が減った。
常連も増えた。
仕事帰りに必ず寄る会社員。
に度、料に来る夫婦。
張のたびに顔をす男。
客の好みを覚える。
塩をし控える。
酒の肴を先にす。
寒いは汁物をくす。
ある。
で町の交通が止まった。
を閉めようとった夕方。
所のから数の若者が来た。
「帰れなくなったんです」
濡れた。
えた。
正は残っていた材料で鍋を作った。
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豪華なものではない。
根。
豆腐。
しの魚。
べた若者のが、
「き返った」
と笑った。
正は、戦にへ来た老をいした。
《温まった》
料理は変わっても、
が求めるものは変わらないことがある。
その頃には弟子もいた。
歳の清。
ある、清が価な魚を尾駄目にした。
正の腹にりが湧いた。
「何やってる!」
鳴りかける。
しかし瞬、止まった。
歳の自分。
畳へ汁をこぼした夜。
寅吉の。
そしてをした夜の薬。
正は息を吐いた。
「何が悪かったとう」
清は俯く。
「急ぎました」
「それだけか」
「包丁の入れをしてませんでした」
正は頷いた。
「、本丸ごとやり直せ」
「はい」
「今夜は砥からだ」
清は驚いた。
正は自分が寅吉と同じことを言っているのに気づいた。
は嫌いだったにも、
らずらず似ることがある。
それならせめて、
良かった部分だけを受け継ぎたいとった。
その夜。
文が言った。
「あなた、鳴らなくなったね」
「昔は鳴ってたか」
「結婚した頃は親方そっくりだった」
正はを抱えた。
「それ、く言えよ」
文は笑った。
正は主としても、
父親としても、
まだ修業だった。
健太が歳になった。
誕の夕。
正は向かいに座る息子を何度も見た。
背はもう文と同じくらいある。
学の話をする。
友達。
野球部。
先。
試験。
どれも歳の正にはなかった常だった。
「父さん、何見てるの」
「別に」
「さっきからずっと見てる」
文が笑った。
「お父さん、自分がのいしてるのよ」
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