"昭和41年、集団就職の少年が一年ぶりに帰った故郷" 第3話
「おは京で自分の仕事をしろ」
正は言葉を失った。
自分がいないのに、にもが流れていた。
しかもそれは、母のには度もかれていなかっただった。
そのの夕方、正はさらにもうつ妙なものを目にした。
仏壇の横にあるさな箪笥のへ、見覚えのある封筒が何通も積まれていた。
京から毎、自分が送っていた現留の封筒だった。
夕までまだがあった。
母が台所にち、弟と妹が産を広げて騒いでいる、正は仏壇の横の箪笥へづいた。封筒の表には自分の字で父の名と故郷の所がかれており、の、、とごとに並んでいる。
「母ちゃん、これ……」
キヨが台所から顔をした。
正が封筒を持ちげると、母は瞬だけ困ったような顔をした。
「俺が送ったやつだろ」
「そうだよ」
「なんで取ってあるんだ」
「封筒ぐらい取っておいたっていいだろ」
母はそう言ったものの、らかに何かを隠している。
正は封筒を戻そうとした。
その、箪笥の引きしがしいていることに気づいた。
には冊の郵便貯通帳があった。
表には《正》とかれている。
正の指が止まった。
「これ、俺の?」
母はもう答えなかった。
通帳をく。
、千円。
、千円。
、千円。
そのもほぼ毎、が預けられていた。
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正が京から仕送りした額と、ほとんど同じだった。
「……どういうことだよ」
母は包丁を置いた。
「父ちゃんがね」
「俺が送った、使ってなかったのか?」
「全部じゃないよ。正にはし借りたし、病院代にも度使った。でも父ちゃんが、できるだけ残せって」
正は通帳から顔をげた。
「何のために?」
「おのだから」
その答えに、正はかえって腹がった。
「俺はで使ってもらうために送ったんだぞ」
「分かってるよ」
「父ちゃんが怪したなら使えばよかっただろ!」
声がきくなった。
台所の向こうで子が黙り込む。
キヨは声を落とした。
「だからかなかったんだよ」
「何が?」
「お、怪したって聞いたら帰ってきただろ」
「当たりだろ」
「だからだよ」
母は正を見た。
「京にてもしない子に、のことまで背負わせたくなかったんだよ」
正は何も言えなくなった。
自分では、このでずいぶんになったつもりだった。毎朝決まったに起き、自分の仕事をし、料を受け取り、そのから仕送りまでしている。
だが族から見れば、自分はまだ歳で故郷をたばかりの息子だったのだ。
「父ちゃんが言ったんだよ。正が京で削ったまで、俺たちがったらいかんって」
母の言葉が胸に刺さった。
「削ったって何だよ」
「働いただよ」
正は首の計へ目を落とした。
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初めて料をもらった、へ送るを差し引いた残りで買った計だった。それを持てたことを、自分はし誇らしくっていた。
ところがでは、その仕送りの半が使われず、自分名義の通帳へ戻されていた。
自分は族を支えている。
そうっていたものが、し違う形へ変わっていく。
夕の席には、正の好きだった煮物が品く並んだ。
母は何事もなかったように箸をかしていた。父は酒もまず、黙って飯をべている。子だけが京の話を聞きたがり、「は本当にが押してくるの」「ビルってよりいの」と次々に尋ねた。
正も笑って答えた。
の械のこと。
寮で緒に暮らしている仲のこと。
初めて料を受け取ったのこと。
配の職に叱られ、悔しくて便所で泣きそうになったことは言わなかった。夜に布団ので故郷をいし、何度も辞めて帰りたいとったことも話さなかった。
母も聞かなかった。
父も聞かなかった。
互いににしないことが、この族にとって相を守る方法なのかもしれないと、正は初めてった。
事が終わる頃、健がちがった。
その拍子に、学のポケットから枚のが落ちた。
正の元へ滑ってくる。
「落ちたぞ」
拾いげた正は、そこに印刷された文字を見た。
《昭42度 集団就職希望者調査票》
正は顔をげた。
「……これ、何だ」
健の顔が変わった。
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