"昭和41年、集団就職の少年が一年ぶりに帰った故郷" 第6話
「の親方はどんなだ」
突然尋ねられた。
「怖い」
「そうか」
「でも、悪いじゃない」
正はし考えて続けた。
「最初は毎られたよ。具の置き方が違うとか、歩くのが遅いとか」
「嫌になったか」
その質問に、正は茶をむを止めた。
母にも話していなかったことだった。
「……なったよ」
父は黙っている。
「かぐらいの、帰ろうとったことある」
「そうか」
「でも帰れなかった」
「なぜだ」
「がなかったからじゃない」
正は自分でも初めて言葉にすることを話した。
「帰ったら、負けたみたいな気がしたんだ」
父は畑を見たまま聞いていた。
「同じ町からった奴もいたし、母ちゃんにで丈夫っていてたし。それなのに急に帰るなんて言えなかった」
「だったからな」
正は父を見た。
その言葉がだった。
父は続けた。
「の子供が、でらんへったんだ。嫌になるのが普通だ」
正は何も言えなかった。
、父は駅でほとんど何も言わなかった。
《体に気をつけろ》
それだけだった。
正は当、父が自分の発をどうっていたのか分からなかった。
「父ちゃん」
「何だ」
「俺を京へしたこと、悔してる?」
源蔵はしばらく答えなかった。
「悔してないと言ったら、嘘になるな」
正の胸がざわついた。
「へかせてやれるなら、かせたかった」
父はそう言った。
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「でも、あのは無理だった」
正はのへ線を落とした。
「だから健にはかせたい」
源蔵の声は静かだった。
正は顔をげた。
「じゃあ、なんであの――」
「俺はけと言ってない」
「え?」
「健が自分でもらってきた」
父はを伸ばした。
「俺が怪をしたから、あいつはののことばかり気にするようになった」
正は昨の弟の顔をいした。
兄ちゃんにできたんだから俺にもできる。
あれはがりだったのかもしれない。
源蔵は息子のを見た。
「おをしただけで分だ」
その言に、正は胸を締めつけられた。
そのの夜、正は健をへ誘った。
ので話せば父や母が聞いてしまう。は昔よく魚を捕った川まで歩き、へ腰をろした。
解けが増えた川は、暗いでもい音をてて流れている。
「、きたいんだろ」
正が先に言った。
健は答えなかった。
「父ちゃんから聞いた」
「余計なこと言うなよ」
「おも俺に言っただろ」
健はを拾い、川へ投げた。
度もねずに沈んだ。
「械の勉、したいんだろ」
「もういいよ」
「よくない」
「ったってかかるだろ」
「だから働くのか」
「悪いかよ」
「悪いなんて言ってない」
正は言葉を選んだ。
自分が京へたことを否定すれば、このそのものを否定するような気がした。で学んだことも、仲も、初めて料を得たの誇らしさも、本物だった。
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「俺は働いてよかったとってる」
健が兄を見る。
「じゃあ――」
「でも、それは俺の話だ」
正は遮った。
「おが本当はへきたいのに、父ちゃんの怪だけで諦めるなら、それは違うとう」
健は黙って川を見た。
「兄ちゃんだってきたかった?」
正はすぐには答えられなかった。
、考えないようにしてきたことだった。
「分からない」
正直に答えた。
「きたかったかもしれない。でも、今さらへったことを嫌だったとはわない」
「ずるい答えだな」
「そうだな」
はし笑った。
しばらくして健がをいた。
「先が、けって言うんだ」
「うん」
「数学だけならの学でもやれるって」
「うん」
「でも父ちゃんの見たら……そんなこと言えないだろ」
正は弟の横顔を見た。
自分が京で変だった、健もこので歳なりに考えていたのだ。
「俺の仕送り、でほとんど使ってないらしい」
健が驚いた。
「何それ」
「俺名義で貯してた」
「なんで?」
「父ちゃんが、俺のだからって」
「馬鹿じゃないの」
「俺もそうった」
はまた笑った。
だが正のにはつの考えがまれていた。
「その、使えばいい」
「何に」
「おの」
健はすぐに首を振った。
「嫌だ」
「なんで」
「兄ちゃんが働いただろ」
「に送った点でのだ」
「父ちゃん絶対るぞ」
「だから父ちゃんには俺から言う」
「無理だよ」
「やってみないと分からない」
健はしばらく考えた。
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