"昭和41年、集団就職の少年が一年ぶりに帰った故郷" 第11話
「じゃあ勉しろ」
「分かってる」
はそれ以言わなかった。
駅の売から焼き芋の匂いがした。
正が帰ってきたと同じ匂いだった。
ホームへ入り、列を待つ。
母が言った。
「体、事にね」
、父から言われたのとよく似た言葉だった。
あの頃の正は、ただ俯いて頷くだけだった。
今は母の目を見た。
「うん」
しれた所に父がっている。
杖をつき、線の先を見ていた。
正は父へをげた。
「ってきます」
源蔵はわずかに顎を引いた。
「ってこい」
その言葉が、正には嬉しかった。
《さようなら》ではない。
《ってこい》。
帰ってくることを提にした言葉だった。
列がホームへ入ってきた。
正は窓際の席へ座った。
発ベルが鳴る。
列がゆっくりきす。
母がを振った。
と同じ仕だった。
正もを振り返した。
ただ胸のに浮かんだ言葉は、とはまったく違っていた。
また帰ってくる。
母の姿がさくなっていく。
父の姿も見えなくなる。
故郷の駅がざかっていく。
それでも正は、もう何かを失っていくようにはじなかった。
夕方、京の寮へ戻ると、廊から聞き慣れた声がんできた。
「お、!」
同じ部の浦が顔をした。
「帰ってきたか」
「今帰った」
「産は?」
「第声がそれかよ」
浦は笑った。
「故郷帰った奴は産持ってくるもんだろ」
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正が鞄から菓子をすと、仲たちが集まってきた。
「形の菓子か」
「母ちゃんが入れたんだよ」
「うまそうだな」
誰かがの皮をいた。
漬物の匂いが寮の部いっぱいに広がる。
正はし恥ずかしかった。
京の洒落た菓子ではない。
故郷で毎のようにべていたものだ。
だが浦はべると、「うまい」と言った。
「おんちのだな」
その言で正は笑った。
翌朝。
のベルが鳴った。
休みには何ともわなかった音だったが、久しぶりに聞くと懐かしい。
「、ぼさっとするな!」
職の鳴り声がんでくる。
「はい!」
正は反射に返事をした。
材料箱を運ぶ。
械へ部品を並べる。
具を確認する。
体が勝にく。
、すべて教えてもらわなければ何もできなかった所だった。
今は違う。
から入ってきた歳のが、具棚ので困っている。
「それじゃない」
正は声をかけた。
「こっち使うんだ」
が慌ててをげた。
「すみません」
「最初は分かんないよ」
そう言った瞬、正は自分でも驚いた。
の自分なら、そんな言葉はなかった。
当は自分が失敗しないことで精いっぱいだった。
今はしだけ、ほかのを見る余裕がある。
昼休み、職が正の横を通った。
「故郷どうだった」
正は箸を止めた。
普段、私活などほとんど聞かないだった。
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「変わってました」
「そうか」
「でも、変わってないところもありました」
職は「何だそりゃ」と笑った。
正も笑った。
自分でもうまく説できない。
は同じだった。
も同じだった。
母も父もいた。
しかし何もかもがと同じではない。
番変わったのは、おそらく自分自だった。
京へ戻ってかほど経った頃、正のもとへ通のが届いた。
差は健だった。
弟からが来るのは初めてだった。
封筒をく。
《兄ちゃんへ》
しがりの字が並んでいる。
《父ちゃんのはまだ完全ではないけど、この頃は町の農具を直してをもらっています。母ちゃんも縫製所にき始めました。朝だけなので、帰ってから畑をしています》
正は読みめた。
《俺は就職希望のを学に返しました》
そこで度、が止まった。
《業を受けます。先に、今の成績なら頑張れば丈夫だと言われました。兄ちゃんが京へ戻ってから、父ちゃんが古の参考を買ってくれました》
正はさく笑った。
父が本で参考を選んでいる姿を像すると、し笑しかった。
最にはこうかれていた。
《兄ちゃんが京へったから俺がへける、とはわないようにします。でも、兄ちゃんが帰ってきて言ってくれなかったら、たぶん俺は働く方を選んでいました。
今度帰ってきた、数学なら兄ちゃんよりできるようになってるといます》
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