"父の「一万円」に隠された借金" 第1話
《佐藤栄吉様 貸残額について》
昭の初め、形県のあいにある佐藤へ届いた通の封を、の隆夫は何度も読み返した。差は、父の栄吉が京で働いている都建設という会社で、便箋には末現の貸残額と、今季の就労終までに精算できないの返済方法について相談したいという内容がかれていた。
額を見た、隆夫は最初、何かの違いだとった。
父は京へを稼ぎにっているはずだった。
も、万円。
も、万円。
にも、きっちり万円。
毎末になると、京から現留が届いていた。封筒のの額が千円だったことも、万千円だったこともない。父が稼ぎへくようになってから、なくとも隆夫が物ついて以、その数字だけはほとんど変わらなかった。
「借って……何だよ」
誰もいない茶ので、隆夫はわず声にした。
母のしのは、の共同作業へ藁細の伝いにている。妹の子は学だった。柱計の振り子が定の隔でく音だけが、妙にきく聞こえていた。
隆夫は仏壇のに置かれたさな箱を引きした。
そこには、母が保管してきた現留の封筒が何通も入っている。父のきな字で所がかれたもの、に濡れて端がしふやけたもの、京の消印がく残るもの。
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にはい便箋が入っている封筒もあった。
《みんな元気か。ろし、無理するな》
《子、邪引くな》
《隆夫、勉しろ》
いつも数だけだった。
父はをくのが苦だったし、何よりも「元気で働いている」と族にらせることだけが目なのだと、隆夫はっていた。
には、稼ぎへった男について様々な噂があった。京へると酒を覚える者がいる。競馬で料をなくす者もいる。になっても戻らず、向こうで別の女を作ったという話まであった。
それに比べれば、自分の父は派だとっていた。
毎、必ず万円を送ってくる。
計が苦しいにも、自分の学用品を買わなければならないにも、その万円がを支えていた。
隆夫自、友に言ったことさえある。
「うちの父ちゃんは京へってもを使わねえから」
今、その誇らしさを裏返すように、目のの便箋には《貸》とかれている。
夕方、しのが戻ると、隆夫は事を説せず、だけを差しした。
母は着も脱がずに読んだ。
最初の。
次の。
数字のところまで来ると、しのの指が止まった。
「……何、これ」
「俺も分かんない」
「父ちゃんから何か聞いてた?」
「何も」
しのはもう度最初から読み直した。
「貸しって、会社から借りたってことだよね」
「そうだとう」
「どうして」
その言葉のに続く問いは、母も息子も同じだった。
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借をしなければならないほどがないが、どうして毎、円も違わず万円を送ってきたのか。
夕のになっても、はその話をやめられなかった。
子だけは事が分からず、そうに母と兄を見比べている。
「父ちゃん、何か悪いことしたの?」
しのはすぐ首を振った。
「まだ何も分からない」
「でも借なんでしょ」
「借したから悪いってわけじゃないよ」
そう言いながら、しの自の声にも力がなかった。
翌の夕方。
しのはから軒先にある雑貨へ向かった。
佐藤にはまだ話がない。京へ連絡するは、で話を置いているや役を借りるしかなかった。稼ぎ先の飯へ事に話を入れ、父が戻るを伝えて呼びしてもらうのだ。
夜過ぎ。
雑貨の黒話が鳴った。
主が受話器を取り、「京からだ」と言って、しのへ差しした。
「あなた」
『ああ』
久しぶりに聞く栄吉の声だった。
「会社からが来たよ」
話の向こうが静かになった。
しのは続けた。
「借りって、何」
『……』
「聞いてる?」
『聞いてる』
「いくら借りたの」
栄吉は答えない。
「何に使ったの」
まだ沈黙。
普段なら夫がを閉ざせば、しのもそれ以問い詰めなかった。栄吉は昔から、自分の苦労をで話す男ではなかった。
その夜だけは違った。
「答えて」
しのの声がくなる。
雑貨の主は気まずそうに奥へ引っ込んだ。
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