"父の「一万円」に隠された借金" 第2話
い沈黙のあと、栄吉はようやく言った。
『仕送りだ』
しのはを疑った。
「……何?」
『に送った』
「借りたおを?」
『そうだ』
しのは受話器を握り直した。
「何でそんなことするの!」
の奥で何かがく音がした。
「りないなら、なくすればいいでしょう!」
栄吉はすぐには答えなかった。
やがて、い声が返ってきた。
『、現止まったんだ』
「何?」
『くらい』
「?」
『違う』
また父が黙った。
隆夫は母の横で、息を潜めて聞いていた。
「じゃあ何」
しのが問い詰める。
話の向こうから、かすかな息遣いが聞こえた。
『落ちた』
しのの顔から血の気が引いた。
「どこから」
『』
「怪したの?」
『したことない』
「したことなかったらも休まないでしょう!」
その瞬、隆夫のにの現留が浮かんだ。
万円。
あのも、いつもと同じだった。
父は怪をして働けなかった。
それでも万円を送ってきた。
会社からを借りてまで。
隆夫は、胸の奥に何かいものが落ちていくのをじた。
そして母が、
「どうしてそこまでして万円なの」
と尋ねただった。
栄吉は話の向こうで、しばらく黙ったあと、さく答えた。
『減らしたら、おらが配するだろ』
その言葉を聞いた瞬、隆夫は初めて気づいた。
父が毎送ってきた万円は、料の部ではなかった。
父が、族に絶対見せたくなかった何かを隠すためのだった。
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昭の。
形のあいにあるでは、の頂から順番にくなっていった。
稲刈りが終わり、根や菜をへ運び込み、支度が段落する頃になると、から働き盛りの男たちがしずつ消えていく。朝の留所にはきなボストンバッグを持った男たちが集まり、女たちと子どもが見送りにった。
がく積もれば、田畑ではほとんどにならない。
農にとって、は働きたくても働く所がない季節だった。
だから男たちは京、横浜、川崎へ向かった。建築現、事、、港湾作業。農繁期が始まるまで働き、稼いだ現を持って戻る。
栄吉も、代の頃からその活を続けていた。
発のの朝は、毎ほとんど同じだった。
しのが握り飯を作り、着替えを呂敷に包む。
栄吉は作業着、腹巻き、軍、タオルを古いボストンバッグへ詰め、最に財布を内ポケットへ入れる。
「が解ける頃には戻る」
それが決まり文句だった。
さい頃の隆夫は、父がいなくなる朝が嫌いだった。
学へくにはもうにいないこともあった。夕方に帰宅しても、いつも座っていた囲炉裏端が空いている。何かを壊しても直してくれるがいない。
それでも末には現留が届いた。
万円。
母は封筒からをすと、仏壇ので丁寧に数えた。
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千円札が枚。
「今も万円」
そう言って計簿へき込んだ。
子どもの頃の隆夫にとって、その万円は父親そのものにかった。
父が京で元気に働いている。
父は自分たちを忘れていない。
そうわせるだった。
昭のに稼ぎから戻った、栄吉は隆夫へ冊の古本を渡した。
『建設械入』
表には、ブルドーザーとクレーンの絵が描かれていた。
「現のくに古本があってな」
「俺に?」
「お、こういうの好きだろ」
隆夫は嬉しくて、何度もページをめくった。
もともと械が好きだった。
の農協へしい耕耘が入ったも、使い方より内部の仕組みをりたがった。壊れたラジオを分解して母に叱られたこともある。
父が京で働く現には、隆夫が本でしか見たことのないきな械がいくつもあるらしかった。
夕、栄吉は珍しく仕事の話をした。
「京は今、本当にすごいぞ」
「何が」
「だ。ビルだ。どこもかしこも事してる。来オリンピックだろ」
「テレビで見た」
「昨まで何もなかったに、半したらでかい建物がってる」
隆夫は目を輝かせた。
「俺もきたい」
それまで嫌良く話していた栄吉の箸が止まった。
「どこへ」
「京」
母が笑った。
「旅なら度くらい連れていってもらいなさい」
「旅じゃないよ。卒業したら働きにきたい」
栄吉の表だけが変わった。
「かんでいい」
「何で」
「ここにいろ」
「ここで何するんだよ」
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