"父の「一万円」に隠された借金" 第11話
はし黙った。
「佐藤さん、説教くさいですね」
「俺もそうう」
で笑った。
その夜、隆夫は久しぶりに父へ話した。
「父ちゃん」
『何だ』
「俺、今父ちゃんみたいなこと言った」
『らん』
「若いやつに“に職つけろ”って」
話の向こうで父が笑った。
『取った証拠だ』
「まだだよ」
『分だ』
「父ちゃん今何してる」
『呂がったところ』
「膝は」
『痛い』
「病院けよ」
『分かってる』
「また隠すなよ」
『うるさい』
父との会話は、昔よりずっとく、ずっと楽になっていた。
それから数。
隆夫は職でりった女性と結婚することになった。
式は京でさく挙げる。
栄吉としのも形からてきた。
父が京へ来るのは、稼ぎを辞めて以来だった。
駅をると、栄吉は周囲を見渡した。
「変わったな」
「父ちゃんが働いてた飯、もうないよ」
「そうか」
「現もビルになった」
栄吉はい建物を見げた。
自分が若い頃、そのを作る側にいた。
今は息子がここで暮らしている。
結婚式のあと。
栄吉が隆夫へつの祝儀袋を渡した。
「ほら」
「ありがとう」
へ戻り、妻とでけた。
には、万円。
隆夫はわず笑った。
「また万円か」
父へ話する。
「何だ」
『祝い、ありがとう』
「おう」
『万円だった』
「ないか」
『違うよ』
隆夫は笑う。
『借りてないよね』
話の向こうで栄吉が鳴った。
「馬鹿野郎。今度はちゃんと俺のだ!」
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隣にいた妻が驚いて隆夫を見る。
隆夫は笑いながら、
「昔いろいろあってさ」
と説した。
、母からが届いた。
《祝いの万円は本当にお父ちゃんが農具で働いて貯めたおです。私が確認しました》
隆夫はそのを祝儀袋と緒にしまった。
なぜか、その万円だけはなかなか使えなかった。
父が何も守ろうとした数字。
借してまで変えなかった数字。
けれど、このの万円は違う。
誰かをさせるための見栄でもない。
父親であることを証するためのでもない。
自分で稼げる範囲から、息子へ渡した万円だった。
隆夫には、その違いが何より嬉しかった。
栄吉がを過ぎた頃。
膝はさらに悪くなり、い距を歩くには杖が必になった。
それでも畑へた。
農具はとっくに辞めていたが、所で械の調子が悪いと聞けば、つい見にった。
「直せないくせに」
隆夫が言うと、
「どこが悪いかくらい分かる」
と反論する。
あるの。
隆夫のへ、さな現留が届いた。
差は栄吉。
には万円。
には、
《孫に何か買ってやれ》
とある。
隆夫はすぐ話した。
「父ちゃん」
『何だ』
「また万円」
『ちょうどいいだろ』
「何で現留なんだよ。今度帰ったでいいじゃん」
『昔からそれしからん』
隆夫は笑った。
「借りてない?」
『まだ言うか』
「応確認」
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栄吉も笑った。
隆夫は受話器を持ったまま、昔のことをいした。
の寒い夕方。
会社から届いた通の。
《貸》
あのがなければ、族は父の借をらなかった。
父の怪も。
飯の暮らしも。
万円への執着も。
そして隆夫自、何もらずに京へていたかもしれない。
あの借は決して良いことではなかった。
族へ相談せず、無理をねた父の判断は違っていた。
けれど、その違いがあったからこそ、族は初めて話し始めた。
「無理なは無理と言う」
「りないはりないと言う」
簡単なことだった。
けれど佐藤では、それを言えるようになるまで何もかかった。
栄吉がくなったのは、をし過ぎただった。
きな病気ではなかった。
齢をね、しずつ体がり、最は病院で族に見守られて息を引き取った。
隆夫は父の枕元にいた。
子もいた。
しのは数に先にくなっていた。
父は最までくを話さなかった。
ただ、くなる。
隆夫がを握っていると、栄吉が突然言った。
「京」
「何」
「ってよかったか」
隆夫は笑った。
「今さら聞くの?」
「いいから」
「よかったよ」
「そうか」
「父ちゃんは?」
栄吉は目を閉じた。
い沈黙。
やがて、
「半分な」
と言った。
「何が半分」
「ってよかったの半分」
「じゃあ残りは」
「かなきゃよかった」
隆夫は吹きした。
「どっちだよ」
父も僅かに笑った。
「だから、そんな簡単じゃないって言ったろ」
昔、川沿いで聞いた言葉だった。
成功か失敗かなんて、簡単には決まらない。
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