"廃線駅に殘された最後の切符" 第16話
の端は擦り切れ、飴に変していたが、そこに刻まれた文字は、今なお鮮に読み取ることができた。
【沢から 京都区内ゆき】 【昭】
健はその切符を、の柔らかな差しにかざした。
「俺な、田君。退職した、この切符を持って、野駅から幹線に乗ったんだ」
「幹線に……」
「ああ。自分が造ったレールのを、速百キロでる最型の列に乗ってな。……野をて、あっというに宮を過ぎ、宇都宮を過ぎ、ちょっとでノ関に着いちまった。すぎて……窓のの景を見る暇もなかったよ」
健は切符を両で包み込んだ。
「あの昭、貨物列の炭にまみれて青森までかかり、青函連絡に揺られて夕張までかかった。あのいいのに、俺は母ちゃんの顔をいし、源吉さんの言葉を反芻し、自分が何のためにきるのかを必に考えたんだ」
健は、芒の揺れる廃線跡を見つめた。
「幹線は素らしいよ。国を豊かにし、を便利にした。……だがな、あんなに速くっちゃ、は途で事なものを落としても、気づかずに通り過ぎちまう。俺はあの、京へったんじゃないんだ。……本当は、自分の帰る所を、見失っちまってたんだな」
「田さん……」
「でもな、田君。俺は今、この駅にりって、ようやく分かったよ」
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健の顔に、れやかな、点の曇りもないが宿っていた。
「俺には、帰る所があったんだ。源吉さんがにこの切符を残してくれたから……俺は今、自分ので、自分のの原点へ帰ってくることができたんだ」
夕暮れが迫り、沢のあいが茜のに染めげられていく。
健はちがり、ホームの端に据え付けられていた、朽ちかけた駅名標のにった。 ペンキの剥げた板に、かすかに残る文字。 【しらさわ SHIRASAWA】。
健は胸ポケットから、あの券を取りした。 そして、駅名標の柱の隙――かつて源吉が毎朝、保守点検の点呼札を差し込んでいたさな真鍮の具の隙へと、その切符を静かに差し入れた。
「田さん……切符を、置いていくんですか?」 修が驚いて尋ねた。
健は微笑み、静かに首を縦に振った。
「ああ。これは、もう俺の切符じゃない」 健は言った。
「これから先……何、何百経っても、この町にち寄る誰かがいるかもしれない。都会へて傷つき、自分のむを見失い、ち止まりそうになった若い奴が、ふらりとこの廃駅を訪れるかもしれない」
健の線は、赤く染まる芒の原の彼方、かつてレールが伸びていた空の果てを見つめていた。
「その、この切符を見つけてほしいんだ。『いつでも帰ってきていい所があるんだぞ』『おが望めば、ここからどこへだってしい旅を始められるんだぞ』ってな。
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源吉さんが俺にしてくれたように……今度はこの駅が、未来からやってくる誰かの背を、そっと押してやれるようにさ」
が吹き抜け、真鍮の具に挟まれた券が、チリチリとさな音をてた。 まるで、見えない改札鋏が、再びその切符に命を吹き込んだかのように。
は並んで改札をた。 古い造駅舎の引き戸を閉めると、カタンと乾いた音がして、静まり返ったあいに吸い込まれていった。
廃線になった駅。 列はもう、度と来ない。 刻表も、運ダイヤも、信号のかりも、すべては歴史の彼方へと消えった。
しかし――。 がをい、その旅ちを祈り、帰りを待ち続けた記憶がある限り。 その所は、決してに絶えることはない。
目に見える鉄のレールは消えても、のとを繋ぐレールは、代を超え、世代を超えて、どこまでも、どこまでも真っ直ぐに伸び続けているのだから。
修と健ののが、夕暮れのへとく伸びていく。 その取りは、力く、迷いなく、しいへと向かって踏みされていた。
ろを振り返ると、夕に包まれ始めた沢駅の窓の奥に、カンテラを掲げた老駅が、今も優しく微笑みながら、を振っているような気がした。
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