"夫に捨てられた盲目の妻が隠していた秘密" 第17話
あなたが主治医のカルテを隠すように引きしの奥へ押し込む姿も、私はこの目で見ていたんです。……あなたの臓の病は、完治などしていなかった。それどころか、冠脈の化がみ、術すら能な状態まで悪化していた……違うかしら?」
「…………」
吉夫は顔を覆い、く、く沈黙した。
「なぜ、嘘をついたのですか。なぜ、ご自の命を削ってまで、あんな怪物を連れにするような真似をしたのですか……!」
咲の痛な問いかけに、吉夫はゆっくりと両をろし、力なくソファの肘掛けに倒れ込むように座った。 その顔には、商社を率いたカリスマ経営者の仮面はもうなかった。そこにあるのは、自らの犯した過ちに苦悩し続けた、の老いた父親の素顔だった。
「……余命、半だと宣告されていた」
絞りすような、吉夫の告。
「拓也の悪をったのは、ちょうどその告を受けた直だった。実の息子ではないとはいえ、私が塩にかけて育てた男が、恩ある妻を轢き殺そうとし、会社のを盗み、あまつさえ盲目となったおを奥に捨てようとしている……。その事実をった、私の臓は張り裂けんばかりの激痛に襲われた」
吉夫の目から、い涙が頬のい皺を伝って零れ落ちた。
「私は、自らので悪魔を育ててしまったのだ。……この命が尽きるに、私の全責任においてあの男を社会から完全に排除し、おの尊厳と財産を取り戻さねば、私はんでもにきれなかった」
広告
吉夫は震えるで咲のを握りしめた。
「だが……もし私が『余命いくばくもない』と打ちければ、優しいおは復讐を躊躇い、私の体を案じて計画を止めてしまうだろう。だから……完治したと嘘をついた。おを完全に自由のにするまでは、何があっても倒れるわけにはいかなかったのだ」
「お義父さん……!」
咲はそのに膝をつき、吉夫の震えるを自らの両で包み込んだ。
血の繋がった息子は、自らの欲望のために父の財産をい荒らし、寝たきりだと信じて嘲笑った。 だが、血の繋がらないこの義父は、自らの命の最の灯を削り取ってまで、義理の娘を守るための盾となった。 本当の「族」とは何なのか。血脈という記号の脆さと、魂で結ばれた絆の尊さが、の涙ので混ざりっていった。
「お義父さん。私が、今夜というを選んで、すべての罠を気に作させた理由が分かりますか?」
「え……?」
咲は涙に濡れた顔をげ、澄み切った瞳で微笑んだ。
「あなたが無理をして命を縮めていることなど、最初から分かっていました。だからこそ……でもく終わらせたかった。あなたを、復讐という呪縛から刻もく解放して、残された切なを、穏やかに過ごしてほしかったんです」
咲は力く、吉夫のを握り直した。
「もう、悪魔の始末はすべて終わりました。
広告
……これからは、私があなたの【杖】になります」
「私の……杖に……?」
吉夫が呆然と呟く。
「ええ。あの男は、私を『じゃきられないお荷物』だと罵りました。確かに、はではきていけません。だからこそ……これからは私が、お義父さんを支える目になり、になり、になります」
咲はちがり、バルコニーのガラス戸を静かにけ放った。 澄み切ったの朝のが、部のの淀んだ空気を瞬にして洗い流すように吹き込んでくる。
「世界の流の臓科医を探しましょう。最の再医療も、カテーテル治療も、できることはすべてやりましょう。私の億円は、そのために使います。……そして、病気が落ち着いたら、緒にいろんな所へ旅にきましょう。青いも、葉のも、私が全部、お義父さんの隣で言葉にして伝えてあげます」
咲は振り返り、満面の笑みを浮かべた。 、度として見せることのなかった、を取り戻したの、本物の美しい笑顔だった。
「私……もう、見えないふりをしなくていいんですから」
その言葉を聞いた瞬、吉夫の胸の奥底で張り詰めていた最の防壁が決壊した。 老は子供のように声をげて泣き崩れ、咲の肩に額を押し当てて、何度も、何度も繰り返した。
「ありがとう……ありがとう、咲さん……! 私の……私の本当の娘よ……!」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
正月、娘を家政婦扱いした義実家――私が下した決断
43歳のゆり子は、13歳の娘・美咲を連れて再婚した。しかし、結婚前は優しかった夫の賢二は、家事を押しつけ、娘の食事まで平気で奪うようになる。 迎えた初めての正月。夫の実家へ帰省した母娘を待っていたのは、休む間もない家事と姑からの冷たい仕打ちだった。さらに元旦、親戚の子どもたちがお年玉をもらう中、美咲だけが「他人だから」と仲間外れにされてしまう。人生逆転|嫁姑|夫婦|第二の人生|絶縁|親子関係1.9万字5 683 -
完結第15話
義母の老人ホーム代120万円を勝手に約束した夫
医療機器メーカーで働く結衣は、結婚以来、夫の翔太と義母の幸子に頼まれるまま、家電の買い替えや旅行代を負担してきた。月7万円の仕送りも、半分出すと約束した夫は一円も払わない。それでも家庭を壊したくない一心で我慢していたが、義母はついに結衣の勤務先へ送金を催促する電話をかけてくる。さらに夫は、義母が希望する高級老人ホームの入居金120万円まで、結衣に無断で支払う約束をしていた。夫のスマホに届いた一通のLINEをきっかけに、結衣は自分の人生を取り戻す決意をする。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|介護|金銭問題2.7万字5 1580 -
完結第15話
誕生日に姪を選んだ夫、3年後の再会で絶句
読書好きで控えめな陽菜子は、誠実だと信じていた夫・高尾と穏やかに暮らしていた。ところが三十歳の誕生日、夫は姪の百花を連れて現れ、妊娠を告げたうえで離婚届を突きつける。「子供ができないお前が悪い」と責められ、家まで追い出された陽菜子は、誰も自分を知らない町で新しい生活を始める。やがて高校時代の同級生との再会をきっかけに、少しずつ前を向けるようになっていく。そして数年後、偶然出会った元夫と姪の前で、思いがけない出来事が起こる。因果応報|人生逆転|夫婦|親子関係|修羅場|不倫2.1万字5 1526 -
完結第15話
夫の出張中に義両親が居座った――電話で判明した正体
夫の海外出張中、蒼井の家に突然やってきたのは、十年ぶりに顔を合わせる義両親だった。「息子から同居の許可をもらった」と言い張る二人は、家の料理を食べ尽くし、蒼井や娘のメイの服まで勝手に着て破いてしまう。追い出そうとしても、二人は居座るばかり。頼みの夫は電波の届かない場所にいて、連絡も取れない。そんな中、ようやく夫から電話がかかってくる。ところが、蒼井の訴えを聞いた夫は、思いもよらないことを口にした。厚かましい訪問者に振り回された母娘の、騒がしくも痛快な逆転劇。嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場1.4万字5 563 -
完結第15話
生活費を奪って消えた母、20年後の再会で私が頼んだもの
小学四年生の秋、美咲の母は家の生活費と預金を持ち去り、突然姿を消した。残された父は工場で懸命に働きながら娘を育て、給料日には食堂へ連れていってくれた。「好きなものを食べなさい」と笑う父が、自分のために頼むのはいつも水だけだった。苦しい日々を二人で乗り越え、大人になった美咲の前に、長年音信不通だった母が現れる。何事もなかったように振る舞う母を、美咲は高級レストランへ誘った。そこで彼女が選んだものには、父と過ごした忘れられない日々への思いが込められていた。夫婦|絶縁|親子関係|金銭問題1.9万字5 579 -
完結第15話
看護師を捨てた元彼、10年後に妹の名刺を踏みつけた
看護師のヒナは、起業を夢見る恋人・大志を支えるため、夜勤を増やして生活費を払い、家事も一人で引き受けていた。ところが大志は事業に成功すると、社長令嬢との婚約を決め、ヒナを一方的に捨ててしまう。それから10年。偶然再会した大志は、独身のヒナを見下し、看護師の仕事まで大声で馬鹿にし始めた。そこへ現れた妹の桃が、冷静に言い返す。しかし大志は、桃が差し出した名刺を床に落とし、靴で踏みつけてしまう。その名刺が何を意味するのか、知りもしないまま……。因果応報|兄弟姉妹|夫婦|絶縁|金銭問題|不倫1.6万字5 482 -
完結第15話
「一緒に暮らそう」親切な男性に質問すると、顔色が変わった
夫を亡くして四年、六十八歳の静子は、一人暮らしを気ままに楽しんでいた。そんなある日、親友の千鶴から、買い物袋を持ってくれる親切な男性・佐藤の話を聞く。七十四歳の佐藤は千鶴に同居を申し込み、千鶴も久しぶりの出会いに心を弾ませていた。ところが、静子にも佐藤が近づいてくる。しかも、千鶴に話したのとよく似た言葉で同居を持ちかけてきたのだ。静子が何気なく尋ねた一つの質問から、男性の思わぬ本音が見え始める。人生逆転|孤独|第二の人生|修羅場1.4万字5 797 -
完結第15話
母が泊まらない理由
念願の一戸建てを購入した直は、離れて暮らす母・かず子のために、二階で一番日当たりのいい部屋を客間にした。ところが、初めて遊びに来た母は、夕食を終えるなり「そろそろ帰るわね」と言い出す。布団まで用意したのに、なぜ泊まってくれないのか。納得できない直は、何度誘っても断る母の態度に苛立ちを募らせる。一方、妻の咲には、毎日使いたくても使えない部屋があった。良かれと思ってした親孝行。その陰で、直が見落としていたものとは。嫁姑|夫婦|親子関係1.5万字5 664