みかん小説
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"母に追い出された私が、介護を手放すまで" 第3話

計は夜の半を指していた。 普段なら、母をトイレへ誘導し、夜のオムツを当て、のデイサービスの荷造りを終えて、ようやくキッチンのゴミをまとめているだ。

けれど今、私の目のには、ただ湯気をてる杯の茶があるだけだった。 誰の嫌を窺う必もない。誰の排泄物の始末をする必もない。

翌朝、私は目覚まし計の鳴るの「午」にね起きることもなく、遮カーテンの隙から差し込むで、半に自然と目を覚ました。 自分のためだけに切りのパンをトースターに入れ、ドリップコーヒーを淹れる。 バターの溶けるばしい匂い。窓をけると、初の澄んだ朝がカーテンを揺らした。

「おはよう、私」

声にして笑ってみた。 勤した調剤薬局では、患者さんへの薬指導や処方箋の入力業務が待っていた。同僚の薬剤師や事務スタッフは、私の顔を見るなり目を見張った。

「杉本さん、なんだか今、すごく顔るくない? ファンデーション変えた?」 「いえ、何も変えていませんよ。ただ……よく眠れたんです」

「いつも目のにクマ作ってたもんね。無理しちゃ駄目よ」 からの労いの言葉が、乾いた砂にが染み込むように胸に広がっていく。 母からは度として「ありがとう」の言葉をもらったことはなかった。

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母にとって娘の奉仕は「無の義務」であり、謝の言葉はたまに来る男への接待用にとっておくものだったからだ。

夕方、退勤ち寄ったスーパーの鮮魚コーナー。 以なら、母の入れ歯でも噛み切れる柔らかい魚や、骨を徹底に抜いた刺ばかりを探していた。 けれど今、私は真っ赤に熟したトマトと、ピリリと辛い麻婆豆腐の素をカゴに入れた。 自分がべたいものを、自分の志で選び、自分のためだけにべる。 その圧倒な尊さに、レジで会計をしながらの奥がツンと痛くなった。

アパートへ戻り、テレビをつけ、ビールをむ。 テーブルののスマートフォンは、恐ろしいほど静まり返っていた。 実てから、まだ目。 今。 ――そう、実では今頃、の【デイサービスの着替え準備】に追われているはずだった。

「まあ、男教の素らしいお兄様がいるんだもの。私なんかの配は無用よね」

私はテレビのチャンネルを替え、えたグラスを傾けた。 彼らの獄は、まだ始まったばかりだった。

では、私がってから最初の週末を迎えようとしていた。

の夕刻、男の秀嫌で玄関の引き戸をけた。 には、いつものように駅級フルーツショップの袋が提げられている。千円のシャインマスカットだった。

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「母さん、マスカット買ってきたぞ! これ、すごく甘いんだってさ!」 茶のの座敷机のに座っていた枝が、パッと顔を輝かせた。

「まあ! 嬉しいわ、秀! やっぱりあなたと暮らすと、毎がパッとるくなるわねえ。由美子なんて、こんな価な果物、度も買ってきてくれたことなかったもの!」

母は嬉々としてマスカットの粒をつまみ、へと運んだ。 しかし、その横でエプロンをつけた義姉のマリは、引きつった笑みを浮かべたままち尽くしていた。 パートから帰宅して休むもなく、台所にたされていたのだ。

「あの……あなた。マスカットもいいんだけど、お義母さんの夕飯はどうするの? 蔵庫をけても、お義母さんがべられるようなものが何も入ってないのよ」

をひらひらと振って、テレビのリモコンをにした。 「適当にあるもんで作っとけよ。由美子だって毎適当にやってたんだからさ。肉じゃがでも煮ときゃいいだろ」

「適当って……お義母さん、奥歯がほとんどないから、普通の肉じゃがのお肉は噛み切れないのよ!」

げさだなあ。さく刻めばえるだろ。ほら、母さん、マスカットもっといなよ」

では、「事の世話」など主婦の事のついでに過ぎなかった。 ため息をつきながら台所へ戻ったマリは、凍庫にあった国産豚肉と野菜を炒め、醤油で濃いめの付けをして卓へ運んだ。

枝は箸をつけ、咀嚼した瞬骨に顔をしかめて箸を置いた。

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