"母に追い出された私が、介護を手放すまで" 第9話
階から起きてきた秀は、目をこすりながら欠伸を噛み殺した。 「俺は今、ゴルフの打ちっぱなしにくんだよ。おがパート休めばいいだろ」
「ふざけるなーーーっっ!!」
マリはダイニングテーブルのの聞を丸め、秀の顔面に叩きつけた。 「私はあなたの政婦じゃない!! 自分の母親の病院くらい、自分で連れてきなさいよ!!」
り狂ったマリは、バッグを掴むと玄関ドアを叩きつけるように閉めてびしていった。 取り残された茶の。 腰のたない母と、タクシーのキャンセル料を払わされてを抱える男。
蔵庫の扉から剥がされた、あの枚の予定表。 それが失われた世界で、彼らは自らが招いた無獄の業に、なす術もなく焼かれ始めていた。
曜の夜分。 私はアパートのベッドので、読灯のかりを落とそうとしていた。
その瞬、枕元のスマートフォンが狂ったように激しいバイブレーションを響かせた。 画面に浮かびがったのは、【実】の話番号。
呼吸をつし、私は徹な声で通話ボタンをスワイプした。
「はい、杉本ですが」
『……ゆ、由美子ぉぉっ!!』
受話器の向こうからび込んできたのは、かつての尊な男の面など微もない、泣き叫ぶような秀の絶叫だった。 背景からは、母の甲い喚き声と、何かがに叩きつけられる破壊音がリアルタイムで漏れ聞こえてくる。
広告
『頼む……! 頼むから今すぐ実に来てくれ! もう限界なんだよ!!』
「何の用? 夜に迷惑なんだけど」
『マリがてったんだよ! 「もうあんたたちの顔も見たくない、婚届を送るからサインしろ」ってき置きを残して、荷物まとめて実に帰っちまったんだ!』
「……へえ。賢な奥さんね」
『事みたいに言うな! 母さんがさっきから「腰が痛い」「喉が渇いた」「由美子を呼べ」って暴れて、ポータブルトイレをひっくり返しちまったんだよ! 畳面、糞尿まみれだ! 俺、どうやって掃除すりゃいいか分かんねえんだよ!!』
秀の喉から、嗚咽が漏れていた。 たった。 妻に逃げられ、排泄物の処理つ自力でできず、歳の男が夜に妹へ泣きついている。
「自分でやればいいじゃない。男なんでしょう? 親の面倒を見るのは男の役目だって、あなたが胸を張って私を追いしたんじゃないの」
『無理だ! 俺には無理なんだよ! おむつのテープの止め方すら分からねえんだ! は会社もあるんだぞ!? もできてないんだよ!!』
そこへ、受話器が荒々しく奪われるガサゴソという音が響いた。 次にスピーカーからびしてきたのは、母の枝の、切り声だった。
『ゆみこォォッ!! 親を見捨てる気かい、この親孝者が!!』
認能の衰えとパニックが混ざりった、凄まじい罵声だった。
広告
『あんたが余計なことをマリさんに吹き込んだから、あの子がてったんでしょうが! 私のをこんなにしたのはあんたのせいよ! く帰ってきて、この汚れたシーツを取り替えなさい! お腹が空いたわよ、雑炊を作りなさい!!』
私は、暗ので井を見つめた。 りすら湧かなかった。 ただ、どこまでも醜く肥化した「親子の甘え」に対する、底れぬ嫌悪だけが胸を満たしていた。
「お母さん」 私の声は、夜の氷のように透き通っていた。
「私の介護は、がなくてただのたい義務だって言ったわよね? 好きな秀さんと暮らす方が、ずっと気が楽だって笑ったわよね?」
『そ、それは……!』
「その好きな秀さんに、おむつを替えてもらえばいいじゃない。雑炊を作ってもらえばいいじゃない。……私はもう、あなたの娘でも、このの政婦でもないの」
『ゆみこ! 待ちなさい、ゆみ――』
ブツン。
私は通話を切り、実の番号を着信拒否リストへと放り込んだ。 画面が暗転し、部に再び、完全な静寂が戻ってきた。
計の針が、午零を回った。 私は毛布を引きげ、ゆっくりと目を閉じた。 実の茶ので、汚物にまみれた畳をにち尽くす母と息子の姿をい浮かべながら。
(さあ……本当の審判のは、もうすぐそこよ)
曜、曜の、実からは幾度となく固定話からのコールがあったが、私のスマートフォンの画面が点滅することは度となかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
妊娠八ヶ月の私を捨てた夫と義母に、静かな決断を下した日
妊娠八ヶ月の由香は、義母と夫から「本家の嫁の仕事」として、正月に集まる親戚三十人分の料理と給仕を強要される。そんな折、実父が心筋梗塞で倒れるが、夫は「実家はもう他人」と言い放ち、父の看病より義実家の体面を優先するよう迫った。 義兄嫁・智子から、義実家の正月が代々嫁を酷使する“公開処刑”だったと聞いた由香は、産婦人科で妊娠高血圧症候群と診断される。それでも義母と夫は診断書を無視し、「這ってでも来い」「跡継ぎを産ませてやる」と暴言を重ねたため、由香は証拠を保存し、正月への不参加と離婚の意思を宣言する。 大晦日、由香が現れなかった義実家では、何ひとつ準備していなかった義母と、料理のできない夫が大混乱に陥る。一方、父と穏やかに過ごす由香のもとへ、智子から「親戚の重鎮たちに種をまいた」と連絡が届く。物語は、元日に義母と夫が親戚一同から裁かれる直前で途切れている。裡切られた|兄弟姉妹|嫁姑|絶縁2.1万字5 503 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 354 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 158 -
完結第13話
私を捨てた元婚約者が、十数年後に知った本当の私
高校卒業二十周年の同窓会に、招待されていない富本吉春が、社長令嬢の妻・エミナを連れて現れる。十四年前に婚約者だった医師・真子を裏切った彼は、「金持ちと結婚した俺だけ幸せでごめんな」と公然と嘲笑するが、真子は静かに「本当にそう思う?」と問い返した。 かつて吉春は、激務の真子に家事と結婚準備を押しつけたうえ、同級生の美雪を自宅へ連れ込み、開き直って婚約を破棄していた。両親に慰謝料まで肩代わりさせた彼と縁を切った真子は、その後、誠実な同級生・小関京介と再会して結婚。京介は倒産寸前の家業を、東証プライム上場企業へ成長させた経営者になっていた。 同窓会場で真子が過去の浮気と卑劣な責任逃れを暴露すると、吉春の虚飾は崩れ始める。そこへ京介が現れ、真子の夫だと判明。さらに吉春の妻エミナは彼を見るなり「小関社長」と青ざめる。物語は、エミナと京介の関係、そして吉春の“勝ち組”という嘘が暴かれる直前で途切れている。夫婦|裡の顔|不倫2.0万字5 593 -
完結第15話
300億円の恩返し
結婚式当日、白いタキシードを着て新婦を待っていた琢磨に告げられたのは、「結婚は最初からドッキリだった」という言葉。銀行の創業家である新婦の家族は、彼を笑い者にし、その様子まで動画に撮っていた。 駆けつけた妹の未令は、兄を見下す銀行一家の前で財務担当者に電話をかける。彼女は世界各地で事業を営む企業グループの創業者で、その銀行には約300億円を預けていた。無名だった未令の夢を信じ、借入れの保証人になったのも琢磨だった。人生逆転|兄弟姉妹|真相|修羅場2.2万字5 672 -
完結第14話
薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた
腰の手術後、「一人では歩けない」と訴える夫・健太を介護し、毎週末義実家まで送り続けていた佐織。ところが薬を届けるため引き返すと、健太は電話で「嫁は帰った」と告げ、車椅子から何事もなかったように立ち上がった。 夫を尾行した佐織が目にしたのは、金融業者が入る雑居ビルへ元気に歩いて入る姿だった。病院で確認すると、健太は3週間前から自由歩行を許可されており、痛みを誇張して休職を延長していたことも判明する。 さらに健太は450万円の連帯保証債務を抱え、借金返済のため、休職中に会社の機密情報流出へ関わっていた。義母も息子が歩ける事実を隠し、佐織を無給の介護役兼運転手として利用していたのだ。 佐織は夫を庇わず、記録と証拠を会社や弁護士へ提出し、離婚と財産保全の手続きを進める。嘘の車椅子から立ち上がった夫が社会的信用を失う一方、佐織が誰かを背負う生活を終え、自分の足で新しい人生を歩き始める再生物語。夫婦|介護|金銭問題|不倫2.1万字5 456 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 1042 -
完結第11話
3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日
3か月寝たきりの娘・さやかを、婿の健二は「海外の専門医に相談している」と自宅で看病していた。感染対策を理由に、面会まで禁じられた母・恵子。最後に娘の顔を見てから10日。婿が出張に出た朝、閉ざされた寝室から異臭が漂う。恵子は119に通報し、娘を病院へ連れ出した。体重は34kg。最後に診察を受けた日さえ、母は答えられなかった。娘は「あそこには戻さないで」と訴える。治療を進める病院へ、今度は健二が妻を取り戻しに現れる。一方、娘が指先を伸ばしたベッドの隙間からは、2錠の薬が見つかる。献身的な夫は、何を隠していたのか。娘が口にできなかった言葉をたどり、母は3か月の「看病」の真実に迫っていく。親子関係|介護1.8万字5 1413 -
完結第11話
金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた
「ほら、都。ここからジャンプしてみなさい」 小学3年生だった私の記憶は、母のその声を最後に途切れている。 次に目を覚ました時、私はもう自分の脚を動かせなかった。 母は「娘が自分でベランダへ登った」と説明し、私の退院前に姿を消した。 それから9年。 車椅子陸上で世界を目指し始めた私の前へ、母が突然戻ってきた。 「ずっと会いたかった。今度こそ支えたいの」 私はその言葉を信じず、母を追い返した。 だが忘れ物を取りに戻った時、駐車場で誰かと電話する母の声が聞こえた。 「大丈夫。あの子、ベランダのこと覚えてないみたいだから」 私は震える手でスマートフォンを取り出し、録音ボタンを押した。真実|裡の顔|親子関係1.6万字5 326 -
完結第12話
嫁の「逃げて」で暴かれた妻の計画
「お義父さん、今すぐ車を降りてください。絶対に奥さんのところへ戻らないで」 妻との旅行中、ほとんど電話をしてこない嫁から突然そう告げられた。 「食べ物も薬も、絶対に口へ入れないでください」 私は妻が差し出した、水なしで飲める白い錠剤を思い出した。 トイレへ行くふりをして車を降り、観光バスの陰まで必死に走った。 やがて駐車場へ出てきた妻は、笑顔を消し、鋭い目で私を捜し始めた。 嫁の車へ逃げ込むと、一通の誤送信メールを見せられた。 《サービスエリアを過ぎたら薬を飲ませる。お兄ちゃんからそっちに連絡を入れておいて》 その夜、妻が持ってきた私の旅行鞄を開けると、底から見覚えのない書類が出てきた。 山間部にある介護施設のパンフレット。 入所予定者の欄には、私の名前と病歴が記されていた。 《認知機能の低下》《本人に病識なし》《今週末に入所予定》 そして保護者欄には、息子でも妻でもない、私の知らない男の名前が書かれていた。人生逆転|夫婦|真実|裡の顔1.7万字5 1031