"母に追い出された私が、介護を手放すまで" 第16話
今は駅の反対側にさなアパートを借りて、パート先もフルタイムの契約社員に切り替えてもらったの。……本当に、あの由美子さんが背を押してくれたおかげよ」
「マリさんが無事に再発できて、本当によかったです。……実の方は、どうなっていますか?」
私の問いに、マリさんはしだけ表を曇らせ、声を潜めた。
「……あそこはもう、修羅を通り越して廃墟よ。秀さん、元に残った雀の涙ほどの貯も、美穂への示談と弁護士費用で全部消えたらしいわ。毎万円の介護費用なんて払えるわけないから、夜のヘルパーもショートステイも全部解約したんですって。……今はね、秀さんが仕事から帰った、でお義母さんのオムツを替えてるらしいわよ」
「お兄ちゃんが、で……」
「ええ。会社でも、夜の介護でもできないからミスを連発して、窓際どころか倉庫番に格させられたそうよ。毎晩、お義母さんと鳴りいの喧嘩をして、所でも名なトラブル敷になってるわ。……お義母さん、秀さんから毎『おがくねば保険が入るのに』って罵倒されて、怯えて暮らしてるって……田さんが嘆いてたわ」
自業自得。 因果応報。 その言葉以に、彼らの末を表現する言葉を私は持ちわせていなかった。 好きな男に取られるはずだった老は、その男から呪詛を吐きかけられながら怯える、終わりのない獄へと変わっていたのだ。
広告
マリさんと別れて数の夜。 私のスマートフォンに、見慣れない「公衆話」からの着信が入った。 嫌な予がしたが、私は通話ボタンを押した。
『……ゆ、由美子か? 俺だ……秀だ……』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、かつての品な兄の声とは似ても似つかない、掠れ、震え、今にも崩れ落ちそうな男の呻き声だった。
『頼む……由美子……頼むから、万円だけでいい……を振り込んでくれ……!』
公衆話の受話器越しに、秀の嗚咽交じりの懇願が響いた。 自分の携帯が着信拒否されていることに気づき、所の話ボックスまでったのだろう。円玉が落ちるガチャンという無質な音が、痛々しく鼓膜を叩いた。
「お? 私があなたに円でも貸す義理があるとうの?」
『母さんのデイサービス代が払えねえんだよ! 先分も滞納してて、このままだと契約解除されるって田から脅されてるんだ! 俺の料は全部差し押さえられて、元に万しか残らねえんだよ!!』
「役所の活福祉課に相談しなさいよ。活保護でも何でも申請すればいいじゃない」
『そんな恥ずかしいことできるかよ!! 所のがあるだろ! 男の俺が活保護なんて受けたら、親父の墓に顔向けできねえんだよ!!』
この期に及んでもなお、見栄と世体に固執する愚かさ。 私は笑を浮かべ、氷のような言葉を投げつけた。
広告
「親の墓に顔向けできないような倫をして、母親の老資をに貢いだのはどこの誰かしらね。……お兄ちゃん、私をATMにするのは輪際やめて。次に話してきたら、警察にストーカー被害として届けるわよ」
『待て! 由美子、おそれでも実の娘か!? 母さんを見殺しにする気かよ!!』
「見殺しにしたのは、あなたよ」
私は通話を切り、公衆話の番号も即座に着信拒否に設定した。 部のに、再び静寂が戻る。 胸の奥に、わずかな痛みすららなかった。 親族という名の呪縛は、完全に私の魂から消滅していた。
それからさらに半が過ぎた、の初旬。 枯らしが吹き荒れる曜の夕方、私のスマートフォンに、本のショートメッセージが届いた。 差は、母の枝だった。
半、度も連絡を寄越さなかった母。 その画面に表示された文字を、私は息を呑んで見つめた。
『由美子へ。 来週の曜の午、駅の純喫茶「ルノアール」で、度だけお茶をめないかしら。 秀はいません。田さんに子を押してもらって、私できます。 もう、おの無も、帰ってきてほしいというお願いもしません。 ただ……あなたに、直接謝りたいのです。 どうか、度だけ、顔を見せてくれないでしょうか』
命令でも、罵倒でもない。 娘の都を伺い、自らの非を認め、の喫茶で会うことを乞う、震えるような文字。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
妊娠八ヶ月の私を捨てた夫と義母に、静かな決断を下した日
妊娠八ヶ月の由香は、義母と夫から「本家の嫁の仕事」として、正月に集まる親戚三十人分の料理と給仕を強要される。そんな折、実父が心筋梗塞で倒れるが、夫は「実家はもう他人」と言い放ち、父の看病より義実家の体面を優先するよう迫った。 義兄嫁・智子から、義実家の正月が代々嫁を酷使する“公開処刑”だったと聞いた由香は、産婦人科で妊娠高血圧症候群と診断される。それでも義母と夫は診断書を無視し、「這ってでも来い」「跡継ぎを産ませてやる」と暴言を重ねたため、由香は証拠を保存し、正月への不参加と離婚の意思を宣言する。 大晦日、由香が現れなかった義実家では、何ひとつ準備していなかった義母と、料理のできない夫が大混乱に陥る。一方、父と穏やかに過ごす由香のもとへ、智子から「親戚の重鎮たちに種をまいた」と連絡が届く。物語は、元日に義母と夫が親戚一同から裁かれる直前で途切れている。裡切られた|兄弟姉妹|嫁姑|絶縁2.1万字5 502 -
完結第15話
18年間閉ざされた納屋
31歳の美咲は、博士課程を修了したその日、18年間会えずにいた兄・直のことを確かめるため実家へ向かった。両親からはずっと「兄は施設で暮らしている」「会えば不安定になる」と聞かされ、施設名も住所も教えられていなかった。ところが帰り道、近所の女性から思いがけない一言を聞く。「直君、まだ裏の納屋にいるんだと思ってた」。実家へ駆け戻ると、古い納屋の扉には外側から2つの南京錠。窓は布で覆われ、食器と電気コードには最近まで使われた痕跡が残っていた。そして美咲が「お兄ちゃん」と呼びかけると、扉の向こうから2度、確かな音が返ってきた。18年間、両親は何を隠してきたのか――。兄弟姉妹|親子関係2.2万字5 354 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 150 -
完結第13話
私を捨てた元婚約者が、十数年後に知った本当の私
高校卒業二十周年の同窓会に、招待されていない富本吉春が、社長令嬢の妻・エミナを連れて現れる。十四年前に婚約者だった医師・真子を裏切った彼は、「金持ちと結婚した俺だけ幸せでごめんな」と公然と嘲笑するが、真子は静かに「本当にそう思う?」と問い返した。 かつて吉春は、激務の真子に家事と結婚準備を押しつけたうえ、同級生の美雪を自宅へ連れ込み、開き直って婚約を破棄していた。両親に慰謝料まで肩代わりさせた彼と縁を切った真子は、その後、誠実な同級生・小関京介と再会して結婚。京介は倒産寸前の家業を、東証プライム上場企業へ成長させた経営者になっていた。 同窓会場で真子が過去の浮気と卑劣な責任逃れを暴露すると、吉春の虚飾は崩れ始める。そこへ京介が現れ、真子の夫だと判明。さらに吉春の妻エミナは彼を見るなり「小関社長」と青ざめる。物語は、エミナと京介の関係、そして吉春の“勝ち組”という嘘が暴かれる直前で途切れている。夫婦|裡の顔|不倫2.0万字5 593 -
完結第15話
300億円の恩返し
結婚式当日、白いタキシードを着て新婦を待っていた琢磨に告げられたのは、「結婚は最初からドッキリだった」という言葉。銀行の創業家である新婦の家族は、彼を笑い者にし、その様子まで動画に撮っていた。 駆けつけた妹の未令は、兄を見下す銀行一家の前で財務担当者に電話をかける。彼女は世界各地で事業を営む企業グループの創業者で、その銀行には約300億円を預けていた。無名だった未令の夢を信じ、借入れの保証人になったのも琢磨だった。人生逆転|兄弟姉妹|真相|修羅場2.2万字5 672 -
完結第14話
薬を忘れて戻ると、「歩けない」夫が立っていた
腰の手術後、「一人では歩けない」と訴える夫・健太を介護し、毎週末義実家まで送り続けていた佐織。ところが薬を届けるため引き返すと、健太は電話で「嫁は帰った」と告げ、車椅子から何事もなかったように立ち上がった。 夫を尾行した佐織が目にしたのは、金融業者が入る雑居ビルへ元気に歩いて入る姿だった。病院で確認すると、健太は3週間前から自由歩行を許可されており、痛みを誇張して休職を延長していたことも判明する。 さらに健太は450万円の連帯保証債務を抱え、借金返済のため、休職中に会社の機密情報流出へ関わっていた。義母も息子が歩ける事実を隠し、佐織を無給の介護役兼運転手として利用していたのだ。 佐織は夫を庇わず、記録と証拠を会社や弁護士へ提出し、離婚と財産保全の手続きを進める。嘘の車椅子から立ち上がった夫が社会的信用を失う一方、佐織が誰かを背負う生活を終え、自分の足で新しい人生を歩き始める再生物語。夫婦|介護|金銭問題|不倫2.1万字5 456 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 1042 -
完結第11話
3か月寝たきりの娘を、婿に黙って連れ出した日
3か月寝たきりの娘・さやかを、婿の健二は「海外の専門医に相談している」と自宅で看病していた。感染対策を理由に、面会まで禁じられた母・恵子。最後に娘の顔を見てから10日。婿が出張に出た朝、閉ざされた寝室から異臭が漂う。恵子は119に通報し、娘を病院へ連れ出した。体重は34kg。最後に診察を受けた日さえ、母は答えられなかった。娘は「あそこには戻さないで」と訴える。治療を進める病院へ、今度は健二が妻を取り戻しに現れる。一方、娘が指先を伸ばしたベッドの隙間からは、2錠の薬が見つかる。献身的な夫は、何を隠していたのか。娘が口にできなかった言葉をたどり、母は3か月の「看病」の真実に迫っていく。親子関係|介護1.8万字5 1413 -
完結第11話
金メダル会見で、私は母の嘘を暴いた
「ほら、都。ここからジャンプしてみなさい」 小学3年生だった私の記憶は、母のその声を最後に途切れている。 次に目を覚ました時、私はもう自分の脚を動かせなかった。 母は「娘が自分でベランダへ登った」と説明し、私の退院前に姿を消した。 それから9年。 車椅子陸上で世界を目指し始めた私の前へ、母が突然戻ってきた。 「ずっと会いたかった。今度こそ支えたいの」 私はその言葉を信じず、母を追い返した。 だが忘れ物を取りに戻った時、駐車場で誰かと電話する母の声が聞こえた。 「大丈夫。あの子、ベランダのこと覚えてないみたいだから」 私は震える手でスマートフォンを取り出し、録音ボタンを押した。真実|裡の顔|親子関係1.6万字5 326 -
完結第12話
嫁の「逃げて」で暴かれた妻の計画
「お義父さん、今すぐ車を降りてください。絶対に奥さんのところへ戻らないで」 妻との旅行中、ほとんど電話をしてこない嫁から突然そう告げられた。 「食べ物も薬も、絶対に口へ入れないでください」 私は妻が差し出した、水なしで飲める白い錠剤を思い出した。 トイレへ行くふりをして車を降り、観光バスの陰まで必死に走った。 やがて駐車場へ出てきた妻は、笑顔を消し、鋭い目で私を捜し始めた。 嫁の車へ逃げ込むと、一通の誤送信メールを見せられた。 《サービスエリアを過ぎたら薬を飲ませる。お兄ちゃんからそっちに連絡を入れておいて》 その夜、妻が持ってきた私の旅行鞄を開けると、底から見覚えのない書類が出てきた。 山間部にある介護施設のパンフレット。 入所予定者の欄には、私の名前と病歴が記されていた。 《認知機能の低下》《本人に病識なし》《今週末に入所予定》 そして保護者欄には、息子でも妻でもない、私の知らない男の名前が書かれていた。人生逆転|夫婦|真実|裡の顔1.7万字5 1031