みかん小説
本棚

"しおれた野菜と30万円" 第1話

の午の瀬の凍てつく枯らしが吹き抜けるを、私――修平(歳)はに自宅へと急いでいた。

には、妻の綾野(あやの・歳)が好きなデパの限定チーズケーキの箱を提げている。 昨、私は始の買いしと親戚をもてなす準備費用として、で引きしたばかりの万円が入ったい封筒を綾野に渡したばかりだった。

『修平さん、ありがとう。叔父さんや従兄弟の子たち、みんながんでくれるように、腕によりをかけておせちもお肉も準備しておくね』

そう言って、作りの献ノートを広げながら柔らかく微笑んでいた綾野の笑顔が、脳裏に焼き付いていた。

「ただいま、綾野。ケーキ買ってき――」

玄関のドアをけた瞬、私の言葉は喉の奥で凍りついた。 の気配がまったくない。気よりもえとし、暗い廊の奥、照の消えた台所から、かすかな、けれど耐えかねたようなすすり泣きの声が漏れ聞こえていたのだ。

指先からチーズケーキの箱が滑り落ち、にボトリと鈍い音をてた。 私は靴も脱ぎ散らかしたまま、たい廊り抜けて台所へび込んだ。

「綾野! どうしたんだ、何があった!?」

台所の隅、勝え切ったに、綾野は膝を抱えてさくうずくまっていた。

広告

その細い腕のに、何かが固く抱きしめられている。 それは――見切り品のワゴンに放りされていたような、で汚れ、黄く変して無惨にしおれた根の葉と、葉先が茶く腐りかけたほうれんの束だった。

「綾野……? 怪はないか? おい、顔を見せてくれ!」

私が肩を抱き寄せると、綾野はビクッと全がらせ、怯えた野良犬のようにを縮こまらせた。 ゆっくりとげられた顔は涙とでぐしゃぐしゃに腫れがり、唇はに変して激しくガタガタと震えている。

「ごめんなさい……ごめんなさい、修平さん……っ」

かすれ切った、消え入りそうな声だった。

「私……ちゃんとお正の準備……できなかったの……。これしか……これしか残らなくて……っ」

「何を言ってるんだ? 準備なんてどうでもいい! それよりその体、体何があったんだ!?」

私の線が、綾野の背――きくけ放たれたままの蔵庫へと向かった。

は、もぬけの殻だった。 昨までぎっしりと詰め込まれていたはずの、親戚同に振るうための級黒毛牛のすき焼き用パックも、から届いたばかりの派なタラバガニも、本数千円する祝酒の瓶も、何つ残されていない。 そして、卓の棚のに置いてあったはずの、現万円が入ったあのい封筒も、跡形もなく消え失せていた。

広告

蔵庫の棚には、無造作に引きずりされた際のタレの汚れと、のような跡だけが乾きかけてこびりついている。 そして、綾野の腕のにある、ゴミ同然のしおれた野菜の切れ端。

(誰かが……に入ったのか? 空き巣か? 盗か……!?)

戦慄が背筋を駆け抜けた瞬、綾野が震える指先で私の袖を掴み、さらに絶望な言葉を絞りした。

「言ったら……私が悪いことにされるって……。親戚みんなに……おを使い込んだ棒嫁だって言いふらすって……言われたの……っ」

その言葉を聞いた瞬、私の脳内で、見らぬ空き巣という能性は完全に消滅した。 親戚の目を盾にし、妻を棒呼ばわりしてを奪える――そんな真似ができる怪物は、この世にしかしない。

「……母さんと、ゆりだな?」

私のく絞りすような問いかけに、綾野の体が引きつけを起こしたように直した。 瞳に宿ったのは、否定ではなく、底れぬ恐怖の肯定だった。

私の母・久美子(歳)と、実に寄している妹のゆり(歳)。 の顔が、黒いとなって私の界を覆い尽くした。

「母さんたちが……ここに来たんだな? あのと、材を持ってったのか!?」

「ひ、修平さん……らないで……っ。私が……私がもっとく断っていれば……っ」

綾野はに額を擦り付けんばかりにして泣き叫んだ。 被害者であるはずの妻が、なぜこれほどまでに自分を責め、夫である私に怯えなければならないのか。

その原因を作ったのは、ならぬ私自の「優柔断な甘さ」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: