"しおれた野菜と30万円" 第5話
てきたのは、に父がくなった際の相続関係類の控えと、古い戸籍謄本、そして使い古された方の通帳が冊だった。
私は何気なく、父の名義ではなく、母・久美子の名義になっている番古い通帳をいた。 表には【緑町信用庫】の文字。最の記帳は、父が倒れる――今からの付で止まっている。
パラパラと黄ばんだページをめくっていく。 その瞬、私の指がピタリと止まった。
「……なんだ、これ?」
毎。 父の料の翌に、決まって【万円】というまとまった額が、ATMから規則正しく引きされていた。 そして、その引きしの直、同じ支内の別の座へ【振込】が実されている。
振込先の欄にカタカナで印字された名義――。
【マツオ 〇〇】
名字は「松尾」。 私の親族にも、父の仕事関係にも、そんな名の物はもしない。 しかも、その万円の連続送は、通帳が確認できる過にわたって、度も途切れることなく毎実されていたのだ。
総額にして、およそ千百万円。
「修平さん……この松尾さんって、誰なの?」 覗き込んだ綾野が、怪訝そうに首を傾げた。
「分からない。……父さんは無で質素なだった。自分のスーツ着調するのにも何も悩むようなが、毎万ものを、謎の個座に送し続けるはずがない」
広告
さらに奇妙な点があった。 毎続いていたその送が、あるを境に、突然ピタリと途絶えていたのだ。
そのとは――父が末期の胃がんで倒れ、緊急入院した、まさにそのだった。
父の収入が途絶え、額な医療費がかかり始めた途端にストップした送。 これは父自の個な支払いではない。父の稼ぎを原資にして、母が送させていたと考えるのが自然だ。
そして、母がり際に吐き捨てた言葉。 『あのは、私たちに借りを返す義務があるのよ』
胸の奥底で、たい何かがドロリと蠢き始めた。 母が万円を奪した理由は、単なる贅沢や正気分の散財ではない。 この「松尾」という過の霊が、今まさに母の背にを落としているのではないか。
私は拳を握りしめ、スマートフォンをに取った。 刻は午。 警察への正式な相談と、法な対抗措置を固めるための「い夜」が始まろうとしていた。
プルルル……プルルル……。
スマートフォンのスピーカーから流れる呼びし音を聞きながら、私は綾野の背を優しく撫で続けた。 通話が繋がったのは、警察相談専用ダイヤル【#9110】だった。
『はい、警察相談ダイヤルです』
落ち着いた初老の男性担当者の声に応じ、私はを極力排し、起きた事実を淡々と、系列に沿って報告した。
・別居の実母と実妹が、鍵を無断使用して居に侵入したこと。
広告
・現万円および正用の級材を奪したこと。 ・その際、妻に対して「使い込みの濡れぬぎを着せる」と脅迫して封じを図ったこと。 ・その部始終が、音声付きの防犯カメラに鮮に記録されていること。
担当者は私の話を遮ることなくメモを取り、く相槌を打った。
『なるほど……親族のトラブルとはいえ、別居で計を別にしている以、刑法の親族相盗例(同居の親族における窃盗罪の免除)は適用されません。確な【居侵入罪】および【窃盗罪】、態様によっては【恐罪】の構成件に該当します』
「今すぐ被害届を受理していただくことは能でしょうか」
『客観な映像証拠があるのは非常にいです。ただし、親族事案の、まずは所轄署の活全課または刑事課での事相談と事聴取が必になります。の朝、品川署の総相談窓へ映像データを持参して来署できますか?』
「わかりました。朝番で伺います」
『奥様の精神なケアを最優先にしてください。もし今夜、相方が再度押しかけてきたり、ドアを叩くようなことがあれば、ためらわずに〇番通報してください。直ちにパトカーを急させます』
「ありがとうございます」
通話を終えると、綾野がホッとしたようにさく息を吐いた。 警察が事件として認識してくれたという事実だけで、彼女の瞳にわずかなが戻っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 158 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 411 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 285 -
完結第11話
父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠
父の葬儀の読経中、夫のスマホが3度震えた。 「会社で緊急のトラブルがあった」 そう言って席を立った夫は、私の父を見送ることなく姿を消した。 喪主だった私は、何も言えず一人で最後まで葬儀を終えた。 その夜、冷たい家に戻ると、午前2時57分―― 亡くなったはずの父の名前から、メッセージが届いた。 「誰にも言わず、母さんの墓へ行きなさい」 半信半疑で向かった先で、父が残していたものを見つけた。 そこに入っていたのは、夫の知られざる裏切りと、私を守るための証拠だった。 そして私は初めて知った。 父は最後の日まで、私の人生を守ろうとしていたのだ。夫婦|親子関係|修羅場|不倫1.6万字5 358 -
完結第19話
夫に捨てられた盲目の妻が隠していた秘密
三年前の事故で失明した咲は、夫・拓也から介護を疎まれ、深夜のサービスエリアへ置き去りにされる。しかし車が消えた直後、彼女はサングラスを外した。視力はすでに回復しており、拓也の不倫や財産強奪を知った咲は、義父・吉夫と協力して千日間“盲目の妻”を演じ、証拠を集めていた。 拓也は愛人リカと会社の金を横領し、咲の三億円の遺産まで奪って海外逃亡を企てる。だが口座は凍結され、持ち出した札束は新聞紙にすり替えられていた。さらに、寝たきりだと思っていた吉夫も回復しており、部下だと信じていた健太も内部調査員だったと判明。拓也は懲戒解雇され、横領の刑事告訴と五億円の連帯保証債務を突きつけられる。 すべてを失った拓也が助命を乞うなか、咲は最後の「答え合わせ」を始める。三年前に彼女を失明させたトラック事故は、偶然ではなかったのではないか――その一言を聞いた拓也は顔面を蒼白にする。物語は、事故に隠された拓也最大の罪が明かされる直前で途切れている。裡切られた|夫婦|修羅場2.8万字5 356 -
完結第13話
私を捨てた元婚約者が、十数年後に知った本当の私
高校卒業二十周年の同窓会に、招待されていない富本吉春が、社長令嬢の妻・エミナを連れて現れる。十四年前に婚約者だった医師・真子を裏切った彼は、「金持ちと結婚した俺だけ幸せでごめんな」と公然と嘲笑するが、真子は静かに「本当にそう思う?」と問い返した。 かつて吉春は、激務の真子に家事と結婚準備を押しつけたうえ、同級生の美雪を自宅へ連れ込み、開き直って婚約を破棄していた。両親に慰謝料まで肩代わりさせた彼と縁を切った真子は、その後、誠実な同級生・小関京介と再会して結婚。京介は倒産寸前の家業を、東証プライム上場企業へ成長させた経営者になっていた。 同窓会場で真子が過去の浮気と卑劣な責任逃れを暴露すると、吉春の虚飾は崩れ始める。そこへ京介が現れ、真子の夫だと判明。さらに吉春の妻エミナは彼を見るなり「小関社長」と青ざめる。物語は、エミナと京介の関係、そして吉春の“勝ち組”という嘘が暴かれる直前で途切れている。夫婦|裡の顔|不倫2.0万字5 593