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"無能社員を演じていた俺、上司を救って正体がバレる" 第3話

だが、その声は健太のには届かなかった。

引きを引いたのは自分だ。 自分が放った弾丸が引きを引かせ、あの女の未来を吹きばしたのだ。 除隊届を提した、健太は自らの両を鏡で洗い流した。どれだけ鹸を擦り付けても、硝煙の匂いと女の血の温もりが消えることはなかった。

力を持つから、守ろうとする。 守ろうとするから、傲になり、取り返しのつかない劇を引き起こす。 ならば、度と力など使うものか。 誰の命も背負わず、誰からも頼られず、誰の期待も背負わない「無能」としてきること。それが、き残ってしまった自分に課した、唯の贖罪だったはずだった。

「……藤さん。よ」

ハッと顔をげると、いつのにか昼休みを告げるチャイムが鳴り響いていた。 デスクの脇につ凛が、の読めないたい瞳で健太を見ろしていた。

の爽やかなが吹き抜ける、本社の。 層ビルの狭に切り取られた青空の、フェンスに背を預けた凛が、缶コーヒーをんで健太へ線を向けた。

「単刀直入に聞くわ。あなた、本当は何者なの?」

健太は猫背のまま、けない笑みを浮かべた。 「ですから、昨晩も言いました通り、ただの会社員ですよ。昔、実が空をやってまして、親父に無理やり叩き込まれた基本が、たまたまたというか……」

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「嘘をつきなさい」 凛の声が、ピシリと空気を裂いた。 彼女はポケットからスマートフォンを取りし、画面を健太の目のに突きつけた。

「今朝、ビルの警備で昨の防犯カメラの映像をチェックさせてもらったわ。あなたがで運んでいた、あの複のトナーとA4用のダンボール箱。……つねて、計キロよ」

「……あ」

「キロの荷物を、あなた、腰を落とすこともなく、片でバランスを取って軽々と持ちげていた。しかも、あの裏。鉄パイプを振りろした男の軌を、あなたは首をわずか数センチ傾けただけでわし、首の神経を圧迫して脱力させた。……空の基本? ふざけないで。あれは、軍隊か何かの――を効率に壊すための技術よ」

健太は言葉を失い、喉を鳴らした。 言い逃れのできない観察。さすがは若くして営業トップをり続ける女だった。の嘘や揺を見抜く力において、彼女は流のプロだった。

沈黙がのに流れる。 が凛の黒髪を揺らし、そのい頬を撫でていく。

「……言いたくないなら、無理にとは言わないわ」 ふと、凛の声から刺々しさが消えた。彼女は線を元のコンクリートへ落とし、自嘲気に元を歪めた。

「でもね、藤さん。つだけ礼を言わせて。……昨の夜、あなたが割って入ってくれなかったら、私、今頃どうなっていたか分からない。

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……ありがとう」

々とをげる女司。 その華奢な肩が、微かに震えているのを健太は見逃さなかった。 烈な虚勢と責任の鎧ので、彼女もまた、ただのの怯える女性に過ぎなかったのだ。

「課……」 「勘違いしないでよね。午の会議の資料、まだ修正が終わってないんだから、く戻りなさい」

凛は顔をげると、いつもの『氷の女王』の徹な仮面を被り直し、踵を返してのいドアへと向かった。 その背を見送りながら、健太の胸の奥底で、固く凍りついていた何かが、ピシリと音をてて罅割れた。

――このは、っている。 部が犯した発注ミスを、役員会ので「私の監督き届きです」とをげてでを被った夜。 夜までオフィスに残り、泣きながらで修正作業をしていた彼女の姿を、健太はっていた。 理尽な組織ので、ボロボロになりながらも部を守ろうとする女。 その彼女が今、誰にも言えない巨な悪の渦に巻き込まれようとしている。

「……俺は、また見殺しにするのか?」

自問自答の呟きは、都会のビルにかき消されて消えた。

そのの午。定退社を告げる鐘が鳴ると同に、健太は鞄を掴んでオフィスをた。 凛はすでに役員フロアへ呼びされており、席にはいなかった。

本社ビルをて、鉄の入りへ向かう暗い通り。

がりの湿ったが吹き抜ける、健太の歩脇に、滑り込むようにして台の黒塗りの最級セダン――トヨタ・センチュリーがした。

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