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"無能社員を演じていた俺、上司を救って正体がバレる" 第6話

――罠は、すでに仕掛けられている。 の役員会まで、残されたはもない。

午半。 完全に消灯された栄フーズ本社のオフィスフロア。 セキュリティカードを通し、暗のにを踏み入れた健太は、奥の役員応接から漏れる条のかりを見つけた。

そっとドアノブにをかけ、隙からを覗き込む。 テーブルの端に、きりで座り込む凛の姿があった。

スーツのジャケットは脱ぎ捨てられ、ブラウスの袖を捲りげた彼女は、両で顔を覆い、肩を激しく震わせていた。 シクシクと、押し殺した嗚咽が、無の部に痛々しく響いている。 あの社内の誰もが恐れ、憧れていた『氷の女王』の姿は、そこにはなかった。

健太は静かにドアを押しけた。

「……誰?」 凛が弾かれたように顔をげた。赤く腫らした目、涙で崩れたマスカラ。 入ってきたのが健太だと分かると、彼女は慌ててペーパータオルで顔を拭い、厳しい表を作ろうとした。

「藤さん……? こんなに何をしているの。警備員にられるわよ」 「課こそ、こんなところで何をしてるんですか」

「……何でもないわ。の会議の準備よ。く帰りなさい」 がる声が、微かに擦っている。

健太は踵を返さず、テーブルを挟んだ向かいの席に、無言で腰をろした。 「……藤さん?」

「課。俺、黒崎という男に会ってきました」

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凛の体が、ピクリと直した。 瞳のに、急速に怯えと絶望が広がっていく。 「あなた……あのヤクザと……? どうして……」

「父の、鳥誠さんのことを聞きました。そして――の役員会で、榊原専務があなたを陥れようとしていることも」

凛は力なく線を落とし、テーブルので固く握りしめた拳を震わせた。

「……そう。っちゃったのね。……さっき、専務に呼びされたわ。『君と反社会勢力の密会写真が内部告発で届いた。の役員会で弁の会を与えるが、会社の名誉を傷つけた責任はい』って」

「なぜ、戦わないんですか。事実無根だと主張すればいい」

「証できないのよ!」 凛のから、痛な叫びが迸った。

「相が誰かなんて、私には分からない! 父が昔、誰を助けたかなんて、私は何も聞かされていなかった! ……警察に駆け込めば、父の過が暴かれて、会社に『やっぱりヤクザと繋がりがあったんだ』って面おかしく噂されるだけ! ……よ、藤さん」

粒の涙が、テーブルの目を濡らしていく。

「学をて、男社会のこの会社に入って、セクハラやすり抜けを全部ね除けて、倒れるまで働いて……やっと、父が遺してくれた取引先を守れる所まで来たのに……! あんな、会社を切り売りしようとしているクズに、全部奪われるなんて……! 悔しい……悔しいわよ……!」

爪がのひらにい込み、血が滲んでいた。

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組織の理尽という巨な壁のに、たったでち向かい、打ちのめされた女の慟哭。

健太はちがり、ゆっくりと凛のへ歩み寄った。 そして、ポケットから取りした清潔なハンカチを、彼女の震えるの横へそっと置いた。

「課。……俺に、しだけ昔話をさせてくれませんか」

凛がおずおずと顔をげる。 その線の先で、健太は今まで社内の誰にも見せたことのない――徹で、切に満ちた瞳をしていた。

「俺は、に自隊を辞めました」

健太の静かな声が、静寂な応接を満たしていく。 「所属していたのは、特殊作戦群という、表には名のない特殊部隊でした」

凛が息を呑み、涙に濡れた目をきく見いた。 健太は淡々と語り続けた。過酷な訓練の々。での質救作戦。テロリストのの眉を撃ち抜いた瞬。そして、巻き添えになって吹きんだ、罪のない本族の命。

「……俺は、自分の力を過信していました。自分にはを守る力がある、悪を排除する力があるといがっていた。その結果が、あの惨劇です。……俺が引きを引いたせいで、助けられるはずだった命が消えた」

健太は自らの両を見つめた。 傷跡の残る、無骨な指先。

「除隊してから、俺は誓いました。もう度と、力は使わない。誰かの期待を背負えば、また誰かを殺してしまう。

だから、この会社では徹底に使えない男を演じました。

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