みかん小説
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"十年分の船代で始まった一人旅" 第9話

どちらが正しいという話ではない。

ただ、私は常夫とのを恥じる必はなかった。

「千鶴子さん」

「何?」

「、好きですか?」

彼女はすぐには答えなかった。

しばらくして窓のの暗いを見た。

「分、好きだったとう」

私は笑った。

「じゃあ次は、だけ見て乗ったらいいですね」

千鶴子さんは返事をしなかった。

でも、りもしなかった。

最終の朝、私は番の展望ラウンジへった。

から井まできな窓が続き、が界いっぱいに広がっている。

窓のない部で晩眠った目には、そのるさがし眩しかった。

私は常夫の写真をバッグからし、テーブルのへ置いた。

「終わっちゃったよ」

写真の常夫は何も答えない。

「ったより、ちゃんと楽しかった」

それを言えたことが嬉しかった。

「あなたがいなくて寂しかった」ではなく、「楽しかった」と報告できる。

旅へ来るは、それが裏切りのようにえていた。

夫が来られなかった旅を、自分だけ楽しむことにろめたさがあった。

でも違う。

常夫は私をしませるために積みてたのではない。

で楽しむためだった。

で叶わなかったからといって、全部をしみに変える必はない。

ラウンジへ吉さん夫妻が入ってきた。

私を見ると、正さんがをげた。

「ここでしたか」

吉さんは封筒を持っている。

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「所、教えてください」

「?」

「ええ。私、メールよりの方が好きなんです」

私は所をいた。

吉さんもいてくれた。

「帰ったら、絵を探しにってみます」

「桃のケーキもべてくださいね」

「そっちが先です」

また笑った。

数まで、同じテーブルで肩を縮めていたとはえない。

その、千鶴子さん夫妻もやってきた。

「皆さんいのね」

千鶴子さんはそう言いながら、私たちのテーブルへ座った。

カードのを確かめるはいなかった。

客番号の話をするもいなかった。

ただ窓の向こうのを見た。

それだけで分だった。

、私は内の精算を済ませた。

封筒に残っていた現を確認すると、万円しになっていた。

百万円あった。

ほとんど使った。

以の私なら、しになったかもしれない。

常夫がかけて貯めたものを、たった週でこれだけ使っていいのかと。

でも、残のなさより、のに残っている景の方がきかった。

の。

の焼き魚。

桃のタルト。

曲がった革のキーホルダー。

吉さんが入札札を膝へ戻した瞬。

千鶴子さんが千円のマグカップを買った顔。

そして暗い部で、で泣いた夜。

私は売へ寄った。

残ったおで、の絵葉を枚買った。

机のあるラウンジへき、宛名に自宅の所をく。

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本文はだけにした。

《は、あなたがっていたよりずっと広かったよ。》

切は貼らなかった。

へ持って帰る。

常夫なら、どうせす相が同じなら無駄だと言うだろう。

へ向かうと、最初の朝に案内してくれた客係がっていた。

「杉本様、ありがとうございました」

私の名を呼んだ。

カードのではない。

部番号でもない。

私はをげた。

「こちらこそ。最初の朝、助けてもらってありがとうございました」

「またお待ちしております」

「今度はいつになるか分からないけど」

そう言うと、彼女は笑った。

「いつでも丈夫ですよ」

かもしれない。

度と来ないかもしれない。

それでもいい。

回数ではなく、度来たことが残る。

ターミナルので、吉さん夫妻と別れた。

「、絶対きますから」

吉さんが私の両を握った。

「待っています」

「返事遅いですよ、私」

「私も」

正さんが笑った。

しれたところでは、千鶴子さん夫妻が荷物を待っていた。

私は会釈だけして通り過ぎようとした。

すると千鶴子さんが呼んだ。

「杉本さん」

振り返る。

彼女はし迷ってから言った。

「またね」

「はい。また」

どちらも「次ので」とは言わなかった。

その方が自然だった。

隆さんが横で、

「へ帰ったら絵の箱をけさせますから」

と言った。

千鶴子さんが夫の腕を叩いた。

「私がけるわよ」

が言いう声を聞きながら、私はし笑った。

最初の晩、私は千鶴子さんのことが嫌いだった。

今も、好きになったとは言えない。

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