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十年分の船代で始まった一人旅

十年分の船代で始まった一人旅

青いガラスの魚 完結 4

半年前に夫・常夫を亡くした杉本は、夫が十年間積み立てた船代で一人クルーズへ出る。ところが同席した常連客・黒川千鶴子から、窓のない客室や白い会員カードを見て「十年もかけないと船旅ができない人」と毎晩見下されてしまう。杉本はついに、「お金を貯めるのに十年かかったのではなく、夫と来る日を十年間楽しみに待っていた」と静かに告げ、千鶴子を黙らせた。 千鶴子は高価な絵や乗船回数を豊かさの証しとして周囲にも押しつけていたが、勧められるまま四十二万円の絵を買いかけた吉江夫妻は、杉本の「その絵をどこへ飾りますか」という問いで思いとどまる。やがて千鶴子自身も、夫の退職後に失った肩書を埋めるため、会員ランクや高価な品に縋っていたことを認め始める。一方の杉本も、暗い客室で初めて夫の死を思い切り泣き、悲しみだけでなく自分のために旅を楽しんでよいのだと受け入れていく。 杉本は毎日眺めたいと思える二万四千円の水彩画を自分の意思で購入し、吉江夫妻も見栄のための買い物をやめた。帰宅後、千鶴子は箱に眠らせていた四十万円の絵を初めて飾り、杉本へ十年を侮辱したことを謝る。杉本は海の絵、青いガラスの魚、手作りのキーホルダーを日々の暮らしに置き、夫が残した時間を抱えながら、もう誰かの値段や物差しではなく、自分の速さで次の場所へ歩き始めた。

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