みかん小説
本棚

"昭和29年、教室から消えた子どもたち" 第10話

「卒業式のに?」

「の約束、まだちゃんと果たしてない」

「何の話だよ」

「だろ」

は自転を押して歩いた。

途、

青葉学の庭が見えた。

になれば、

またい検診が来る。

胸の写真を撮られ、

誰かが再検査になるかもしれない。

誰かが病気になるかもしれない。

それ自体はなくならない。

でも、

病気になったからといって、

そのが教から最初からしなかったことにされる必はない。

信が言った。

「夫」

「何」

「お、あのうち来ただろ」

「うん」

「母ちゃん、めちゃくちゃってたぞ」

「俺に?」

「自分に」

夫は振り返る。

「何で」

「おに嘘ついたこと」

し黙る。

「でも、あののおが来なかったら、俺たぶん学戻ってなかったとう」

「げさ」

「本当だよ」

信は自転へまたがった。

「だから今は俺が先く」

「何の話だよ」

「競争」

信がりす。

「待て!」

夫も自転へび乗った。

の。

川までの。

学へ戻ってきた信。

療養所から帰った子。

自宅へ戻った徳治。

そして、

には鉢ので燃やされかけた自分の検査結果。

全部がい話のようで、

まだすぐろにある。

川へ着く。

で自転を倒し、

へ座る。

信が竿をした。

「覚えてるか」

「何を」

「俺がいなくなるの」

「川こうって言ってた」

「やっと来たな」

夫は笑った。

「遅すぎだろ」

川面がっている。

広告

。

ずつ席が空いていった。

夫は、

あの空席の向こうに何か恐ろしい秘密があるとっていた。

確かに秘密はあった。

でも、

誰かが子供を消していたわけではない。

病気を恐れる気持ち。

族を守ろうとする気持ち。

にられたくない気持ち。

戻りたい気持ち。

そして、

病気の名だけでを決められたくないという気持ち。

それらがなって、

子供たちを教から見えなくしていた。

しばらくして、

信の浮きが沈んだ。

「来た!」

信が竿をげる。

さな鮒が面からねた。

の笑い声がに響く。

夫は空を見げた。

だった。

今も誰かが検査を受ける。

誰かがになる。

誰かが病気になる。

それでも、

そのの席まで消してはいけない。

病気より先に、

を見ること。

それが正しいのかどうか、

夫にはまだ分からなかった。

ただつだけ分かる。

誰かを守るためについた嘘が、

そのの帰る所まで奪ってしまうことがある。

だから、

隠すか話すかだけではない。

どうすればそのが戻ってこられるのか。

そこまで考えることが、

本当に守るということなのだ。

信が魚を桶へ入れながら叫んだ。

「夫、次はおの番!」

「分かってるよ」

夫は竿を握り直した。

川面へ糸を垂らす。

背には町。

その向こうに学。

の教。

もう誰かがいなくなった、

その机を片づけて、

最初からいなかったことにする必はない。

戻ってくるまで、

そこに置いておけばいい。

教科も。

箱も。

体操着も。

そして、

その子の席も。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: