みかん小説
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"昭和28年、妻が消える炭鉱町" 第12話

澄子は帳でを数えながら、ふと藤田マサを見つけた。

本来なら末に族労務へる予定だった女だ。

マサは噌と鹸を買い、帰り際にさくをげた。

「助かったよ」

「借は?」

「まだある」

マサは笑った。

「でも組からし借りて、亭主の料から返す。私も昼だけ洗濯で働くことにした」

「変ですね」

「変よ」

あっさり言った。

「でも子どもに、実へ帰ったって嘘つかんで済む」

それだけ言って帰った。

翌朝。

どのからも妻は消えなかった。

も。

も。

なくとも「料の翌朝だけ女がいなくなる」ということは、なくなった。

購買所の黒い通帳もなくなった。

代わりに、貸付帳の横には必ず本へ渡す控えが挟まれるようになった。

澄子は歳になった、購買所を辞めなかった。

は町をようかとった。

けれど森に頼まれ、帳を任されるようになった。

「数字を見るがる」

それが理由だった。

節子も週に、購買所を伝うようになった。

読みきが得な女ではなかったが、借用証や控除細を持ってくる妻がいれば、緒にずつ確認した。

「ここ、何のお?」

「分からん」

「じゃあ分からんまま判子押したらいかん」

以なら会社の男から言われた数字を、そのまま受け取っていたたちが質問するようになった。

ある、武がしい靴でへ駆け込んできた。

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「叔母ちゃん、母ちゃんおる?」

「奥よ」

靴はもうだらけだった。

の、買うはずだった靴とは別のものだ。

目は結局、騒ぎの最に茂が買った。

今履いているのは目。

子どものはできくなる。

澄子は棚の奥から古い枚の借用証を取りした。

節子が姿を消したに作った、千円の。

あれが玄関へ差し込まれていなければ、澄子は隣町へかなかったかもしれない。

黒い通帳だけを見て、「借で逃げたのだ」とい込んだかもしれない。

さな枚が、最初の答えを壊した。

節子は逃げていなかった。

夫たちも、ただ捨てたわけではなかった。

妻たちは働いていた。

働いているのに、借は減らなかった。

その理由を追うと、母の代まで続く別の帳簿がてきた。

そして最に残ったのは、「誰が悪かったか」というつの答えではなかった。

借へ追い込まれた。

仕事を失うことを恐れた夫。

を守るためにへた妻。

数字を任せにした会社。

そこへつけ込んだ。

それぞれがなっていた。

昭の。

父の回忌をに、澄子は仏壇の引きしを理した。

母が残した完済証を、しい封筒へ入れる。

表には自分の字で、

《本 返済済》

といた。

もう誰かに証するためではない。

父と母が借を残したままんだのではないと、自分たち族が覚えておくためだった。

節子が隣で見ていた。

「澄ちゃん」

「何?」

「昔、あの見つけた、怖かった?」

千円の借用証のことだと分かった。

「怖かった」

「私も作る、怖かったよ」

節子は笑った。

「もし誰にも届かんかったら、ただ借千円増やしただけやもん」

で笑った。

窓のでは、夕方のサイレンが鳴った。

仕事を終えた坑夫たちが坂をりてくる。

茂もそのにいる。

までと同じ町。

同じ。

同じ炭。

見た目には、ほとんど何も変わっていない。

けれど料の翌朝。

誰かの妻が突然いなくなっても、

「実へ帰ったそうだ」

その言だけで誰も聞かなくなる町では、もうなかった。

澄子はの帳簿を閉じた。

最の数字をもう度確かめ、鉛でさく丸をつける。

残――零。

今度こそ、その数字を消させないために。

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