"火曜日だけ「受取済」が増える町" 第11話
《未登録者の仮申請受付》
けば当たりのことばかりだった。
けれど今までは、その当たりがなかった。
野トヨが米を受け取る。
老のが受け取る。
疎帰りのも受け取る。
誰も「もう受け取っています」と追い返されなかった。
矢野は配所をれていた。
藤商には調査が入り、正規配の運搬からされた。
清吉は残った職員と緒に、しい受領票を確認していた。
俊夫と芳の順番が来た。
係員が通帳を見る。
「芳さん、分ですね」
以は父を含め分だった。
今は母だけ。
米の量は減った。
それでも芳は迷わず頷いた。
「はい」
判が押される。
《受取済》
同じ言葉なのに、俊夫にはまったく違って見えた。
今度は本当に受け取ったの判だ。
母が袋を持ちげる。
「いね」
「持つよ」
俊夫が受け取った。
以よりないはずなのに、なぜか軽くじた。
帰り、あの暮らしの老がを歩いていた。
袋を抱えている。
戦争未の子どもも、その横でさな袋を持っていた。
誰も泣いていない。
それだけのことが、俊夫には妙にきく見えた。
。
俊夫は父の帳をしい布で包み直した。
役所へ提した写しとは別に、原本はへ戻ってきていた。
父の字。
清吉の名。
藤の名。
矢野の名。
そして《芳承》。
汚れた記録だった。
だから残すことにした。
広告
「学の先に、将来何になりたいって聞かれた」
夕の、俊夫が言った。
芳が笑った。
「米はやめとき」
「何でだよ」
「もう米の帳面は分やろ」
「俺もそうう」
俊夫は笑った。
本当はまだ決めていない。
ただ、数字を見ることを嫌いにはなれなかった。
俵。
。
分。
のではさな数字でも、その向こうには族がいる。
それをったからだった。
翌の。
俊夫は学を続けながら、町内会の配補助を伝うようになった。
正式な仕事ではない。
番号を読めない老の通帳を確認したり、転入者の申請をいたりする程度だった。
ある曜。
しく町へ戻ってきたが窓で止められた。
「まだ登録が確認できません」
以なら、それで終わった。
俊夫は担当者へ言った。
「仮申請の、ありますよね」
係員が棚を探す。
はそのの分すべてではないが、臨の配を受けることができた。
帰り際、幼い子どもが米袋を抱えて笑った。
俊夫は父のことをった。
父がやったことを正しかったとは言わない。
母のやり方も。
清吉も。
矢野も。
善だけで許せることではなかった。
だが、彼らが作った歪んだ仕組みのに、本当に助かったがいたことも消せない。
そして、その善を利用して米を奪ったがいたことも消せない。
切なのは、どちらかつだけを見て全部を決めないことなのだと、俊夫はしずつ分かり始めた。
へ戻ると、芳が父の判子をしていた。
「どうしたの」
「布が古くなったから包み直そうとって」
俊夫は隣へ座った。
さなの判子。
これで、んだ父が帳簿のではき続けた。
を助け。
正を隠し。
正を暴くがかりにもなった。
芳がしい布で包む。
「もう押すことはないね」
「ああ」
俊夫は父の帳を仏壇の引きしへ入れた。
その横へ判子を置く。
隠すためではない。
忘れないためだった。
では、配所へ向かう々の声が聞こえている。
今は曜。
以なら、誰か軒が窓でち尽くすだった。
けれど今はもう、
受け取っていないに、
《受取済》
の判が先に押されることはない。
なくとも、この町では。
俊夫は引きしを閉じた。
その初めて、父の最の帳面が本当に終わった気がした。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
一着の学生服を分けた双子
昭和41年、東北の小さな中学校。担任の三浦は、双子の信夫と昭夫が一日おきにしか登校しないことに気づく。 二人が交代で使っていたのは、一着の学生服と一枚の定期券。片方が学校で学ぶ間、もう片方は材木店で働き、夜になると同じノートで授業を分け合っていた。 だが三浦が家庭を訪ねると、家計簿には《四月から 一人》という不審な記録が残されていた。それは進学できる人数ではなく、卒業後、双子の一人を借金の代わりに材木店へ差し出すという意味だった。 「兄ちゃんの代わりに、俺を雇ってください」 弟が自ら材木店を訪れた翌日、店主は三浦へ思いがけないことを告げる。 「借金が十万円以上残っていると、本気で思っているのか」 一着の制服に隠されていた家族の秘密。十五歳の兄弟は、なぜ存在しないはずの借金のために、自分の未来を差し出そうとしていたのか。時代|歴史|昭和1.7万字5 69 -
完結第12話
昭和28年、妻が消える炭鉱町
昭和28年、筑豊の炭鉱住宅では、給料日の翌朝になると妻たちが一人ずつ姿を消していた。兄嫁・節子までいなくなった澄子は、夫たちの前借金と失踪が記された帳簿を発見する。 女たちは借金返済のため、夫と炭鉱の了承のもと隣町の選炭場へ送られていた。しかし賃金から宿代や紹介料を引かれ続け、働いても借金は減らない。節子は不正を疑い、失踪後にわざと新たな借用証を作らせ、二つの帳簿を比較しようとしていた。 節子に頼まれた澄子が五年前の帳簿を調べると、事故で亡くなった父と母の署名、そして《完済せず》の文字を見つける。兄嫁たちだけでなく、自分の家族も昔から同じ仕組みに組み込まれていたのだった。時代|歴史|昭和1.8万字5 2263 -
完結第10話
昭和29年、教室から消えた子どもたち
昭和29年春、青葉中学校では結核検診の後、生徒が一人ずつ「転校した」と告げられ、姿を消していった。親友までいなくなった和夫は、その机から《要精密検査》の通知を発見する。 しかし消えた生徒たちは、本人や家族に結核の疑いがあるため、偏見から守ろうと学校が事情を伏せていただけだった。やがて和夫自身も再検査となり、病気以上に噂や差別が人を追い詰める現実を知る。 和夫の働きかけで学校は方針を改め、休んだ生徒の席を残すようになる。信一や洋子も教室へ戻り、病気の名前より先に、その人自身を見る大切さが静かに広がっていった。時代|歴史|昭和1.5万字5 336 -
完結第16話
給料袋を取り上げる姑と、娘の進学
昭和38年、娘・恵子を高校へ進ませるため食品工場で働き始めた典子は、初給料を姑タツに玄関で取り上げられる。家計簿を調べると浪費の跡はなく、給料は貯金されていた。しかし、その名目は《正人・高校進学資金》。家族の将来から、娘の進路だけが最初から除かれていた。 典子は自分名義の口座を作り、少額ずつ恵子の受験資金を蓄える。隠し貯金が発覚すると、タツは「家の金を隠した」と激怒。タツ自身も弟の進学のため学業を諦めた過去があり、「男に教育、女は家」という価値観を、自分の人生を正当化するため孫娘にも押しつけていた。 願書締切の日、逃げ続けていた夫・浩一が初めて「恵子に受けさせよう」と決断する。恵子は合格し、タツも完全には考えを改めないまま通学鞄代を差し出した。次の給料日、タツはもう封筒を奪わず、典子は自分で決めた生活費だけを渡す。家族は壊れたのではなく、ようやく「一人が全員の人生を決める家」ではなくなった。時代|歴史|昭和2.4万字5 510 -
完結第10話
帰れなかった実家
昭和30年、房子は父危篤の電報を受け取るが、姑タミから「この家の嫁なら実家へ帰るな」と命じられ、夫・正雄にも引き止められる。翌日、法事の最中に父の訃報が届き、房子は最後の別れを奪った姑と夫に心を閉ざした。 五年後、今度はタミの姉が倒れる。房子に過去を突きつけられたタミは、自分も若い頃、姑に母の葬儀へ行かせてもらえなかったと告白する。苦しみに意味があったと思うため、同じ理不尽を嫁へ受け継がせていたのだ。それでも房子は、姉が生きているうちに会うようタミを送り出した。 二人がすぐ親密になることも、房子が過去を忘れることもなかった。しかしタミは、嫁いでいく孫娘に「ここもあなたの家。帰りたい時は帰りなさい」と伝える。房子が姑を完全に許したからではなく、「自分がされたから次の人にもする」という鎖を止めたことで、家族の価値観は一世代をかけて変わり始めた。時代|歴史|昭和1.4万字5 249