"夫を亡くした翌日、社宅を追われました" 第3話
そこから病院への会社替分。
社員貸付の残り。
葬儀費の部。
細かな控除が引かれた。
最に提示された数字を見て、紀子はわず聞いた。
「これだけですか」
担当者は目を伏せた。
「規定ですので」
またその言葉だった。
。
毎朝半にをた。
休勤。
夜勤。
指に残った械油。
病院へく直まで「はる」と言っていた夫。
それらが、枚のの数字に変わっている。
正が母の袖を引いた。
「母さん」
紀子はを閉じた。
帰ろうとすると、成瀬が廊で待っていた。
「藤田さん、しよろしいですか」
別へ通された。
先玄関へ来た若い社員もいた。名札には《松崎》とある。
成瀬が切りした。
「社員堂で働くお考えはありませんか」
紀子は聞き返した。
「私が?」
「炊事婦が辞める予定でして。経験は問いません。ご主のこともありますし、紹介はできます」
提示された賃は決してくない。
それでも毎定の収入になる。
紀子は初めて、目のに本のが見えた気がした。
「むところは?」
「女性従業員用の宿舎があります」
成瀬の言葉に、紀子はを乗りした。
「族も入れますか」
成瀬の表が曇った。
「さなお子さんまでなら」
紀子は黙った。
「正君は歳ですから、み込みの職業を探すこともできますし、お母様はご親戚に……」
「つまりでは入れないんですね」
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「規則は」
紀子はちがった。
「結構です」
「母さん」
正が驚いている。
「せっかくのお話ですが、族をつに分けるために働くつもりはありません」
廊へると、正が追ってきた。
「なんで断るんだよ」
「聞いてたでしょう」
「俺は別でいい」
「またその話?」
「み込みで働けばいいんだよ」
紀子はを止めた。
「それで正が学をやめたら、何のためにお父さんが働いてきたの」
「んだの話ばっかりするなよ!」
正の声が廊へ響いた。
数の社員が振り返る。
正は唇を噛んだ。
「しかないんだぞ」
その言だけ言って先へ歩いた。
帰り、紀子は息子の背を見ながら、自分より正の方が現実を見ているのではないかとった。
その怖さを打ち消すように、翌からを探し始めた。
しかし、未。
の子ども。
齢の姑。
固定収入なし。
その条件を伝えるたび、産の顔は目に見えて曇った。
「保証は?」
「兄がいます」
「勤めですか」
「さな印刷をしています」
「でですか……」
話が途で終わることもあった。
軒だけ、貸してもいいというが見つかった。
呂なし。
駅から徒歩分。
根の部から漏り。
それでも紀子には分だった。
問題は敷だった。
払えない。
帰り、紀子は気のない神社の裏でち止まった。
泣いても何も変わらないと分かっていた。
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それでも涙がた。
へ戻ると、正がいなかった。
そしてその夜過ぎ。
息子は茶封筒をつ持って帰ってきた。
には、紀子が今必としている敷よりいが入っていた。
「何のお?」
正は答えた。
「就職の支度」
「川崎の部品。寮がある」
正はそう言った。
担任から紹介されたではなかった。学代の同級の兄を通じ、自分で話を聞きにったという。旋盤の見習で、み込み。支度は入社に部を受け取れる。
紀子は封筒を閉じた。
「返してきなさい」
「なんで」
「へくの」
「このがあれば、さっき見た借りられるんだろ」
「正」
「ばあちゃんも緒にめる。子も転しなくて済む。浩も幼稚園の友達と別れなくていい」
「返しなさい」
「俺がくために、みんなばらばらになる方がおかしいだろ!」
紀子も声をげた。
「歳のあなたにを背負わせる方がおかしい!」
正は畳へ封筒を叩きつけた。
「じゃあ母さんが何とかしてみろよ!」
部が静まり返った。
トメも、子も、浩もいる。
紀子は震えるを握った。
「怖いの」
正の顔が変わった。
「何が」
「あなたが今、学を諦めたら、もも『あの仕方がなかった』って言う気がするの」
「……」
「父さんがんだから。を追いされたから。がなかったから。だから学へけなかった。
だからこの仕事しかなかった。だから今さら変えられないって」
正の目に涙が浮かんだ。
「そんなふうに、歳のだけであなたの先を全部決めさせたくない」
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