夫の葬儀を終えた翌日、会社から一枚の紙を渡された。 《社宅は三十日以内に明け渡してください》 十二年暮らした家から、突然追い出されることになった紀子。 手元にあるのは千六百二十円。 残されたのは、三人の子どもと年老いた姑だった。 会社から社員食堂の仕事を紹介されるが、宿舎へ入れるのは幼い子ども二人だけ。 「俺が高校を諦めて働く」 十五歳の長男・正明はそう言ったが、紀子は決して認めなかった。 ところが退去期限まで、あと十七日となった夜。 正明が突然、見たこともない大金の入った封筒を持ち帰る。 「これで敷金が払える。みんな一緒に暮らせる」 その金は、正明が自分の未来と引き換えに受け取った「支度金」だった。 家族を救うためなら、子どもに人生を諦めさせてもよいのか。 家を失った母が選んだのは、五人で暮らすことでも、息子の犠牲を受け入れることでもなかった――。