"夫を亡くした翌日、社宅を追われました" 第4話
「じゃあ誰が困るんだよ」
「私が困る」
「母さんで?」
「そうよ」
紀子は息子を見た。
「まずが困るの。子どもより先に」
正は何も言わなかった。
翌朝、茶封筒はなくなっていた。
返しにったらしい。
紀子は堵した。
同に、自分が正のを返させた以、もう「仕方なかった」という逃げは自分にもないとった。
そのの午、学から帰ってきた子がの男を連れてきた。
浜械の松崎だった。
葬儀の翌に成瀬と緒に来た若い社員である。
「突然すみません」
松崎は玄関でをげた。
「藤田さんの机とロッカーを理しまして。会社の物ではなさそうなものが残っていましたので」
古い具箱。
煙入れ。
さなノート。
そして具の錆びた文箱。
紀子は縁側でつずつけた。
修の字があるだけで胸が痛んだ。
具の寸法。
交替勤務の予定。
正の説会の付。
《浩 歯医者》
《子 百円》
では何も言わなかったことまで細かくいてある。
文箱の底に、緑のさな通帳があった。
表には、
《浜械従業員宅積》
と印刷されている。
紀子は初めて見るものだった。
毎百円。
いには百円。
以続いている。
残は万千百円。
紀子は目を疑った。
今の自分にはだった。
これだけあれば、あの貸の敷を払ってもまだ残る。
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「こんなおが……」
ところが最のページを見た瞬、指が止まった。
昭。
《全額払戻》
残――零。
修がくなる、およそかだった。
「使ったの?」
紀子は呟いた。
にはそんなは入っていない。
病院代にも見当たらない。
貯通帳にもない。
松崎が通帳を覗き込み、顔を変えた。
「これ……」
「何ですか」
「いや」
松崎はを閉じた。
紀子は見逃さなかった。
「何かってるんですか」
若い社員は迷った。
やがて、さな声で言った。
「藤田さん、くなるに宅のことで何度か総務へ来ていました」
「宅?」
「社宅をる話を……自分からしていたんです」
紀子はを疑った。
夫は自分がぬかから、
族がこの社宅をることをっていた。
では万千百円は、どこへ消えたのか。
翌朝、紀子は宅積通帳を持って浜械へった。
成瀬へ見せると、総務課はらかに困った顔をした。
「これは共済会の扱いですね」
「払戻し先を教えてください」
「個報ですので」
「夫のものです」
「確認します」
「今確認してください」
昨までの紀子なら、ここまでく言えなかったかもしれない。
だがでをろと言われ、その期限は毎ずつ減っている。
に回す余裕はなかった。
ほど待たされた。
共済会の古い台帳が運ばれてきた。
担当の老が指でを追う。
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「藤田修さん。全額払戻し、万千百円。現交付ではありませんね」
「ではどこへ」
老が次の欄を読んだ。
「営宅申込、並びに入居保証預託へ振替」
紀子はが分からなかった。
「営宅?」
成瀬が目を伏せた。
修は、郊に建設だった営宅へ申し込んでいた。
病院で自分の病状がったより悪いと聞いただったらしい。
申込の族欄には、
妻・紀子。
男・正。
女・子。
次男・浩。
母・トメ。
全員の名がいてある。
「私には何も……」
「ご主からは、抽選結果がてから話すつもりだと聞いていました」
松崎がろから言った。
紀子は類を見続けた。
修はで度もそんな話をしなかった。
病気が治れば、社宅へみ続けられる。
だから余計な配をかけたくなかったのだろう。
あるいは、自分がぬ能性を妻へ言えなかったのかもしれない。
「この宅はどうなっていますか」
成瀬は類を枚めくった。
「ご主がおくなりになったため、申込変更の続きが必です」
「変更すれば入れるんですか」
「抽選です。確実ではありません」
紀子の期待がしがった。
それでも、申込が戻るならを借りるにできる。
「続きします」
すると共済会の老が、別のを指した。
「ただし、遺族承継の申請期限があります」
「いつまでですか」
老が付を確認する。
「から以内です」
紀子はきを止めた。
社宅をる期限と同じだった。
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