"震災から半年ぶりに帰った家には、知らない家族が住んでいた" 第3話
松田には分の領収。
崎には震災の契約。
同じに、つの「正しい」というがしている。
ならば、そのつを作った主が何を言うのか。
千代はそれを自分ので確かめたかった。
弥兵のは、松田の焼け跡から歩いて分ほどれた所にあった。母は震災で部焼けたものの、裏の蔵とれは残っており、周囲のバラックと比べればずいぶん派に見えた。弥兵は代半の柄な男で、庄吉の顔を見るなり困ったように眉をげた。
「きていたのか、松田さん」
庄吉の顔がくなった。
「んだとってたのか」
「そういうじゃない。半も音汰がないから、千葉へ移ったものと」
「脚を怪したことはってただろう」
「聞いていたよ。だからこそ、もう京へ戻れないのかとったんだ」
庄吉は代の領収を畳へ並べた。
「俺はここへ払ってきた。震でが焼けたからって、借りていた事実まで焼けたわけじゃない」
弥兵はへ目を落としたが、すぐに首を振った。
「震災のあと、代は度も入っていない」
「払える状態じゃなかった」
「それは皆同じだ」
「だから勝にへ貸したのか」
「勝じゃない」
弥兵は崎との契約の控えをした。
「の点では空いていた。松田さんから戻るという連絡もない。
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焼け跡をいつまでも放っておくわけにはいかなかった。崎さんはを失った子どもを抱えていた。私は困っているへ貸しただけだ」
正しいことをしているような調だった。
千代はを挟んだ。
「でも父は借りるのをやめるとは言っていません」
弥兵は千代を見た。
「お嬢さん、震災のあと何が起きたかっているだろう。何万ものがを失った。誰が戻るのか、誰が戻らないのか、待っていたら何も建てられない」
「だからって」
「それに」
弥兵が庄吉へ目を戻した。
「あなたとは震災のあと、度話をつけたはずだ」
部の空気が変わった。
千代は父を見た。
庄吉の頬がわずかに引きつった。
「何の話だ」
「忘れたとは言わせない」
「俺は何も」
「に度、私のところへ来たでしょう」
千代は父からそんな話を聞いたことがなかった。
弥兵は続けた。
「脚を引きずってね。千葉へくもないと言うから、私は助けた。のことはこちらで理しておくと言ったら、あなたも分かったと答えた」
「俺はを返すとは言ってない!」
庄吉がちがった。
「声を荒らげても仕方ない」
「何をした。あのの話を、勝にけ渡しにしたのか」
「勝かどうかは、こちらにも記録がある」
「見せろ」
弥兵はすぐにはさなかった。
「古い類を探さないと分からん」
庄吉はさらに詰め寄ろうとしたが、千代が腕をつかんだ。
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帰り、父はほとんどをきかなかった。
千代は何度か尋ねた。
「にさんのところへったの?」
「った」
「どうして今まで言わなかったの」
「関係ないからだ」
「関係あるでしょう」
「を返すとは言ってない」
それだけを繰り返した。
千代のに、初めて父への疑いがまれた。
翌から彼女は、震災の所のを訪ね始めた。
豆腐だった野は浅へ移っていた。向かいにんでいた老女のトキは、寺の裏のバラックで暮らしていた。トキは松田が以あの所にいたことを覚えており、庄吉が毎代を払っていたこともっていた。
「でもねえ」
トキはいすように目を細めた。
「震のかあとだったかね。庄さん、度戻ってきたよ」
千代は息を止めた。
「京へ?」
「うん。脚を包帯で巻いてね。さんの方へくって言ってた」
父の話と致した。
「何しにったかってますか」
「さあ。でも帰りに、握り飯をたくさん買ってたよ。薬にも寄った。が入ったんだなとったけど」
千代はへ戻り、父の具箱をけた。
焼け焦げた鉋。
錐。
曲尺。
代の領収。
底板をすと、が枚挟まっていた。
震災直の付。
《正》
そのに、
《円也 確かに受領》
とかれている。
受取は――松田庄吉。
千代のが止まった。
父は主からを受け取っていた。
しかも族の誰にも、そのことを話していなかった。
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