"震災から半年ぶりに帰った家には、知らない家族が住んでいた" 第4話
「これ、何のお?」
その晩、千代は受取証を父のへ置いた。
庄吉はを見た瞬、顔を背けた。
おふみが息を呑む。
正には聞かせたくなかったため、母は弟を隣のへ使いにした。狭い部には油ランプのが揺れ、から材を打つ槌の音が聞こえていた。
「お父さん」
「見れば分かるだろう。円だ」
「そうじゃない。何のおか聞いてるの」
庄吉は答えなかった。
代わりに、おふみが膝のでを握った。
「千代」
「お母さん、ってたの?」
母はゆっくり頷いた。
震災の直、庄吉の脚は今よりずっと悪かった。正は避難先でをし、医者に診せるにも薬を買うにもがった。持ちした現は事の混乱のでほとんどなくなり、千葉の親戚宅までく汽賃さえりなかった。
そこで庄吉は、怪を押して本所へ戻った。
「さんに、に納めていた分からし返してもらえないかって頼んだんだよ」
おふみが言った。
「円くれた。そのおで正の薬も買ったし、千葉までけた」
千代は父を見た。
「その、の話は?」
庄吉の顎がいた。
「『しばらく戻れないなら、こっちで理しておく』とは言われた」
「何て答えたの」
「怪した脚でってるのがやっとだった。正はをしてる。そんなに細かい話ができるか」
「でも受け取ったんでしょう」
「は受け取った」
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「じゃあさんは、それをけ渡しのおだって」
「俺はそんなつもりで受け取ってない!」
庄吉の声が部に響いた。
「を返すなら、そういたに判を押すだろう。これはただの受取証だ。見ろ。どこにを返すといてある」
確かに表には額と付、庄吉の名しかない。
千代はを裏返した。
そこで指が止まった。
裏面の端に、い鉛の跡がある。
何度も擦れ、半分消えかけていた。
《……理》
最初の文字は読めない。
理なのか。
理なのか。
別のなのか。
「これ、最初からいてあった?」
庄吉はを取りげた。
目を凝らす。
「らん」
「らないって」
「受け取ったは表しか見てない」
「どうしてちゃんと確かめなかったの」
庄吉の顔が歪んだ。
「じゃあ、どうすればよかった」
千代は黙った。
「正をのまま寝かせておけばよかったのか。おたちを焼け跡に置いて、の権利がどうだと何も話せばよかったのか」
「そんなこと言ってない」
「同じだ!」
庄吉は受取証を畳へ叩きつけた。
「俺は族をかすためにを受け取った。を売ったんじゃない。借りるのをやめたんでもない。になれば戻るつもりだった。それの何が悪い」
千代は何も返せなかった。
父は嘘をついていた。
しかし、その嘘のには族を助けた円があった。
父を責めれば、あの自分たちがそのでき延びたことまで否定するようにえた。
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翌朝、千代はでさよを訪ねた。
「崎さん」
「はい」
「契約した、さんに百円払ったって言いましたよね」
「ええ」
「受取証、残っていますか」
さよは奥から箱を持ってきた。
をく。
《百円也》
確かにいてある。
千代は、自分の父の円の受取証と並べた。
主から円を受け取った旧。
主へ百円を払った。
同じを挟んで、が反対方向へいている。
「崎さん」
千代は言った。
「さんの帳簿を見たことありますか」
「いいえ」
「私は見たい」
父が本当にを放したのか。
崎の百円は何のだったのか。
答えは、枚の受取証だけでは分からない。
しかし千代はこの、初めて気づいた。
父と崎のどちらか方が嘘をついているとは限らない。
とも、本当のことを言っている能性がある。
だとすれば――に違う説をしたがいる。
弥兵は帳簿を見せることを拒んだ。
「のの帳面を見せる義理はない」
千代とさよがで訪ねると、弥兵は骨に嫌になった。さよが百円の受取証をしても、「それは契約にまとめて受け取っただ」と言うだけで、内訳を説しようとしない。
「では、百円全部が代なんですか」
千代が尋ねると、弥兵はで笑った。
「の娘がの話にをすものじゃない」
「でも数字は読めます」
「親父さんに言われて来たのか」
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